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SXSWで話題となった“食転送(食のテレポーテーション)”って何? “転送寿司”発案者に聞く

「東京では世界中の料理が食べられる」と良く言われますが、本物とはちょっと違う“〇〇風”のものだったりすることも多々あります。アメリカのフィラデルフィア名物、“チーズ・ステーキ・サンドイッチ”や、カリフォルニア州南部のメキシコ系移民が作る肉の塊がゴロゴロ入ったブリトーやタコスなどは、現地に行かないと食べられない味だったりします。ドラえもんがいれば、どこでもドアを使ってあっという間に食べに行けるのですが……。

どこでもドアを使って物理的になかなか行けない場所の食べ物を食べに行くのではなく、食べ物の味をデータ化して転送、データを受信した“ピクセル・フード・プリンター(Pixel Food Printer)”という3Dプリンターで食用ゲルにデータを出力し、味を再現するという画期的なプロジェクトが日本企業を中心としたプロジェクトチームによって進められています。

「転送寿司」コンセプトムービー / “Sushi Teleportation” concept movie(YouTube)
https://youtu.be/dSdPfKmOoDw

“食転送(食のテレポーテーション)”の実現を目指しているのは電通、山形大学、デンソーウェーブ、東北新社の共同プロジェクトチーム、“Team Open Meals(以下、Open Meals)”。Open Mealsは、米テキサス州オースティンで開催された『サウス・バイ・サウスウエスト2018(SXSW2018、以下、SXSW)』で、3月11日~14日までの4日間、“食転送”のプロトタイプ第一弾となる“転送寿司(スシ・テレポーテーション、Sushi Teleportation)”の展示を行いました。

Open Mealsの役割分担ですが、電通がプロジェクトの発案・企画・プロデュース、山形大学が3Dフードゲルプリンターの開発、デンソーウェーブがロボットアームの開発・制作、そして東北新社がプロジェクトマネジメント・映像制作をそれぞれ担当しています。今回、“転送寿司”を発案した張本人で、株式会社電通クリエーティブ局所属の担当者ご本人(以下、電通担当者)に話を聞くことが出来ました。

SXSWでの“転送寿司”ブースでは、寿司職人の代わりに“ピクセル・フード・プリンター”が寿司を“握り”ます。

―“転送寿司”はSXSWでかなり反響があったようですが、実際にはどうだったのでしょうか?

電通担当者:正確な人数は公表しておりませんが、4日間の展示期間中は常にブース前に人だかりができているほど来場いただきました。2日目以降はウェブ、SNS、現地のウワサを聞きつけて“転送寿司”ブースを目当てに来場する人も多くいました。3日目には「スシ・テレポーテーション」というと「あれは面白かった!」と、誰もが知っているコンテンツになっていました。SXSW出展により、提携オファー21件、イベント招致8件、投資オファー5件、取材掲載多数と、多くの反響をいただいております。配った説明チラシは4000枚超、名刺は400枚超だったと思います。

―“食転送”の味の再現率はどうなんでしょうか?

電通担当者:SXSW出展に際しては、味の再現はしていません。以前、おでん大根を再現した際は、食感・味・見た目含めて、ほぼおでん大根を再現できました。寿司は発展途上ですが、美味しくする事自体はそれほど難しくありません。我々の課題は、転送元の料理の味を細密に再現できるかです。ここが今後の研究開発のポイントになります。できると確信して進めています。

“デジタル・おでん”のおでん大根

―味の再現率100%は達成するのはいつ頃を目処に計画しているのでしょうか?

電通担当者:まだ目処は立っていません。100%となるとおそらく10年は先だと考えられます。味だけに限らず、食感や見た目の再現率向上にあたっては、複合的な技術向上と、食の研究機関、多くの資金が必要だと考えています。資金が多く集まれば実現スピードは高まります。

―“食転送”の出発点といいますか、発想の原点はどこにあるのでしょうか?

