メールで「無駄なラリー」を生んでしまう人に足りない“2つの観点”――上阪徹の『超スピード文章術』

仕事でもプライベートでも、文章を書く機会がどんどん増えている昨今。ところが、文章をめぐって、こんな思いを持っている人がいませんか?

「文章が苦手。書いている時間が辛い。メールも企画書もできれば書きたくない」

「最初の1行を書き出すまでに、ものすごく時間がかかる」

「文章がうまく伝わらない。しゃべって伝えることはできるのに」

「書き直しを何度も命じられて、いつまで経っても書き終わらない」

「数千字のレポートは、文字が埋まらなくて苦痛だ」

こうした人にこそ、ぜひ読んでいただきたいのが、著書『10倍速く書ける 超スピード文章術』が大きな話題になっている上阪徹さんの本連載です。メール、企画書、レポート、ブログ、SNSまで、実は誰も教えてくれなかった「大人の文書」のすばやい作り方を学べる、全5回です。f:id:k_kushida:20170921113556j:plain

ブックライター 上阪徹さん

上阪徹事務所代表。「上阪徹のブックライター塾」塾長。担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売り上げは200万部を超える。23年間1度も〆切に遅れることなく、「1カ月15万字」書き続ける超速筆ライター。

1966年産まれ。89年、早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリー。これまでの取材人数は3000人超。著書に『10倍速く書ける 超スピード文章術』『書いて生きていく プロ文章論』『正常石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』『成功者3000人の言葉』『リブセンス』『職業、ブックライター。』など。

言葉を見つけようとすると、むしろ伝わらなくなる

文章を「書く」のを邪魔している呪縛は「うまい文章を書こうとしてしまうこと」「言葉やフレーズを見つけようとしてしまうこと」。一般的な実用的な文章やビジネス文書で求められているのは、うまい文章などではなく「わかりやすくて、読者の役に立つ文章」であること。そして文章はそもそも「素材」からできており、素材にこそ目を向ければ文章は速く書けるようになること。前回、連載第1回では、こんな話をしました。

実は、うまい文章を書こうとして言葉を見つけようとすることは、むしろ伝わりにくい文章を作ってしまいかねない、という危険も潜んでいます。だからそんなことをする必要はないのだ、という実例を少しご紹介しておこうと思います。

私の書くキャリアのスタートは、会社の求人広告でした。そのときに新人のコピーライターが必ずやってしまうダメなキャッチフレーズがあったのです。これです。

「当社は、とてもいい会社です」

何がダメなのか、もうおわかりでしょう。もちろん、その会社はいい会社なのですが、これでは何も伝わってこないのです。このキャッチフレーズで応募する人はまずいないでしょう。しかし、新人コピーライターは、何か気の効いた言葉を探さないといけない、と考えて、この先も、どんどんドツボにハマっていってしまいます。

「当社は素敵な会社です」

「当社はイケてる会社です」

「当社は輝いている会社です」

「当社はカッコイイ会社です」

ちょっと例を極端なものにしてしまっていますが、要するにこれらはみな、会社を何か言葉を使って表現しようとしているわけです。そういう言葉を見つけようとするのに時間がかかる。それこそ私が駆け出しの時代、300字に1日かけていたのは、これが原因でした。しかも、むしろ言葉を見つけようとしてしまったために、何も伝わっていかなくなる。そんなことになりかねない状況にあったのです。

「素材」に目を向ければ、言葉を見つけようとする必要はなくなる

では、どうすればいいのか。端的に「事実」に着目すればいいのです。

「5年間、社員が一人も辞めていません」

「月に一度は、3連休を取れる制度があります」

「入社半年で課長に昇進する人もいます」

どうでしょうか。まるで印象が変わるのではないのでしょうか。メリットが具体的に浮かんできます。しかも、これらの言葉は、特に書き手が一生懸命に考えて、ひねり出した言葉などではありません。会社が持っていた「事実」なのです。それをそのまま、置いただけなのです。

求人広告を作る上で徹底的に鍛えられたのは、読者はいったい何に反応するのか、ということでした。「いい」「素晴らしい」といった、書き手がひねり出した言葉などではないのです。自分にとって響く事実、なのです。読者は、具体的な事実を知りたいのです。

読者にとって響く事実がちゃんとあるのに、きれいな言葉でまとめて表現してしまおうとするから、むしろ誰も反応してくれない文章が生まれてしまう。私は次第にこの事実に気が付いていったのでした。しかも、こういう大事なことを、大人になってから誰も教えてくれなかったことにも気づきました。

