【コラム】映画『スパイダーマン:ホームカミング』の鳥類学(動物行動学者・新宅広二)

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(動物行動学者の新宅広二氏からご寄稿いただきました)

クモだから“動物映画”として『スパイダーマン』新作をチェック

これ、いろんな意味で全作で一番好き。マイケル・キートンのヴァルチャーが最高だ。Vultureとはハゲワシ。ハゲタカとハゲワシは同じ意味だが、和名として「ハゲタカ」とついている種はいない。ハゲタカは口語や文学的な表現で、生物学的な呼称はすべて「ハゲワシ」となっている。

この鳥は、初列風切(翼の先の部分の羽)が大きいのが特徴で、飛翔時のシルエットが鳥類で最も優雅で美しいと私は思うが、それがキャラメカとして再現されている。そしてスカベンジャー(死肉食)という習性も、映画として重要な意味が……。

ただ、ハゲワシは、スカベンジャー故に普通の猛禽のように爪で獲物を持ち上げる握力が完全に退化し歩く程度しかない点と、夜行性じゃない点が実際と異なる。が、キャラは最高にイカしている!

何より土木作業員役のM.キートンが着るドカジャン(というか、フライトジャケット)が、超カッコイイ! ドカジャンの襟がハゲワシと同じ襟羽のようになっているのだ!! M.キートンがバードマンというだけでなく、ちょっと頭部が薄いのもVultureだ。ハゲワシは、死体の内臓に頭をツッコんで食べるので、内臓の体液が頭部に付着して雑菌が繁殖しやすく、皮膚など直接日光消毒の効果を高めるために羽毛が無いハゲ仕様になっている。だから、鳥としてオシャレをするポイントは襟元のみとなってしまうのだ。もしヴァルチャーのウイング・スーツの廉価版が市販されたら、私は絶対買うが、併せてカッコいいドカジャンも、キートンと同じものを購入したい。

実際にハゲワシの生態はかなりユニークだが、研究者が極端に少ない。最近の研究でアフリカではハゲワシの種間社会性がよくできていることが明らかにされて驚いた。種ごとに死体を食べる部位が異なり、協力して一つの死体を複数の種類で完璧に食べつくすシステムになっていて、サバンナの死んだ大型動物の腐敗による伝染病の蔓延を防いでいるのだ。掃除屋と言うよりは、サバンナ自体の機能を安定させる爆弾処理班のような役割と言える。

ハゲワシは死肉食いや食べものを奪い合う意地汚いイメージかと思うが、実はマナーがよく紳士的である。食事も辛抱強く自分たちの番を待つ。これは単にケンカが強い順で遠慮しているわけではなく、解体作業なので、内臓を専門に解体するものや骨を解体するものなど、効率的に作業できるように、いろんな種類のハゲワシが順番を考えて分業しているからだ。家族の絆が強いのも特徴で、まるで下町の家族経営の町工場みたい……というと映画の見方も少し変わってくるのではないだろうか。

最新のハゲワシの生態を知りたい方は、かつてWOWOWで私が監修したBBC earthの『Vulture』(http://amzn.asia/hHmUAQl)が、只今『Amazon プライム・ビデオ』(Amazonプライム会員は無料)で見られるのでご覧ください。

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▲写真は、私がケニアで撮影した絶滅寸前種(CR)のコシジロハゲワシが木で休んでいるところ。

おしまい。

新宅広二(しんたく・こうじ)プロフィール

動物行動学者、監修業。
大学院修了後、多摩動物公園、上野動物園勤務経験のほか、大学・専門学校で20年以上教鞭をとる。哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫など400種類以上の野生動物の飼育技術や生態を修得。狩猟免許も持ち国内外でのフィールドワークもこなす。監修業では英国BBC作品ほかネイチャードキュメンタリーの監修や日本語制作を数多く手がけている。

最新の著書『しくじり動物大集合』(永岡書店)が発売中。150種以上の動物の欠点をイラスト付きで解説し、動物たちの知られざる生態を紹介している。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』ストーリー

ベルリンでアベンジャーズの戦いに参加し、キャプテン・アメリカからシールドを奪って大興奮していたスパイダーマン=ピーター・パーカー。昼間は15歳の普通の高校生としてスクールライフを過ごし、放課後は憧れのトニー・スターク=アイアンマンから貰った特製スーツに身を包み、NYの街を救うべく、ご近所パトロールの日々。そんなピーターの目標は、アベンジャーズの仲間入りをし、一人前の【ヒーロー】として認められること。ある日、スタークに恨みを抱く宿敵“バルチャー”が、巨大な翼を装着しNYを危機に陥れる。アベンジャーズに任せておけ、というスタークの忠告も聞かずに、ピーターは一人、戦いに挑むが……。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』公式サイト:
http://www.spiderman-movie.jp[リンク]

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