電通担当者:発案は3年ほど前になります。そこから産学共同のプロジェクトがスタートしました。 目的は、あらゆる料理をデータ化し、世界中の人々がダウンロードして出力し、食べられるプラットフォームを作ることです。例えて言うと“食版 iTunes”のようなエコシステムの実現です。発案の動機は単純に、ワクワクするからです。宇宙の恋人に手料理を転送できるとか素敵ですよね。

そもそものきっかけは、とある記事で“食の味データを数値化する技術”を知ったことが発端です。例えば、世の中の印刷物は CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4成分による色の表現法)の4原色で全て表現することが可能です。これを食に置き換え、甘味(Sweet)、酸味(Sour)、塩味(Salty)、苦味(Bitter)から成るSSSBという味の4原色で、あらゆる料理の味を再現できるのではと、ふと思いたことがきっかけとなります。そこから3年で味だけでなく、形状・食感・栄養素もデータ化できないか、出力方法など、様々な研究を重ねて現在に至っております。

―プロジェクトチームのほうで近々の課題となっている項目はどういったものでしょうか?

電通担当者:今後の研究課題は以下となります。

(1)ピクセル・フード・プリンター内部構造の設計・開発
(2)極小キューブ作成方法と、高速で接着しながら積み上げる精度の向上
(3)出力する料理のベースとなる素材の研究・開発(現状は食用ゲルを検討中)
(4)出力する料理の美味しさ(味、香り、食感 など)の向上
(5)取得した料理データを、出力データに変換するアルゴリズム開発
(6)味、食感、栄養素などの料理データの取得技術の研究・開発

そして、何より開発資金が課題です。SXSWでの出展により、世界中の企業・研究者・投資家の方々に興味を持って頂いておりますが、思いとしては、日本チームで開発できると良いなと思っております。

“ピクセル・フード・プリンター”から5ミリ程度の大きさの食用ゲルキューブを出力するのですが、現段階では見た目がピクセル状のおもちゃみたい

―「様々な料理に対応できる食用ゲルを開発」も今後の課題のようですが、何百万通りにもなるであろう味を臨機応変に再現できる食用ゲルは開発可能なのでしょうか?

電通担当者:食用ゲルの開発は山形大学、食品メーカーの最新研究部門、ゲル開発メーカー、料理人などと共同で開発を行っていきます。まだ構想段階の部分が多く、オープンイノベーションによって実現しようとしているところです。

―“転送寿司”が実用化されたら、消費者にとっては「一流レストランの味をデータでデリバリーしてもらって自宅で再現」という夢のようなことが現実になるかと予想できます。逆に外食産業や宅配フード産業には衝撃が走るかと思います。プロジェクトチームのほうでは、どういった地殻変動が起きると予想していますか?

電通担当者:本当に技術が進歩して“ピクセル・フード・プリンター”が一家に一台時代になると、一時的に外食産業が打撃が受けるかもしれません。しかし我々の予想では、しばらく経つと高品質なレストランの価値は向上すると考えられます。例えるなら、音楽業界で音楽がデータ化し、いつでもどこでもダウンロードできるようになって以来、リアルなライブやフェスの価値が高まったように。

情緒料理人との会話を含む生の素材や迫力は、エンターテイメント性の高い“体験”としての価値が高まるので、人々はデータ食とリアル食を、TPOや気分にあわせて使い分ける時代になるはずです。

他展開の可能性として、宇宙空間での活躍が期待されます。宇宙では今後長期の滞在や、移住も考えられるので、その際に地球から料理転送が出来る様になります。オリンピックなどの国際的な祭典で、世界中の料理をダウンロードして食べられるレストランを出展して国際交流を測る、というのも面白いかもしれません。

“転送”という価値以外にも、料理をパーソナライズできるという価値の側面があります。健康上、または宗教上の理由で食べられない食材や料理があるとします。例えば、“ハンバーグ”が食べられない料理に該当するのであれば、味・形・食感はそのままで、素材や栄養素を自分に合ったものに変えて出力することが可能になります。

アーティストや子供が好きな形にデザインしたものに、味・食感・栄養を選んで食べることも可能です。その他にも“転送寿司”は多くの可能性を秘めています。

―ありがとうございました。

筆者が生きている間に実現してくれと強く願わんばかりのプロジェクトですが、まだまだ乗り越えないとならない壁は多いようです。Open Mealsでは、「現在、食転送の実現を目指すパートナーを探しています」ということです。「是非、協力したい」ということであれば、「Open Meals公式サイトのコンタクトからお問い合わせください」とのこと。実現すれば、『ファミコン』・『ウォークマン』・『絵文字』と並ぶ日本オリジナルの発明品となりそうです。

Open Meals公式サイト [リンク]
http://www.open-meals.com/

※画像:電通提供

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