何もかもイヤになったら試してほしい「群馬・宝川温泉へのひとり旅」
ふと思う。最近、寒すぎるのではないか。
ヒートテックを何枚着ても貫いてくる寒波。バンプ・オブ・チキンだって、「君の冷えた左手を僕の右ポケットにお招き」しているヒマがあったら、さっさとコタツに入って汁粉でも飲みたい気分だろう。
誰にも会いたくない。
何も考えたくない。
寒さのあまりすべてのやる気がなくなったとき、どうすべきか。
そんな僕を救ったのは、ある温泉旅館へのひとり旅だった。
場所は、群馬県・宝川温泉。
「群馬」と聞くと、インターネット民はすぐに「グンマー!」と馬鹿にするが、そんなに荒野ばかりの地ではあるまい。せっかくならこの目で確かめてみようと思ったのが、群馬を選んだ理由だ。
結論、ひとり旅で行くなら、ベスト・チョイスな行き先だったのではないか?
と思えてしまうほど癒やされたので、体験レポをお届けしたい。
日々の仕事や寒さに飽き飽きした皆さんが、「群馬に行こう」と思えますように──。
圧倒的に癒やされる“異世界”に向けて、旅に出る
ということで始まった、上越新幹線で行く、ゆらり・ひとり旅。
新幹線や車の中で聴く一曲目は、大抵くるりの『ハイウェイ』である。
これが空港に向かう途中なら小沢健二の『ぼくらが旅に出る理由』を選んでいるし、そうやって音楽から気持ちを盛り上げることは、何も悪くないと思っている。
そもそも僕には、旅に出る理由なんて1つか2つしかないからだ。
JR東京駅からJR高崎駅までは、1時間もかからない。
景色は、あっという間に様変わりする。
そこからさらに上越線に揺られて約1時間。到着したのは、JR水上駅。
写真だとわかりづらいが、前が見えないほどの吹雪。
冷たい雪に降られながら、路線バスに乗り換え。
たまたまタイミングが良かったのか、10分と待たずに出発できたけれど、バスは1日6本のみ。この1本を逃したら、次は2時間後。田舎のスリルを味わった。
※ちなみに宿泊先である「宝川温泉 汪泉閣(おうせんかく)」は、水上駅からの無料送迎も行っているので安心してほしい。僕が路線バス待ちのハラハラを味わうことになったのは、肝心の送迎事前予約をしそびれたからだ。やはり横着はよくない。
貸し切り状態のバスが、山道をぐんぐん登っていく。
こんなときに宮﨑あおい似の人が缶のコーンポタージュスープを持って乗ってきて、絶妙な距離感で座るなり「今日も、寒いですね……?」とか視線も合わさずに言ってくれるような展開があろうものなら、この記事ももう少し盛り上がっただろうが、無論、終始ひとりである。
ふと、「着くのかな?」と、不安がよぎる。
「宿、閉まってないかな」とか、「このまま雪に埋もれて進めなくなるのではないか」とか、心細い妄想ばかりが進むほどの降雪量だった。そして、それをひとつひとつクリアするたび、少しの疲労感と安心感がやってくる。ひとり旅は、こういった「普段は味わえぬ不安要素」と対面するうちに、日常の疲れを忘れさせてくれるのではないかと思う。
そんなことを考えながら、貸し切り状態のバスにひとり揺られて30分。
無事に宝川温泉 汪泉閣に到着!
チェックインが重なっている時間帯らしく、宿に入ると、フロントはかなりにぎわっていた。外国人の方も多く見受けられる。
チェックインのついでに、副支配人の岡本浩さんに、簡単に話を聞いてみた。
――平日なのに、フロントにもたくさんお客さんがいて驚きました。繁盛していますね。
そうですね。今日も満室です。――決して便利とはいえない立地なのに、満室はすごいですね!
平日は、7割が外国人観光客です。冬場はアジア圏が多く、夏場になると欧米の方が増えます。――世界中からやって来ているんですね。何か理由があるのでしょうか?
3年くらい前に、ロイター通信で「世界の温泉 第6位」に選ばれまして。そこからSNSの口コミでずっと広がっているみたいです。――6位! 外国語対応とか、大変じゃないですか?
英語ができるスタッフを優先的に雇っているのと、あとは、現場で少しでも話せるように努力していますね。それと、お客さまも優しい方が多いので、なんとなくわかってもらえて、なんとかやっています。――なるほどー! 群馬の山奥で、グローバル化が進みまくっているとは思いませんでした。ありがとうございます!
