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「リバティタワー」ができたから、明治大学に人気が出たわけではない――高校生が志願したい大学“8年連続1位”を実現した戦略

今の10代から20代前半の世代と、30代以降の世代とで、これほど情報ギャップのあるケースも珍しいかもしれない。創立100年を超える歴史を持つ日本を代表する大学、明治大学をめぐって、だ。

東京6大学の一角を占める人気大学だが、この10年ほどで大きな異変が起きている。ブランドイメージが一変してしまっているのだ。ひと昔前の男臭い大学のイメージはそこにはまったくない。今や女子高生からの人気で1、2を争う大学になっているのである。

明治大学にいったい何が起きたのか。明治大学は何をしたのか。関係者への取材でそれを明らかにしたのが、上阪徹氏の著書『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか? 奇跡を起こすブランドポジションのつくり方』(東洋経済新報社)。今回は、明治大学の変貌ぶりと、それを実現させた秘密の戦略に全4回で迫る。

第2回となる今回は「人気を集めた要因となった具体的な取り組み」について紹介する。(前回記事はこちら)

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ブックライター 上阪徹さん

1966年生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリー。これまでの取材人数は3000人超。著書に『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか?』『社長の「まわり」の仕事術』『10倍速く書ける 超スピード文章術』『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』『成功者3000人の言葉』『リブセンス』『職業、ブックライター。』など。

今では当たり前になっている都市型キャンパスの先駆け

リクルートマーケティングパートナーズが調査している「高校生が志願したい大学」ランキングで、関東エリアにおいて2009年以降、8年連続で1位を獲得していたのが、明治大学だった。文系でも1位、理系でも1位、男子でも1位、女子でも1位という年がほとんどだった。

2010年には、志願者数ランキングで、早稲田大学を追い抜き、「あの明治が早稲田を抜いた!」と大きなニュースになった。

しかしこのとき、「あれはタワーを建てたからだろう」と考える人が少なくなかった。タワーの1階には、女子学生のためのパウダールームが設置されたことが話題になり、「あのパウダールームが女子を呼び寄せた」などと語られることもあった。しかし、そんなことで学生が集まるほど甘い世界ではないのである。

東京・お茶の水にそびえ立つ明治大学の「リバティタワー」は、たしかに明治大学のシンボルとも言える建物だ。高さ120メートル、地上23階建て、地下3階。建設は1998年。ガラス張りのエレベーターからは東京都心が見下ろせ、17階にある学生食堂、スカイラウンジからの眺めは壮観だ。

当時、大学が高層ビルを建てるなど、考えられない時代だった。この建物は、日本初の大学高層ビル。今では当たり前になっている都市型キャンパスの先駆けは、実は明治大学なのである。

創立120周年の記念事業だったが、実は意外な背景があった。1970年代後半から90年代にかけて、大学は都心から郊外に続々と移転していた。明治大学も移転を検討したが、学内の反対にあって移れなかったのだ。

だが、明治大学はツイていた。移転の波に乗れなかったことが、後のリバティタワーの建設に大いにプラスしたのだ。そして、都市型キャンパスの先駆けとなるのである。

10年足らずで、ブランドイメージの大転換を成し遂げていく

都心のタワーキャンパス。さぞや人気が高まったのでは、と思いきや、その後に志願者数が急激に増えた、というデータはない。それどころか、2004年から2005年にかけて、明治大学は、志願者が7万人台に落ち込んでしまう。むしろ、人気は下がってしまっていたのだ。

企業経営の取材で印象的だったものに、「経営は下りのエスカレーターに乗っているようなもの」という経営者のコメントがある。まわりが伸びているのに、じっとしているのは、下がっているのと同じ。これは、大学とて同じである。

企業も大学も、何もしないで、ずっと同じポジションやイメージを維持していけるわけではない。しかるべき取り組みをしっかり進めていかなければ、おしりに火がつきかねないのだ。明治大学は、おしりに火がついたのである。

そして、このあたりから本気で変革を加速させていく。10年足らずで、ブランドイメージの大転換を成し遂げていくのだ。

ただ、都市型キャンパス「リバティタワー」という新しい挑戦は、確実に何かを感じさせたのかもしれない。その可能性をいち早く嗅ぎ取り、明治大学にやってきた学生もいたのだ。

例えば、後に有名になっていく俳優やタレントたち。農学部に入学した俳優の向井理、商学部に入学したジャニーズの山下智久、同じく商学部に入学した女優の北川景子……。彼らは、自らが希望し、入学してきた。自分たちのブランディングにふさわしいと思える大学になることを予想していたのかもしれない。

そして同じように、現役のモデルなどが続々と入学していく。なんとここからわずか3年で、志願者数は10万人を突破するのである。

タワーを造ったから、明治大学が変わったわけではない

勘違いしてはいけないのは、リバティタワーという建物が変わったから、明治大学が変わったのではなかった、ということである。リバティタワーは、あくまでスタートラインだった。むしろ本格的な変革は、リバティタワーができた後に始まっている。

例えば、大胆な入試改革。「全学部統一入試」の導入に踏み切るのである。これは、8つの学部(当時)が共通の試験問題で入試を実施する制度。一度の受験で複数の学部に出願できるメリットが、大きな反響を呼んだ。さらに、受験地を首都圏の3つのキャンパスだけではなく、札幌、仙台、名古屋、福岡と全国5都市に広げた。かつての「方言の聞こえる大学」を復活させるべく、もっと地方の学生に来てほしいと考えたのだ。

