「新人教育なんてしたくない!」と全社員10人に退職され、社長自ら出社拒否…挫折乗り越え会社が成長|株式会社Surpass

f:id:kashiemi:20180227101821j:plain

「スキルアップって、一般的にはどういうもの?では、この会社でのスキルアップとはどういうもの?」

「お金で買えない価値には、どんなものがある?」

「生産性とはどういうこと?生産性と信頼の関係とは?」

「ITなどのテクノロジーは、人にどんな影響を与える?」

グループワークでそんな議論がなされているのは、株式会社Surpass(サーパス)で2カ月に一度行われる「Vision会議」。

社員全員が土曜日に集まり、1日かけてワークを行います。

「なぜ働くのか、仕事を通じてどんな価値を生み出したいのか、どんな自分になって、どんな未来を創っていくのか。一人ひとりがそんなテーマに向き合い、メンバー同士で共有するため、そして何よりも、各自がなんとなくで生きるのではなく『本質的な思考軸を身につけ、決断できる人財』になってほしいと行っています」

そう語るのは、代表取締役の石原亮子さん。過去には、組織づくりに失敗し、10人の社員をすべて失った経験があるそうです。その後、新入社員2人とともに3人で再スタートを切った際に始めたのが「Vision会議」。以来、事業が軌道に乗り、およそ3年で80人の組織へと成長を遂げています。

Vision会議の大切さに気付くまでの道のりと、その効果について、石原さんにお聴きしました。

会社を立ち上げるも「自分一人でやった方がマシ」という思考に…

石原さんは「営業」のプロフェッショナル。生命保険会社でトップセールスとなった後、さまざまな業種の営業を経験し、いずれも高い業績を挙げてきました。

その営業ノウハウを活かし、2008年、女性中心の営業アウトソーシング会社を設立。業種問わず、クライアント企業の営業活動を請け負う事業をスタートしました。

「最初は営業経験豊富な人材を中心に集めていました。でも、なぜかクライアント企業とのトラブルが重なり、『こんなことなら自分一人で営業するほうが楽だし稼げる』なんて思い始めていたんです。そんなとき、出入りしていた営業マン――今は当社の取締役を務めてくれていますが、彼から『石原さんには理念やビジョンがない。だからうまくいかない』と指摘されたんです」

その言葉に衝撃を受けた石原さんは、働く上での理念と「何を実現したいのか」を見つめ直しました。

そこで思い出したのが、生命保険会社時代に抱いていた気持ち。営業は数字のみで評価され、本当にお客様のことを真剣に考えている人であっても、数字で結果が出せなければ存在意義を否定され、職場を去っていく――そんな状況をもどかしく感じていたのです。

f:id:kashiemi:20180227101849j:plain

人の役に立つこと、人を助けること、人を幸せにすることに喜びを感じられる人が、きちんとキャリアを築いていける会社にしたいと思いました。『給料の分だけ仕事をする』ではなく、お客様にいかに貢献するかを考え、実行し、成果を挙げることで収入も上げていく。そんな発想で行動できる組織を目指そうとしたんです」

そんな理念をベースに、石原さんは一から人材教育に乗り出しました。しかし、すでに自分の営業スタイルを確立していたメンバーたちは「教育される」ことも、これから入ってくる人材を「教育していく」ことにも反発。当時10人いたスタッフは全員辞めていきました。

「さすがに心が折れて、自分が出社拒否の状態に陥ってしまった」と当時を振り返る石原さん。それでも最後の賭けだと覚悟を決め、新卒2人を採用。その2人と石原さんの3人で「Vision会議」がスタートしました。

「以前は、メンバー同士の会議といえば営業戦略や数値目標のことばかりでした。でも、考え方を刷新してからは、『Why(なぜ)』を突き詰めるところから始めたんです。『なぜ仕事をするのか?』から、営業活動のさまざまな場面を想定して『こんなときにはどうするか。なぜそうするのか』と。私の経験や想いを伝えると同時に、本人たちからも『Why』を引き出しました。そうして、ビジネスパーソンとして、人として、自分が大切にしたいことを明確にし、その志を持って仕事に取り組むことで、2人は大きく成長してくれたのです」

「自分に向き合う」ワークに取り組む

2カ月に一度のペースで行うVision会議。4回目を迎えるころ、社員は15人になっていました。このとき、外部から人材育成のプロを顧問に迎え、体系立てたワークも取り入れるように。お互いの考えを伝えて共有するだけでなく、課題意識を持って行うようになったそうです。

f:id:kashiemi:20180227101920j:plain

ワークの一例を挙げると…

●生い立ちワーク

相互理解を目的とし、各メンバーに自身の過去~現在の歩み、そしてこれからのビジョンを共有。普段は意識していない自分の考えや想いを深掘りすることで、自分のビジョンを見つめ直し、仲間との共通点も発見できる。