施設の説明を受けると、趣たっぷりの廊下を抜けて、今夜泊まる客室「地蔵の間」へ。
こちらが、本日のお部屋。圧倒的なくつろぎ空間。こういうところに泊まりたかった。
窓からは、この景色。ストーブの匂いと、窓越しにかすかに聞こえる川の音。しんしんと降る雪を見つめているだけで、あっという間に時間が過ぎる。
長旅で冷えた体を温めるため、露天風呂へ向かう。
ライトアップされた橋を渡る。積もった雪が反射して、めちゃくちゃ幻想的。
川のせせらぎだけが聞こえてくる、静かな庭園を抜けると……
複数の露天風呂が待っている。今回は、多くのメディアでも取り上げられている「摩訶の湯」へ。
※混浴だからといって、変なことを考えてはいけない。たまたまひとりで風呂に浸かっていたら向こうから宮﨑あおい似の女性が無防備に入ってきて、「きゃあっ!」「はわわ! ごめんなさい!」「わ、わたしの方こそ……!」みたいな展開は絶対に起きない。なぜなら当宿は、女性専用の湯あみ着がレンタルできるからだ。
そしてたどり着いた、摩訶の湯。120畳の超広大な源泉掛け流し天然温泉である。
趣。そこにあるのは、ひたすらに趣である。
深い深い趣と、白い白い雪が、エモエモと一面に広がっているのである。
極寒の地に突如現れる、趣とエモのオアシス。
体がみるみるほぐされ、癒やされ、心までやわらかくなっていく。
しかもこの時間帯、たまたま貸し切り状態だった。
思わずピースサインでセルフタイマーに挑戦するほど、身も心も回復したのである。
※もちろん撮影許可は得ています。
体も軽くなったところで部屋に戻ってくると、しれっと布団が敷いてある。これぞ、旅館。
おもてなしの精神こそが日本の美学。「はあ、好き」と、思わず声が出た。
夕食は、館内の食事処「月光」へ。バイキング形式で取れるサラダやご飯と、
ぜいたくなすき焼き。
卵を溶いたら
「いただきます」
うまっ。
いい風呂と、いい部屋と、いいメシ。
これ以上、何を望もうか。
お酒も、ガンガン進んだのでありました。
※これらもすべてセルフタイマーで撮られていることは、忘れてもらいたくない。
たらふく食べて部屋に戻ってくると、布団を端に寄せて、ひたすらに堕落する。
こんなに人目を気にせず怠惰な時間を過ごしたこと、最近なかった。
Wi-Fiも完備な宿内。和室で寝そべりながらインターネット三昧するのもよし、
こんな体勢でテレビを見ながら缶コーヒーを飲んでも、誰にも怒られないのである。
満足したら布団を敷き直して、
またテレビを見たりスマホをイジったりしつつ、
おやすみなさい。
※ちなみにこのアングルの撮影も、三脚とセルフタイマーを駆使した結果であることを忘れてほしくない。
そうして元気満タンで迎えた2日目。雪はやみ、快晴。
朝食前の朝風呂は、屋内の大浴場へ。こちらも、大きな窓に映る雪景色がたまらない。
風呂上がりの朝食も、バイキング形式。
あっさり済ませると
チェックアウトの時間まで、のんびり散歩へ。
露天風呂へ向かう橋を渡ったところからの景色。右に見える窓のついた部屋が、僕の泊まった「地蔵の間」。こうやって見ても、やはりいい場所に宿泊したのだなあと思う。
そして、見てほしい、この景色。半端じゃない。
昨夜入浴した「摩訶の湯」を抜けたところにある「子宝の湯」から見た景色なのだが、これ、iPhone SEで撮ったものである。
撮った僕の腕がすごいんじゃないし、iPhoneがすごいんでもない。
とにかく、景色がすごいのである。神秘。
対岸越しの小屋の横に見えるのは、「般若の湯」。
積雪具合が、美術作品の域に来ていると思う。
川のせせらぎと、鳥のさえずりと、透き通った冷たい空気。
記事冒頭の「誰にも会いたくない、何も考えたくない」と思う気持ちが、ここでは一番のぜいたくであることに気づく。誰にも会わなければ、何も考えなければ、ずっとこの景色と音と空気を独り占めできるからだ。
身も心も充電されて、大満足で帰路へ。
外国人客が多いせいか、宿泊中、日本語がほとんど入ってこないのも、ひとり旅にはうれしかった。余計な恋バナとか、意識高いヴィジョンの話とか、一切耳に入ってこないのは、心がざわつくこともなくて、気が楽だ。
外国語が聞こえてくればちょっとした異国感も味わえるし、そもそも雪景色のおかげで、異国どころか異世界の気分すら味わえてしまったから、本当に得だ。
宝川温泉、控えめにいっても最高だったので、無気力な人、これからどうしよう? とぼんやり将来を悩んでいる人、たまには一泊くらい足を伸ばしてみてはいかがだろうか。
※今回の宿泊内容は、通常のびゅう商品とは若干異なります。
ちなみに群馬、食も楽しい
「せっかく群馬に来たのなら食べなさい」と、SNSにいる群馬民の多くからオススメされた食べものがある。
それが「永井食堂のもつ煮定食」と「茶々の焼きまんじゅう」だ。
この2つも紹介して記事を終えたい。
高崎駅でJR水越線に乗り換えて25分ほどいったところにあるJR渋川駅。
ここからバスで20分ほど進んだところに、日本一もつ煮定食が有名な店「永井食堂」がある。
渋川駅はバス停の数が多すぎてわかりづらいので、駅にある観光案内所で乗り場を聞こう。
――すみません、永井食堂まで行くバスが出ているのは、何番ですか?