そして、この「事実」こそ、私が先に書いた「素材」のことです。この「素材」に目を向ければ、言葉を見つけようとする必要はなくなります。しっかりした素材を集め、それを文章として構成することができれば、それだけで十分に伝わる文章を作ることができるのです。

「素材」には、3つがあります。ひとつは「事実」、もうひとつは「数字」、そして「エピソード」です。先の会社の魅力の例が、まさにこれに当てはまります。「素材」さえあれば、文章を書くのに困りません。それを書いていけばいいだけだから、書くスピードも速くなります。では、この素材をどのようにしてピックアップしていけばいいのか。

正しい文章素材を集めるためには、2つのキーワードがあります。それが「真の目的」「一人ターゲット」です。

「真の目的」を理解できていないから、素材が浮かんでこない

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まずは「真の目的」です。文章を書くとき、実は2つの目的があることに気づいておく必要があります。それが「表面上の目的」と「真の目的」です。

書く目的?そんなの、決まってるじゃん、文章を書くことだろ、と思われるかもしれませんが、それは「表面上の目的」です。文章を書くときには、実はこれと異なる「真の目的」があるのです。そして、これを理解したとき、素材がぐっとイメージしやすくなります。しかも、適切な素材が、です。

例えば、社内報に自己紹介を掲載することになった。500字の文章をください、と言われた。このとき、「表面上の目的」は「社内報を書く」です。これでは、素材はパッと浮かばないのではないでしょうか。「なにか仕事のこととか、書けばいいのかなぁ」くらいでしょう。しかし、多くのケースで「社内報に自己紹介を載せる」ということについては、会社の目的があるはずなのです。これを確認するのです。

実際に聞いてみると、「ああ、そうそう、職場では見せないパーソナルな姿を社員に紹介する、というのがテーマなんですよ」という言葉が返ってきたりします。これこそが「真の目的」です。「職場では見せないパーソナルな姿を社員に紹介する」です。

どうでしょうか。「単なる自己紹介」と「職場では見せないパーソナルな姿」では、どちらが書く内容、すなわち「素材」が浮かぶでしょうか。

「ああ、実家が豆腐屋で特技が豆腐づくりとかかな」とか「まだ誰にも言ってないけどホノルルマラソンを走ろうと準備を始めた」とか「実はマンションのベランダでプランターの野菜づくりにハマっている」とか、具体的な内容が出てくるはずです。

ただ書く、のではなく、「真の目的」をいつも意識するということです。「真の目的」は「読者の読後感」と言い換えてもいいと思います。

読後感を意識すれば、「何だかよくわからない」文章は避けられる

何かの文章を書かなければいけないときには、必ず「真の目的」を確認しなければいけません。出張レポートの提出を上司にお願いされた。では、そのレポートの「真の目的」は何なのか。

「今度、新しい設備が入ったから、その特徴について見てきてほしい」かもしれないし、「あの取引先で売れている商品をすべてリストアップして部内で共有したい」なのかもしれないし、「今度出店する店の周辺について競合店リストにしてきてほしい」かもしれない。

こうやって「真の目的」をしっかり確認することは、上司からの依頼に確実に答えられる、という利点もあります。そして、素材たる「事実」「数字」「エピソード」も集めやすくなるのです。

議事録をお願いされたときも、「真の目的」を確認しなければいけません。「部長が次のミーティングのために読む」のと「役員会が戦略構築の参考資料にする」のと「取引先とのブレストに使う」のでは、議事録の中身、さらには作り方も違ってくるでしょう。

実はメールにも「真の目的」があります。そのメールで何を伝えたいのか、ということです。依頼なのか、提案なのか、共有なのか、相談なのか、謝罪なのか……。メールの場合は、読者の読後感をイメージしたほうがわかりやすいですが、何のためにメールを書くのか、ということをしっかり意識しておくことです。そうすることで、必要な「素材」が見えてきます。

逆に、この「読者の読後感」がぼんやりしてしまっているから、メールがなかなか書き進められない、ともいえます。だから、「素材」が準備され切らない、たくさん揃っていない、ということになってしまうのです。

ときどき、何が言いたいのかわからない文章がありますが、それは、「真の目的」が見えていないとき、読者の読後感が想定できていないときに生まれると私は感じています。

そして最も危険なのは、「真の目的」も「読者の読後感」も想定できずに、「目的」が「書くこと」になってしまうことです。ブログやSNSでは、この落とし穴がよく待ち構えています。これでは、書くのに難儀するのは当然です。

