「明治大学」はなぜ女子高生に人気の大学になれたのか?――高校生が志願したい大学“8年連続1位”を実現した戦略

今の10代から20代前半の世代と、30代以降の世代とで、これほど情報ギャップのあるケースも珍しいかもしれない。創立100年を超える歴史を持つ日本を代表する大学、明治大学をめぐって、だ。

東京6大学の一角を占める人気大学だが、この10年ほどで大きな異変が起きている。ブランドイメージが一変してしまっているのだ。ひと昔前の男臭い大学のイメージはそこにはまったくない。今や女子高生からの人気で1、2を争う大学になっているのである。

明治大学にいったい何が起きたのか。明治大学は何をしたのか。関係者への取材でそれを明らかにしたのが、上阪徹氏の著書『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか? 奇跡を起こすブランドポジションのつくり方』(東洋経済新報社)。今回は、明治大学の変貌ぶりと、それを実現させた秘密の戦略に全4回で迫る。f:id:k_kushida:20180116182346j:plain

ブックライター 上阪徹さん

1966年生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリー。これまでの取材人数は3000人超。著書に『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか?』『社長の「まわり」の仕事術』『10倍速く書ける 超スピード文章術』『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』『成功者3000人の言葉』『リブセンス』『職業、ブックライター。』など。

「明治が男っぽい?意味わかんない」

最近、女子高生の娘から呆れられるお父さんが後を絶たないという。きっかけは、大学受験。お父さんは昔のイメージそのままに、余計なことを言って、娘を呆れさせてしまっているというのである。

「私、明治大学に行きたいと思っているんだけど」

「明治大学って、あの明治か? 何もわざわざ、あんな男っぽい大学に行かなくてもいいんじゃないか」

「お父さん、何を言ってんの? ぜんぜん意味わかんない……」

今の高校生の親といえば、40代半ば以上だろう。となれば、無理もないともいえる。昔の明治大学は、たしかに男っぽい大学というイメージがあったからだ。かつての駿河台キャンパスはうっそうと樹木が生い茂って森のような薄暗さだった。学生運動の立て看があちこちにあって、歩いているのは、ほとんどが男子学生、という印象。

この文章を書いている私もちょうど親世代に当たるが、強く覚えているのは、ラグビー部の強さである。前へ前へと突進している猛者たちの姿は、そのまま明治大学のイメージに重なっていた。当時、明治もそうだったが、早稲田や法政など男っぽい大学の学生たちは、「バンカラ」と呼ばれた。しかし、今や「バンカラ」という言葉自体を知らない学生も増えてきているという。

会社でも、30代以上の先輩たちと明治大学のイメージのギャップが起き始めている。トンチンカンなことを若い明治大学卒業生に言ってしまい、戸惑わせてしまう……ということが起こっているのだという。

「オシャレでモテる」明大男子

京王線で新宿駅から特急で5分。「明大前」駅には、明治大学の文系学部の1年生、2年生が中心に学んでいる和泉キャンパスがある。ちょうど取材に訪れたときは、講義と講義の間の休憩時間だったが、驚いてしまった。

私と同年代の人間がここを訪れたら、きっとこんなふうに感じると思った。

「これが本当にあの明治大学なのか?」

何より、女性がとても多いのだ。しかも、華やかなファッションに身を包んだ女性があちこちに見える。昔の明治大学で、こんな光景を見たことはなかった。新入生の女子学生に話を聞くと、こう語っていた。

「入学してびっくりしたのは、みんな本当におしゃれだということでした。ちゃんとしていないと浮いちゃうので、毎日、大変なんです(笑)」

しかし、もっと驚いたのは、男子学生がなんとも垢抜けていたことだ。清潔感があり、ファッショナブルないでなちの、こざっぱりとした男子学生が多い。実際、若者に人気のファッション誌『FINEBOYS』の読者モデルにも、明治大学の男子学生はたくさんいるという。先の女子学生はこう語っていた。

「明大男子は、みんなおしゃれだし、モテるって聞きます」

男子の新入生にも話を聞いてみた。

「すごい髪の色の学生とかもいますが、実際にはちゃんと授業に出ていたりする。チャラそうなイメージがあるけど、そんなことはないよ、と後輩には教えてあげたいですね」

チャラそうなイメージ? 明治が? だが、女子にしても男子にしても、これが明治の今のイメージなのだ。実際、青山学院や立教に近く、併願も多いという。ひと昔前とは、ブランドイメージが一変してしまっているのである。

そして何より、今や明治大学は、圧倒的な人気を誇っているのだ。

8年連続で「高校生が志願したい大学」1位に

リクルートマーケティングパートナーズが調査している「高校生が志願したい大学」ランキングでは、関東エリアにおいて、明治大学はなんと8年連続で1位を獲得している。2017年こそ早稲田大学にトップの座を譲ることになったが、2009年以降ずっとトップを守り続けていたのだ。

高校生が志願したい大学(関東エリア)

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(出所)リクルートマーケティングパートナーズ「進学ブランド力調査」。