ああ、そこの地図に5番って書いてあるだろ。そこに行っておくれ。――ありがとうございます!
あと、あの店に行くなら、飯の量に気をつけな。あそこはとにかく量が多いんだ。もつ煮を食いにいくんだから、ご飯の量は普通。もつ煮だけ大盛りにすんのが、正解だ。――なるほど、勉強になります。ありがとうございます!
観光案内所で、食事のオーダーの仕方まで習うことができる。これが渋川クオリティ。
一日6~7本しか走らないバスに乗って、約20分先の暮沢停留所を目指す。
そこから徒歩で4分ほど進むと……
目的地・永井食堂に到着する。
日本一をうたう看板。前評判は充分だ。楽しみでしかない。
店内は、カウンター席のみで23席。2代目店主の永井昭江さんをはじめ、この日の従業員は全員女性。
メニューはいろいろあるが、今回はもちろんもつ煮定食(590円)を注文。
1分とたたずに料理が出てくる。「お待ちどうさま」と言われたけれど、待った覚えがない。下手な牛丼チェーン店より早い。
※ちなみにお盆が縦置きされるのは、隣の席とのスペースの関係上だ。圧倒的な効率重視で作られた店である。
これが、「日本一」をうたうもつ煮。どう考えてもウマそうである。
写真が逆光でどうにもならなくなるくらい、ウマい。
もつが、もつという名の絶品料理が、箸のスピードをみるみる上げていき、食べた者の胃袋を圧倒的な満足感で充足させる。幸福が押し寄せる。ウマさがとどまるところを知らない。
すぐに完食。ウマい。安い。早い。三拍子そろった最強のメニュー。並盛りなのに、ご飯のボリュームもあった。腹をすかせて、今度は大盛りにチャレンジしたい。
ちなみにこの店、取材日は店内に10名ほどの客しかいなかったが、そんなことは「創業以来初めてかも」とのこと。
1972年創業。普段は平日でも車の行列ができるほどだというので、前日の降雪と取材日当日(!)の火山の噴火の影響も大きかった模様。奇跡的にすいていた。
もつ煮はあまりに人気のため、持ち帰り用の自動販売機(おそらく世界唯一)まで設置されている。この日もお店で10袋をお土産に買っていく人がいたが、「100袋頼む人もいるから、10袋くらいは普通」だという。なんだか常識が違った。
群馬に行くなら、ぜひ足を運んでいただきたい。
続いて紹介するのが、高崎駅から徒歩5分ほどのところにある焼きまんじゅう店「茶々」。
店構えからして「最高」の2文字が見える。
高崎駅は乗り入れ路線が多くて便利だし、まさに「ぶらり途中下車」に向いている。
店内に入ると、ふんわりと甘い匂いが立ち込める。
高崎市は後継者問題などを抱えているウマい飲食店を集めて「絶メシリスト(絶やすな!絶品高崎グルメ)」というキャンペーンを組んでおり、「茶々」の店主もポスターになっていた。
当のご本人は、バックヤードでちょっと休憩中。
この貼り紙に、まんじゅう作りへの愛を感じる。僕、こういうメッセージにトコトン弱いのです。
その間にも、注文した焼きまんじゅうはおいしそうな色をつける。
そして完成! これが名物の焼きまんじゅうだ。
群馬県産の小麦を麹(こうじ)で発酵させ、ふわふわに蒸したまんじゅうに、お味噌とお砂糖で作るタレが絡む。表面に適度な焦げ目がついたまんじゅうは、口の中に幸福をもたらしてくれる。つまり、食べて幸せになれる、最強の焼きまんじゅうである。
2本、ペロリと完食。パン生地のようにふわっとしているので、意外とすんなり食べられる。そしてウマい。この串、ずっと舐めていられる。
92歳の現役店主と、60代の娘さんの記念撮影。
娘さんいわく「子どもたちは継ぐ気がないから、この店もなくなるかもしれない」とのこと。
こんなにウマいのになあ。東京で仕事なくなって困っている人がいたら、こういう店をどんどん継げばいいんだよなあ。ウマいし来客多いし、たまにテレビにも取り上げられているんだから、食いっぱぐれはなさそうだしなあ。と、ぼんやり嘆きたくなった。
こうして、群馬県を後にした。
東京駅から1時間。新幹線に乗っている時間はあっという間で、その間にも景色はどんどん変わる。
僕がリクライニングを少し倒してぼんやりしている間にも、多くの人たちがあの温泉に、あのもつ煮定食屋に、あの焼きまんじゅう屋に足を運んでいるのだろうと思うと、なんだか自分が迷っていること、悩んでいることも、多くの人たちの行動のひとつにすぎないのだと思える。
別の世界に行けば別の自分がいるし、そこでは誰も何も強制してこない。自由にのんびりと、新しい自分、普段とは別の自分を楽しめばいいから、ひとり旅は愉快で快適だ。
冒頭に戻るけれど、日々の仕事や寒さに飽き飽きした皆さんが、この記事を読んで「群馬に行こう」と思えたなら、それが一番の幸いである。
ありがとうございました。
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