認知症になっても働ける?その可能性を探るプロジェクトが示したものとは
厚生労働省が2015年に発表した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によれば、日本の認知症患者数は2012年の時点で462万人(約7人に1人の割合)。団塊の世代が75歳以上になる2025年には、約700万人(約5人に1人の割合)に増加するといわれています。加えて、長寿化と社会保障の先細り懸念を背景に、「高齢になっても働く人」はさらに増えていくことが予想されます。これから先、ビジネスシーンで認知症の人々と一緒に働く機会は増えていくかもしれません。こうした時代において、私たちはどのような心構えが必要なのでしょうか。認知症ケアのスペシャリストである和田行男さんにお話を伺いました。
和田行男(わだ・ゆきお)高知県出身。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ転身し、特別養護老人ホームなどを経験。99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプ社でグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。著書『大逆転の痴呆ケア』『認知症開花支援』(中央法規)。TV出演『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK)。
まず知っておきたい「認知症」の基礎知識
「ひと言に“認知症”といっても、その原因となる疾患はさまざま。記憶の障害が出たり、理解力や判断力が低下したり。人によって症状の度合いは異なり、それによって起こる生活の支障も個人差があります」
実は認知症は病気ではなく、脳への障害によって発生した特有の症状を示す総称のこと。ひとつのケースに当てはめることができず、しかも具体的な障害が目に見えないため、表向きは何も問題がないように感じられてしまうところにポイントがあると和田さんは話します。
「例えば身体的な障害であれば、できる仕事・できない仕事の区別や、こちらがどうサポートすれば相手が動きやすいのかの判断がすぐにできます。しかし、認知症の場合はそうはいきません。一見すると健康そうでも、調子の良し悪しによってできることが日々変わる。今日できたことが明日できるとは限らない。だから、周囲の理解やサポートが重要になるんです」
認知症でも活躍できる「職場」とは
では、もし認知症の人と一緒に仕事をすることになったらどうすればいいのでしょうか。そのモデルケースになる取り組みが、2017年9月に東京・六本木で期間限定オープンした「注文をまちがえる料理店」です。
和田さんが実行委員長となって実施されたこのプロジェクトでは、ウェイターがすべて認知症患者。注文を間違えてしまうこともあれば、自分がウェイターであることすら忘れてしまうこともあります。しかし、それを前提にしているからこそ、レストランに来たお客さんからクレームがでることもなく、むしろそこに面白さを見出してくれる人が集まり、盛況に終わりました。成功のポイントは?
「まずはきちんと雇用側が働き手の症状を把握することが大切です。そのうえで、できること・できないことの線引きをする。今回のプロジェクトであれば、自分で歩けること、会話ができること、排泄コントロールができることを条件に求人・選考しました」
「もしできなかったときはサポートできる体制を整える必要もある」と和田さん。たとえ認知症であろうとも、自分が活躍できる場所があるのは嬉しいもの。働いていたときのことを忘れてしまうことはあっても、働いている中で感じた感情はどこかで覚えているそうです。
「もちろん、今回のプロジェクトも周囲の理解や協力があったからこそ実現できたものです。働く人と働く場所のマッチングがうまくいけば、認知症の人でも十分に働くことができるはずです。認知症の人がデイサービスに通う代わりに働く機会を得られたら、それは社会的に新たな可能性を生み出すことに繋がるのではないでしょうか」
文:村上広大 写真提供:注文をまちがえる料理店実行委員会
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