『水道橋博士のメルマ旬報』過去の傑作選シリーズ ~ある日のマッハスピード豪速球ガン太~(vol.1)
芸人・水道橋博士が編集長を務める、たぶん日本最大のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』。
過去の傑作選企画として、かつて水道橋博士の運転手も務め、現在、気鋭の芸人として活躍中のマッハスピード豪速球ガン太さんによる連載『ハカセードライバー』から、僕が大好きな原稿を無料公開でお届けします。
是非、お手すきの時に一読ください。(編集担当/原カントくん)
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初めまして!の方もご存知の方も読んで頂けて光栄でございます。
わたくし名前を[ガン太]と申しましてオフィス北野で[マッハスピード豪速球]と言うお笑いコンビで活動しています。
特技はコントでコンビでのネタ制作はボク担当です、自分で言うのも何ですが結構面白いコントをやります。
ネタを作れるのだから頭の良い人、教養の備わった賢い人、何て思われる事が度々あるのですが、はっきり言ってボクはバカです、謙遜してのバカとかではなくかなり手ごたえのあるバカです。漢字は小2まで習ったものしか書けません、地理も23区言えないしですし、日本地図がどういう構成であの形になっているのかチンプンカンプン。
英語も中1の授業二回目で諦めてしまったので喋れない読めない書けない。
歴史もかなりヤバい!どのくらいヤバいか例をだして説明したいですが歴史を知らないと例を出す事も出来ない始末。
こういう人は大体映画や本に明け暮れたり芸能に強烈にのめり込んだりラジオ聴いたり何かのオタクになったりして青春を過ごし突出して詳しい事とかがあるものですが困った事にそちらも全くノータッチ、そんな感じで生きてきたボクは教養ゼロ人間なのです。(ヤンキーでも無い。)
そんなバカなボクの人生に神様はとんでもないイタズラを仕掛けます。
ボクはある日突然、教養、知識、学の塊のような存在[水道橋博士]の運転手になるのです・・。
お笑い芸人をはじめて七年目の5月の事、あの日の事は今でもはっきり覚えています。
当時4年ほどお世話になっていた割烹料理屋のお昼のアルバイトが終わり携帯を見るとマネージャーから”水道橋博士からお話があるようなので電話してください。”と言う内容と博士の電話番号・・。
ボクは事務所がオフィス北野と言う事もあり、その日までに三度程、水道橋博士にお会いになる機会があったにせよ、ほとんどまともに話した事の無い状態・・着替えることも忘れ
割烹着のまま電話をかけました。
「もしもし、水道橋です・・」
「あ・・すいません、あのマッハスピード豪速球のガン太です・・」
「うん、キミさ運転免許ある?」(ヒソヒソ声)
「?はい、あります。」
「うん、ごめんね今病院で声出せないから声小さくしゃべらなきゃいけないんだけど」
「あ、はい・・」
「今運転手を探しているんだけどキミやらない?」
「あ、やります。」(何故かボクもヒソヒソ声)
「あ、本当?じゃあ詳しい話は秘書のスズキ君と連絡とって下さい。」
「はい・・。」
“ガチャプープー”
と何故かヒソヒソ声のまま突然ボクは水道橋博士の運転手になってしまったのです!