だが、学部ごとに自治があるだけに、試験問題を同じにすることは実は簡単なことではなかった。試験問題ももう一つ作成しないといけない。教員の負担も増える。実現不可能とささやかれたが、最終的に全学部が実施する。この制度で、受験者数は約1万8000人増えた。

入試改革ではもう一つ、入学試験問題の改革の取り組みも進んだ。私立の大学入試では、重箱の隅をつついたような難問奇問が出題されることもよくあった。そうではなく、高校生が標準的な勉強をきちんとしていれば、十分に点が取れるような問題にした。これも受験生からは好評になった。

入試の仕組みも、わかりやすくしている。最近の入試は、センター併用にA方式、B方式など、大学によっては文字通り複雑怪奇な試験形式になっているところもある。できるだけわかりやすくするため、アルファベットは使わない、そうである。

マンガやアニメも立派な研究対象となる新学部

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変革は他にもさまざまにある。例えば、新学部の創設。2004年に誕生した情報コミュニケーション学部は、女子の比率が約47%。女子人気を牽引している学部だ。しかし、新学部創設は、明治大学にとって51年ぶりだった。それまでも、新しい学部の構想が出ても、何度もつぶされる歴史があった。それを乗り越えて新学部を作ったのだ。

4年後の2008年にはまた新学部ができる。国際日本学部だ。不思議な学部名だが、これは「日本を知り、日本を世界に発信する」ことを目指した学部だからだ。実際、日本の現代アートや映画、アニメ、マンガ、ファッションなどのポップカルチャーや、そうした現代文化のルーツにある芸能、武道、思想といった伝統文化などを広く学んでいく。

さらに、日本的ものづくりの技と心を学ぶことを目指し、日本のコンテンツ産業やビジネス文化、広告・メディア産業、アートビジネスなどを新しい切り口で分析していく。

なんと、マンガやアニメも立派な研究対象なのだ。ポップカルチャーに詳しい研究者が集められ、森川嘉一郎、藤本由香里、宮本大人など、日本の名だたる専門家や研究者が採用された。

そして2013年には、21世紀に入って3つ目の新学部ができる。総合数理学部だ。「数学で社会を考える」がテーマ。数理分野の強化という、明治大学の新しい挑戦が話題になった新学部創設でもあった。

「数学」を前面に打ち出す、国内では他に例のない学部。構想段階では、学生が集まるのか、不安視する声も上がっていた。だが、初年度260人の枠に4000人が殺到。辞退者も少なく、実際の入学者数は約1.7倍に達した。

国際日本学部、総合数理学部は、新しくできた中野キャンパスに入っている。

ディズニー留学ができる垂涎の留学プログラム

変革は入試改革や新学部創設に留まらなかった。例えば、国際化への取り組み。グローバル化の進展で学生への興味が高まっている海外留学制度の充実に取り組んできた。明治大学と協定を結んだ大学などへの留学で、学内選考に合格し、派遣留学生として留学する「協定留学」、自分で留学先の大学を選んで出願し、所属学部・研究科の承認を受けて留学する「認定留学」があり、いずれも留学先で取得した単位は明治大学の単位に認定される。

協定校は38カ国・地域の227大学にのぼる。明治大学に学費を払っていれば、留学先での授業料は不要だ。海外の学費のほうが高かったとしても、差額は求められない。また、かさむ費用対策に「明治大学学生海外トップユニバーシティ留学プログラム」をつくり、助成金制度を新設している。

明治大学の留学制度といえば、高校生たちが垂涎の表情を浮かべるものがある。国際日本学部が学部間協定留学として行っているアメリカのディズニー留学だ。フロリダ州立大学に留学し、ディズニー・ワールドでインターンシップをすることができる。4カ月ほど、キャストとして実際に仕事をすることができるのだ。

国際日本学部を受験したい、という高校生の中には、この留学プログラムに憧れているケースも多いという。ただし、40人程度の枠。かなりの英語力も求められ、競争は厳しい。

ちなみに国際日本学部では、入学すると週12時間の英語の授業が待っている。ネイティブによる完全な英語漬けの授業だ。そこから学内選抜、さらにはディズニー・ワールドのリクルーターによって面接が行われる。

2015年度からはハワイでもプログラムもスタートする。ヒルトン・ワイキキ、アウトリガーリゾーツ、日本航空(カウンターおよび空港業務)、JTBの4社と提携、4カ月ほどのインターシップを行う。2018年には、バリ島の一流ホテルでインターンシップをするプログラムもできるそうだ。明治大学の留学制度はひと味違うのである。

その他、奨学金制度の充実、新入生を「ぼっち」にさせない仕組み、1日5000人の学生が集まり、全国から見学者が絶えない図書館、朝日新聞出版『AERA』の大学ムックの第1号になった『MEIJI UNIVERSHITY by AERA』の発刊、就職支援の充実など、取り組みは多岐にわたる。

先進的な数々の新しい取り組みは、他大学から常に注目されている。明治大学は、そんな存在になっているのである。次回は、伝統的な組織をいかに変えたか。型破りのリーダー、土屋恵一郎学長をご紹介したい。

【参考図書】

『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか? 奇跡を起こすブランドポジションのつくり方』

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著者:上阪徹

出版社:東洋経済新報社

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