読者にどんな読後感を持ってもらいたいのか。「真の目的」を意識すれば、文章は一気に書きやすくなるのです。

ターゲットを定めないのは、暗闇で講演しているようなもの

もうひとつ、正しい文章素材を集めるための2つのキーワードが「一人ターゲット」です。平たく言えば、「読み手を意識する」ということです。読み手を意識して書こうとすると、「素材」は集めやすくなります。逆に、それができていないと、どうやって「素材」を選んでいいのか、わからなくなる。

これは講演でよく申し上げますが、「読み手を意識する」ことをせずに書くというのは、真っ暗で誰が座っているかわからない中で講演するようなものだ、と私は思っています。

座っているのは、おじいちゃんかもしれない。若い女性かもしれない。小学生かもしれない。それがわからない中で、話をしようとすれば、これは難しいでしょう。

なぜなら人は通常、相手に合わせて話をするからです。話をするときには、きちんと相手を意識するのに、どうして文章を書くときには、相手をちゃんと意識しないのでしょうか。

そして私はこのとき、読み手はできるだけセグメントしたほうがいいと思っています。極論すれば、一人。なぜなら、一人のほうが話しやすいから、「一人ターゲット」です。

例えば、営業として取引先に新しいプロジェクトの提案書を提出する。このとき、「担当者」と「課長」と「社長」とでは、同じ文面で果たしていいでしょうか。担当者は自分の会社やプロジェクトのことをある程度知っている。課長は自分の会社のことは知っているがプロジェクトのことは知らない。社長は、会社のこともプロジェクトのことも知らない。なのに、3人に提出するのが、同じ提案書でいいのかどうか。

「えっ?一人?」と思われるかもしれませんが、できるだけ一人に定めたほうが的確な「素材」を選ぶことができます。書きやすいのです。逆に最もやってはいけないのは、「みんな」に向けて書こうとしてしまうこと。そうすると、ぼんやりした「素材」しか選べない。これでは、誰にも刺さらないものになってしまいかねません。

「真の目的」と「一人ターゲット」。この2つのキーワードを意識することで、日ごろ書く文章が劇的に変わるはずです。身近なところで言えば、メール。「結局何が言いたいの?」と言われてしまい、無駄なやり取り(ラリー)が続いてしまう人は、この2つのキーワードをあまり意識していないのかもしれません。これを意識するだけで効率的にコミュニケーションが取れるはずです。

「化粧品」をテーマに書くとしたら、こう考えられる

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「真の目的」と「一人ターゲット」を考えると「素材」を考えやすくなる。具体例を挙げてみましょう。著書『10倍速く書ける 超スピード文章術』では「交通安全」をテーマに書いていますが、ここでは「化粧品」を例にしてみましょう。

「化粧品について書く」。これでは、あまりにぼんやりしています。何を書いていいかわからない。インターネットで「素材」を調べようにも、あまりに漠然としています。

では、「真の目的」を「アレルギーの危険の啓蒙」と据えたらどうでしょうか。ぐっと「素材」に近づけるはずです。そして「一人ターゲット」は「若い女性」。身近な若い女性を思い浮かべてみてください。彼女にアレルギー危険の啓蒙で伝える。どうでしょうか。どんな「素材」を使えばいいのか、一気にイメージが湧くのではないでしょうか。

では「真の目的」が変わったらどうなるか。「5分でかわいいメイクを教える」。これまた「素材」は変わってきます。でも、ターゲットによっては、いろいろ書くことが浮かびそうです。子ども向け、中高生向け、働く20代向け。この組み合わせで「素材」をチョイスしていけばいいのです。

さらに「真の目的」が「化粧品に関わるお仕事を学ぶ」だったらどうなるか。これも、ターゲットによって「素材」は変わっていきます。20代男性か、女子学生か、小学生か。ここでも、できるだけ「一人ターゲット」をイメージすると、「素材」はぐっと浮かびやすくなることを想像いただけると思います。

いかがでしょうか。「真の目的」と「一人ターゲット」、イメージいただけたでしょうか。書くときにこの2つのキーワードを意識するだけで、「素材」が浮かびやすく、集めやすくなります。あとは、いかにたくさんの素材を集め、それをどう構成していくか。これが書くスピードを速めます。

次回第3回は、「素材」集めと「構成」をどうするか、についてお伝えしましょう。

【参考図書】

『10倍速く書ける 超スピード文章術』

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著者:上阪徹

出版社:ダイヤモンド社

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