しかも、8年連続で1位を獲得していた間、文系、理系ともに1位。男子、女子も1位という年がほとんどだった。ちなみにその前年の理系1位は東京理科大学、女子1位は立教大学だった。そこから明治が追い抜いて、それこそ「女子高生が最も行きたい大学」になっていたのだ。

実は明治大学人気の躍進が、いちやく注目を浴びたのは、2010年、大学受験の志願者数が早稲田大学を抜いたというニュースだった。学部数も多く、“記念受験”も多いと言われる早稲田。1990年代は、マンモス校である日本大学と志願者数1位を争っていたが、その後12年間、不動の1位を誇っていた。

90年代から2000年代にかけて5位前後にいた明治は、2007年に早稲田に次ぐ2位につけると、わずか3年で一気に抜き去ってしまった。人気が急上昇していったのだ。以後4年間、1位を続けた。

今、明治の志願者数は4位に沈んでいるが、明治大学は意に介していない。志願者数ランキングがニュースになったことで、大学によっては、ただ志願者を集めるためではないか、と思える取り組みを推し進めたところもあるからだ。

同じ受験料で何学部も受けられたり、受験科目を減らしたり。ここと同じ土俵で勝負する気はまるでない。代わりに重視しているのが、少しずつ公表され始めた「実志願者数」である。

同一大学内でいくつも併願できるようになって、実際の受験者数がわかりにくくなっている。実数を公表していない大学では、「のべ志願者数」が志願者実数の約3倍もあるのだという。

そこで、2005年に慶應が志願者実数を公表。早稲田、明治も公表を始めた。それによると、明治は立教はもちろん、早稲田をも上回っているのである。実志願者数のランキングになったら、果たしてどうなるか。

延べ志願者数と志願者実数(2017年)

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(出所)『毎日新聞』2017年6月13日付、大学通信調べおよび明治大学資料を基に作成。

「MARCH」から「ARCH」へ変わった?

明治の人気の高まりは、長く“大学業界”で言われてきた定説をもくつがえそうとしている。首都圏の私立大学では、早慶上智に次ぐポジションとして、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)という呼び名があるが、ここから脱していこうとしているのだ。MARCHではなく、もはや“ARCH”になっているのではないか、と。

東大合格者数トップ50高校の重複校数を調べたデータがある。東大の受験者が、どの私立大学を併願しているか、というデータだ。のべ53校の合格者のうち、32校が慶應を、31校が早稲田を重複合格しているが、次にランクされる14校で上智と並んでいるのが、明治なのだ。明治は今や、早慶上智と並んで、東大の併願校にもなっている、ということだ。

同じデータを慶應を基準としてみると、延べ51校の合格者のうち、早稲田の合格校が43校、東大が32校、上智が29校、明治が26校重複している。

私立大学では、早稲田と慶應で一つのグループができている。次は、上智と明治で次のグループができている、という可能性があるのだ。実際、受験生はそういう選択をしているのである。

しかも注目したいのは、ずっと昔からそうだったわけではない、ということだ。明治大学教育支援部入学センターへの取材で聞いたのは、河合塾のデータによる明治と立教の比較だった。

2005年度では、明治と立教、両方受かっていた学生は136人。うち、どちらかの大学に進んだのが58人。明治を選んだのは12人で、立教を選んだのが46人だった。立教に大きく水を空けられていたのだ。ところが、2015年度では、両方合格350人のいうち、どちらかの大学に進んだのは102人。明治を選んだのは62人、立教を選んだのは40人だったのである。この10年で、逆転現象が起きたのだ。

実際、新入生の取材では、法学部の女子学生は中央と立教にも合格していた。法学部の男子学生は中央、法政にも合格していた。今は、これが高校生の選択なのだ。

戦略的に今のポジションを取りに行った明治大学

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明治大学の変貌ぶりを取材して感じたのは、この20年ほどで他大学にはない特異なポジションを築いていったのではないか、ということだ。実際、単に女子が増えた、「おしゃれ」になっただけではないのである。サークルなどで女性リーダーがたくさん活躍していることもそうだが、伝統的な力、さらには実力をしっかりと維持しつつ、「おしゃれ」なイメージをも加味していったのだ。戦略的に今のポジションを取りに行ったのである。

ポジショニングマップをつくるとすれば、図のようになるだろう。ただ、既存のイメージを強くしていくのではなく、自分たちがつくりたいポジションへと移動させていったのだ。f:id:k_kushida:20180116184812p:plain

そんなことが可能なのか、しかも大学で、と思うかもしれないが、実際にこれが実現できているのである。結果的に、「おしゃれ」な大学でありつつも、軽い感じにはなっていない。しっかり実力を兼ね備えた安定感がある。そういう学校に行きたい高校生、とりわけ女子高生に高い支持を得るに至ったのだ。

明治人気の高まりがささやかれるようになった頃、「あれはキャンパスにタワービルをたてたからだ」と語る人も少なくなかった。しかし、そんなことで人気が高まるなら、どこでも真似ができる。独自の特異なポジショニングを手にいれるために、明治大学はさまざまな努力を推し進めてきたのだ。次回、それをご紹介する。

【参考図書】

『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか? 奇跡を起こすブランドポジションのつくり方』

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著者:上阪徹

出版社:東洋経済新報社

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