●「最強チーム」ワーク

そもそも「チームワーク」とは何なのかを深堀りし、今までなんとなく使ってきた言葉の意味を再定義し、共通認識(言語)を醸成。ワークを通して、ひとつの言葉について共に深く考え、アウトプットすることでチーム内でのコミュニケーションミスを減らしていくことが、「最強のチーム」の第一歩となる。

●「5年後の自分たちの像は」ワーク

会社で掲げたビジョンに対し、自分のキャリアビジョンはもちろん、ライフビジョンも明確に描いてみる。そのビジョンから逆算し、「今(今日)の自分は、どんな具体的な行動が必要なのか」「1年後はどうなっている必要があるのか」まで明確にして、実行可能なアクションプランまで落とし込む。

どんなテーマで取り組むかは、組織の状態によっても変えていくのだとか。理念とビジョンの共有ができた状態のときは「課題」に対して深掘りをしていきますが、1年間で社員が数十人増え、社員によって温度差がある状態となったときは、お互いが打ち解けることを目的に、エンターテインメント要素が高いワークを中心に行ったそうです。

なお、Vision会議には、入社を検討している人も参加。自分の価値観に合うかどうかを確かめられる場であるため、理念やビジョンに共感した人が入社を決断しています。これが風土の醸成にもつながっているようです。

固定観念から放たれ、安心して自分らしさを発揮できるように

こうしたグループワークを進めるにあたり、石原さんが意識しているのは「こうでなくてはいけない」と本人が無意識に縛られている固定観念から解き放つこと。

「子どものころから、女の子だから、とか、長女(長男)だから、とか、『それではダメ』『ちゃんとしなさい』という言葉を浴び続けている人もいます。いろんな方面からネガティブワードにさらされ、萎縮している人も多い。それって自分が立っている足場が狭くなっているのと同じ状況。そんな状況だと、普通は『落ちたらどうしよう』ばかり考えてしまいますよね。だからこそ今必要なのは『こうでもいいんだ』と、まずはその人自身に敬意を持ち、肯定型のコミュニケーションから足場を広げてあげること。そうすればジャンプだって回転だってできるようになりますから」

そしてもう一つの目的は「セキュアベース」を築くことだといいます。

セキュアベースとは、発達心理学における「安全基地」という概念。外の世界に出ていっても、安心して帰ってこられる場所、喜んで迎えられると確信できる場所を指します。

f:id:kashiemi:20180227101947j:plain

発言が間違っていてもいい。考えを否定しない。ありのままをメンバー同士で共有することで、人間関係が深まります。誰かが発言したことに対し、言葉の表面だけを捉えるのではなく『この人がこういう言い方をするということは、こんな背景があるんだろうな』と、根っこの部分を理解して判断することもできるようになります。そうすれば、コミュニケーションのすれ違いも減る。会社やチームが、自分のことをわかってくれている、受け入れられていると感じられる場であるようにしたいですね。当社のメンバーは、普段はクライアント先に常駐していて、各地に散らばっているので、安心できるホームの存在は特に大切です」

グループワークでは、「信頼とは何によって積み重ねられるか」「生きる上で必要なスキルとは何か」など、「本質を捉える」ことを目的とした課題も多数。

メンバーたちが自分の経験や考えを語る中では、仕事においてまだ成果を挙げられていないメンバーの、内に秘めた強みが発見されることもあるといいます。

「仕事に自信を持てなくても、自分の本質が仲間に認められれば、自信がつきます。それによって仕事にも自信を持って取り組めるようになり、成果を出し始める人もいます」

自分に向き合うことで次のステップへ踏み出すことができ、「大切にしたいこと」をメンバー同士で共有することでチームワークが築かれる。それが、Surpassの成長の秘訣といえそうです。

株式会社Surpass(サーパス)

EDIT&WRITING:青木 典子 撮影:平山 諭

関連記事リンク(外部サイト)

スーツやネクタイはいったん“封印”ーー郷に入っては郷に従う“企業間留学”とは?
“ゲームを遊ぶ = 仕事“になる時代がようやくやってきた|ローリング内沢さん(ゲームライター/編集者)
異例の大ヒット「明治 ザ・チョコレート」は、まだ真の成功ではない|明治のチョコレート革命

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 「新人教育なんてしたくない!」と全社員10人に退職され、社長自ら出社拒否…挫折乗り越え会社が成長|株式会社Surpass

リクナビNEXTジャーナル

ビジネスパーソンのための、キャリアとビジネスのニュース・コラムサイト。 キャリア構築やスキルアップに役立つコンテンツを配信中!ビジネスパーソンの成長を応援します。

ウェブサイト: http://next.rikunabi.com/journal/

TwitterID: rikunabinext

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。