そのままスズキ秘書(博士の身の回りの全てを行う方)と連絡をとり、初日はいつでもいいと言う事だったのですが、その日の夜に行くと伝え、そのまま割烹料理の店主に事情と本日からアルバイトを辞めると言う唐突過ぎる事情を伝えると、
「分かった!何とかするからやってこい!頑張れ!チャンスだな!」
と店主の理解と男気に助けられ、ボクはその日の夜から[ガン太]の対義語のような存在[水道橋博士]の運転手を結果として1年間させて頂く事になったのです。
(石神井公園駅『とりで』というお店でバイトしてました。少しでも宣伝になれば・・)
この日からボクの生活は一変する訳ですが”気難しい””すぐ怒る””何考えているか分からない””コワい”という当初の博士のイメージが運転手を日々重ねていくにつれ覆っていき、ボクは水道橋博士の人間性にどんどんと惹かれていくのでした。
一方、ボクがこれ程に教養ゼロ何もできない人間、なんて事を知らなかった博士からしてみれば完全なハズレくじを引いたわけで、話も噛み合わない道も知らない運転も下手で車を擦りまくるボクはいつクビになってもおかしくない状況だったのですが、博士は見切ることなく面倒を見て下さったのです。
そんなゼロの人間のボクに博士が最初にしたアドバイスが
「パソコンくらい使えるようになれ!」でした。
余りにも低レベルすぎる話ですが、その頃ボクはパソコンを使わずに生きていました、
ボクは言われるがままその日から博士が練習用に用意して下さったパソコンでタイピングの練習をする事にしました。
どう練習していいか分からなかったのでとりあえず博士と過ごす日々の日記をパソコンで書く事にし、そのまま保存しておくのももったいないので出来上がるとそれを自分のブログにアップしていました。するとそれを博士本人が読んで下さり思いのほか面白がって下さるようになっていき、遂には水道橋博士のメルマガ【メルマ旬報】で『ハカセー・ドライバー』と言う連載させてもらえる事になったのです。
とここまでは4年近く前のボクと博士の関係性の始まりの話しで、ここからが本題です。
[水道橋博士]著書の【藝人春秋2】が2017年11月30日に上下巻同時発売されました。
【藝人春秋2】は2013年4月から2014年4月まで週刊文春で連載されていた【週刊藝人春秋】を単行本化したものです。
前置きが長くなりましたが実はこの2013年4月から2014年4月と言うのが、まさにボクが博士の運転手をしていた時期と丸被りなのです!
つまり『藝人春秋2』の中のお話のほとんどにボク視点の思い出がある訳で、実際にこの本の下巻では当時ボク視点で書いた原稿が(当時ある理由でボツになった)証拠の機密文書として記載されています。(上巻3章で[マッハスピード豪速球]の事が書かれています。)
先ほども記しましたがボクはこの期間【メルマ旬報】の「ハカセー・ドライバー」と言う連載で水道橋博士の日常やテレビ出演の裏側を記すコラムを月二回で連載をしていました。(現在は月一回連載)
【藝人春秋2】を読み終わった方のあるツイートで”藝人春秋2ロス”というつぶやきを目にしたのですが、きっと藝人春秋2を読み終わりこのような状況に陥っている人は少なくないと思います・・ボクはふと思いました、これは当時のボクのコラムを沢山の方に読んでもらえるチャンスなのではないのか?
藝人春秋2ロスに陥っている人になら当時の博士の様子や藝人春秋2の補足になるような内容の、あの頃のボクのコラムに興味を持っていただけるんじゃないかなと思い、今回本来ならメルマ旬報を購読しなければ読めない過去のコラムを自分なりにまとめて無料で読めるようにしてみました。
~藝人春秋2上巻『マッハスピード豪速球』の章があります、まずはその章の重複になってしまう内容ですが一応ボク側から書いたあの日の記録です。~
■2013年6月24日
博士、高田文夫先生のラジオ「ビバリー昼ズ」に出演。
高田先生よりも早く現場に入ってお迎えするのが礼儀の為11時30分入りの所を30分早く11時に着きたいと博士。
「了解しました!」と返事をしたものの、車に乗った時点でカーナビの予想到着時間は11時7分・・博士の車のカーナビは渋滞情報込みで到着時間を割り出す訳なのですが、十分早く家を出たつもりがすでに渋滞込で7分オーバー・・何でこうなるんだよ。
どうもボクは渋滞を引き寄せる体質なのではないか?という疑念を最近持っています。
それ程に博士の運転手になってから毎回不可解な渋滞に巻き込まれます・・しかも今日は博士が大尊敬している高田文夫先生が絡んでいる!今日遅刻するのはマズい、7分オーバーで済めばいいが・・。
こんな思いとは裏腹に出発するといつもは絶対車が入ってこないような道で対向車が登場し、まごまごして時間を食い、いつもはすんなり曲がれる道で謎の渋滞発生。その後もチョコチョコ小さな渋滞連発であれよあれよと到着時刻は増えていき11時14分に。
ここで痺れを切らし「何だよー、全然間に合わないじゃん!!」と博士。
珍しくイライラを表に出す博士にビビります・・。
「あ、いや、すい、すいません・・」
「ていうか、お前のどこが『マッハスピード豪速球』なんだよー!!!いっつも渋滞ハマってトロトロと走ってるじゃん!!!」
高田先生への礼儀を欠いてしまう焦りと、4月からのボクの運転への不満の蓄積があったのでしょう更に声を荒げ博士が怒ります!
