「今」、を逃したら口約束の「今度」は決して訪れないーーマンガ『マネーの拳』に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。三田紀房先生の『マネーの拳』、第1回目をご紹介します。
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「きょう、これからではいけませんか?」(『マネーの拳』第1巻 Round.1より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
ビジネスチャンスに「この次」はない
多くの人が、「チャンスが欲しい」と考えているでしょう。もしかしたら、これをお読みのあなたもそう思っているかもしれません。けれど実際、「そんな機会はなかなか訪れない」というのが実感ではないでしょうか?
今回紹介した場面は、主人公・花岡がビジネスの師匠となる塚原会長と運命的な出会いをし、チャンスをつかんだところを描いています。一見、何の変哲もない情景のようにも見えますが、これこそ後の成功に続く大きな一歩となります。
ビジネスの世界において、基本的に“この次”はありません。「また今度」という言葉はビジネスマナーにおいて、やんわり断るための常套句の一つとなっています。まずはここを突破しない限り、次へ進むことはできません。
多くの人は、チャンスが素通りしていることに気づいていない
この場面をご覧になって、ひょっとするとあなたは「運命の出会いなんて、マンガだから起こること。自分にはこんなチャンスは来ていない」と思ったかもしれません。そこで一つ、事例をお話しましょう。私の知り合いの、あるライターから聞いた話です。
ある時、知り合いのライターは、経営者として成功した人を取材することになりました。取材の内容は「経営者の成功の秘訣を探る」というもの。企画によりライターは数日間、経営者の会社に張り付いて、その人の言動をチェックすることになりました。
ところが取材に行ってみると、経営者はほとんど社内にはいませんでした。仕方なくライターは、経営者の側で働いている人に話を聞くことにしました。「成功者の側で働いている気持ちはどうですか?」と聞いてみると、「あなたこそ、成功者と一緒に仕事ができてよかったですね」という返事が返ってきました。
ライターは翌日も、別の人に同じ質問をしてみました。すると、その人からも「ライターとして、成功者にインタビューができていいですね」と言われました。ライターは、社内の人たちのほうが普段、経営者の側にいられるのに、まるで他人ごとのような返事に驚きました。社内の人たちは、高額のコンサルタント料を取る経営者と一緒に仕事ができることの価値に、まったく気づいていないのです。
チャンスを成功につなげるための3つのステップ
このように、多くの人は目の前にチャンスがあっても気づくことができません。もともとチャンスには、
(1)目の前のチャンスに気づく力
(2)気づいたチャンスを自分に引き寄せる力
(3)引き寄せたチャンスをモノにする力
という3つのステップがあります。
これができて、初めてチャンスを「チャンス」と呼ぶことができるのです。
先の事例でお話した経営者の側にいるたちは、残念ながら(1)に達していませんでした。今回、取り上げたマンガの場面が(2)に相当します。 (3)の「チャンスを本当の意味でモノにできるかどうか?」というのが、『マネーの拳』でこれから展開するストーリーの大きな見どころとなるワケです。
主人公・花岡は、チャンスをチャンスだと気づく力があり、そしてそれを引き寄せるだけの才能と度胸を持っていました。仮に、ここで花岡が「でも、会長は忙しいから」とか「自分なんか相手にしてくれるワケがない」と気後れするようなことがあれば、会長からビジネスを学ぶ機会など、とうてい与えられることはなかったに違いありません。
まずは「相手に応える力」を磨く
もし、あなたが「チャンスをつかみたい」と思っているのであれば、ぜひ「上のマンガと同じ場面に遭遇した際に、自分は主人公と同じ行動が取れるだろうか?」と自問してみてください。ここで答えが「ノー」であったなら、まずはそこをクリアできるようにならなければなりません。
ここぞという時に遠慮してしまうのは、「よいアドバイスをもらっても、自分は相手の期待に応えられない」という思いが心のどこかにあるからなのかもしれません。アドバイスとは、相手ができることを前提に与えるものだからです。そうなのだとしたら、最初の一歩として、まずは自分の身近にいる会社や上司の期待に応えることを考えてみてはいかがでしょうか?
花岡も始めはボクシングで練習を重ね、身を起こしたように、どんなことにも修行時代があります。たとえ今いるところで芽が出なかったとしても、修行によって得たものは、さまざまなところで応用が可能となります。そうなった段階で初めて、マンガにある「次回のアポイントを今、取る」という即断即決の行動が生きてくるのです。
俣野成敏(またの・なるとし)
大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が13刷となっている。著作累計は35万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。
俣野成敏 公式サイト
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