「あ、いや、ちく、ちくしょう・・なんでこんなに混んでるんだ・・すいません。」
初めて怒られ、完全に萎縮してゴニョゴニョと謝っていると更に博士の怒りは加速します。
「もうお前さあ!!『マッハスピード豪速球』でもなんでもないんだから名前変えろよ!!」
「はい・・名前ですか・・すいません・・名前変えるんですか・・」
「お前なんかマッハスピード豪速球でも何でも無いよ!スロー・・・スピード?何だ・・ナックルボール?遅速・・ちきしょう!!!!元の名前が同じ意味の羅列だから上手くモジれねえじゃねえかよ!!何だよ『マッハスピード豪速球』って!!イラつくよ!!」
「すいません・・。」
名前のせいで怒られるとは・・初めて博士とお会いした時「名前が気に入った!こんなにまっすぐな名前ないよ!」と褒めていただいた思い出が崩れ去ります。
結局11時を大幅にオーバーしニッポン放送に到着してしまい博士は慌ててビルに入っていきました。
落ち込みましたがゆっくり落ち込んでいる暇はありません、ボクも駐車終了後すぐにラジオブースへ向かいます・・ブースに到着すると『ビバリー昼ズ』アシスタントの松本明子さんが目に入り”あ、芸能人だ。”と思っていると松本さんがボクの方へ近づいて来て「マッハスピード豪速球??」と声を掛けてきました。
何故??何で芸能人の松本明子さんがボクを知っているんだ??
「あ、はい・・マッハスピード豪速球です・・」と戸惑っていると高田先生が視界に入りました。やはり博士を高田先生より早く到着させることにボクは失敗したようです・・やってしまった・・すると高田先生がこっちを向き
「お前かこの野郎!『マッハスピード豪速球』!!この野郎!!おせーんだよ馬鹿野郎!何だよー!しょうがねえじゃねえか『マッハスピード豪速球』でこんなに遅くちゃ!どんだけ遅いんだよ!永六輔の車椅子に抜かれんじゃねえのか!?」と『永六輔最後の旅』という車椅子姿写真と一緒の新聞記事を指差して笑っています!
どうやら車の中で博士がツイッターで
【『ラジオビバリー昼ズ』に向かうが当然、高田先生を先に入ってお出迎えするつもりで家を出たのだが大渋滞でのろのろ運転。しかも運転をしているのが『マッハスピード豪速球』(と言う名のコンビ)のガン太。「頼むから、オマエのコンビ名を変えてくれ!生活に違和感があるから」と懇願する】
と実況していたらしく高田先生は博士に会うなり「おい!『マッハスピード豪速球』ってどいつだよ?」とネタとして興味を持って頂いていたようなのです。
ネタにしてもらった・・ボクの遅刻で少しでも笑いになっていたのだったら良かった・・と気持ちが救われた瞬間でした・・ミスが笑いになる・・お笑いって素敵だ・・でももう渋滞はごめんだ!
■2013年7月24日
前日泊りでロケだった博士を羽田まで迎えに行く。
博士の運転手になり2か月半、最近あることを凄く意識するようになった。
それは『渋滞の層』である。
余りに渋滞に行儀よく並ぶボクに見かねた博士が教えてくれたのですが
渋滞ってのは上から見たら信号ごとにブロックに分かれている層でその層を意識して車線変更とかしていけば大抵の渋滞はそこまでハマる事はない!という理論でした。
この『渋滞の層』を意識するようになった結果、最近のボクは劇的にマッハスピードで移動できるようになったのです!
今までとは明らかに世界が違う!環七なんて今まで渋滞に巻き込まれていたのが不思議なくらいスイスイです、よく見たら左車線がガラ空きなのです!バス専用の時間は朝の7時から9時までなのにそれ以外の時間でも何故かお行儀よく右で渋滞していただけだったのです。それが分かった今となってはそんな渋滞に巻き込まれている人が滑稽で笑えます!
青梅街道だって同じからくり!層を意識さえすれば全てが上手く行きます。
渋滞している人が馬鹿に見えてきますイライラした顔して層を意識することも無くただ前の車の後に並んでいるだけでこの状況を何とかしようとする意思が見えません!
まあ、分かります・・ちょっと前までボクもそうだった・・ただボクが今言える事が1つあります!世の中、渋滞の層に気が付ける奴と層に気が付けない奴二つに分かれるんだ!!
気が付けない奴は一生損して生きるのだ!!
今日も博士を羽田でお迎えしたボクはご自宅に向け快適に走り抜けます!
「順調に走ってるねー。」
博士からお褒めの言葉を頂きテンションが上がります。
「あ、はい!ちょっとコツ掴みまして!」
しばらくするとまた例のごとく渋滞がいや今まで渋滞だと思い込んでいた物が見えてきた。
“んっ?はは、層が現れたか・・まああんな軽い層(もはや渋滞の事を層と言っている。)俺にかかればすぐ抜けられる。”
難なく層を抜け、道が開ける・・”いまだ!!”層を抜けたとき一気に加速するのがコツだ!!これが東京を早く走る方法なんだよ!!アクセルを強く踏む[ブヲオオオン!!]
ウウウーーーーウウウウーーーウウウウウー!!
ん?何か聞こえる・・
「はーい、前の車ー!停まりなさーい停まりなさ―――――い!!」
警察だ!?・・層をマスターし有頂天になっていたボクは完全なる速度違反をしていたのです。
短髪の綺麗に刈り上げた浅黒い肌の目が充血したお巡りさんがパトカーを横に付けこっちを睨みつけています・・。
やってしまった・・調子に乗っていた・・層を意識しすぎて法を意識していなかった・・。
博士も、「どうした?何した?」と心配そうにしている。
「いや、もしかしたら・・スピード出しすぎていたかもしれないです・・。」
パトカーに乗せられ、お巡りさんからお叱りをうけながら層にばかりとらわれ調子に乗っていた自分を思い返し虚しい気分になった・・そもそも層を意識するって・・凄く初歩的な事のじゃないか・・それをボクは過信して・・。
罰金代も博士に負担させてしまわなくてはならなくなり、点数もタップリ引かれ免停一歩手前・・あわや運転手の仕事も失いそうになり目的地へ着く時間も遅くなる。
最悪だ・・これはマズい・・絶対博士に怒られる・・またビバリー昼ズの時の様な大声で怒られたら今の落ちているボクなら余裕で泣くであろう・・車に戻りたくない・・。
うなだれながら扉を開け運転席に座りチラッと博士を見ると・・。
あれ?・・メッチャニコニコしています!?どういうことだ、腹立ちすぎておかしくなってしまったのか?
「『マッハスピード豪速球』がやっとスピード出したと思ったら、キップ切られたな!ははは!面白い!」
なんと、このミスは怒られないんだ・・しかし謝らねば。
「すいません・・すいません・・。」
「いや、面白いよ!お前はマッハスピード豪速球だから、渋滞にハマっても、ネタにはなるしスピード違反で捕まるのもネタにはなる!お笑い的には美味しいよ!」
「あー、めちゃくちゃ怒られるかと思ってました・・良かったです。」
「でも一応叱るけどね!ダメな物はダメだから!!」
「もうボク名前に、がんじがらめです・・」
『マッハスピード豪速球』なんてコンビ名じゃなくて『普通の速度の凡人』ってコンビ名にすればよかったな。
~藝人春秋2上巻【照英伝説】下巻【猪瀬直樹】の回に博士のバナナが出てきます。
このバナナが様々なドラマを生みました・・。~
(vol.2へ続く)
■水道橋博士のメルマ旬報
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