全社員に給料を知られるのってアリ?「中小企業ならでは」の人事・評価制度

大手企業ではさまざまな「制度」「仕組み」が充実しているが、中小企業では不十分――そんなイメージを抱いている人も多いのではないでしょうか。

しかし、中小規模だからこそ柔軟性があり、独自の制度や仕組みを活用しているケースも見られます。

最近の中小・ベンチャー企業では、どんな制度導入や取り組みが行われているのか、中小・ベンチャー企業に特化した人事評価制度を提供している、株式会社あしたのチーム代表取締役社長・高橋恭介氏に伺いました。

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社員がモチベーション高く働ける制度を導入

近年、採用市場は売り手市場となっています。新卒の内定率も高まり、大手企業ですら採用難・人材不足に悩んでいる。当然ながら中小企業の採用状況はさらに深刻です。いかにして採用力を上げ、離職率を下げるかが課題。そこで、社員のモチベーションアップや組織の活性化につながるような取り組みに力を入れる中小・ベンチャー企業が増えています。

中小規模の組織だからこそできる制度としては、「異動」や「昇進」に関するものがあります。大手企業より、配属や担当業務・役職に融通が利かせられるのです。

例えば、あるサービス企業では、店長・副店長・リーダーの役割は、すべて「立候補制」。「挑戦したい」と手を挙げた人が研修を受け、卒業したらその役職に就きます。研修では、自身の役割やその会社で働く理由を見つめ直し、言語化するため、モチベーションがさらに高まる。店舗のトップ3人がそのような状態なら、メンバーも影響を受けて意識が引き上げられ、全体が活性化につながっています。

そして、特に重要なのが「評価」に関する制度・仕組みです。

社員にとっては「頑張り」と「給与」が連動していれば、納得感を持ってモチベーション高く働ける。採用難の今、優秀な人材が辞めないように、また優秀な人材を新たに獲得するために、評価制度の整備に注力する経営者が増えています

中でも、先進的な経営者は、人事評価制度を単なる「成果の査定」と捉えるのではなく、「人材育成・能力開発ツール」として活用しています。評価の基準が明確であれば、自身の強み・弱み、今後の課題が明らかになるため、行動目標を立てやすい。結果、成長につながるというわけです。

中小企業ならではの効果的な制度・仕組みとは

人事評価制度に関しては、中小規模の組織だからこそ運用が可能なものもあります。例えば次のような評価方法です。

●絶対評価

多くの会社、特に大手企業では「相対評価」が中心です。これは、部門内あるいは全社内で、社員の業績を序列化し、相対的な関係で評価する方式。最上位の「S」評価を受けるのは全社員のうち5%、その次の「A」評価は10%を対象とする、といったようにです。この場合、同じ働きをして同じ成果を挙げていても、他の社員の状況次第で評価が上がったり下がったりする。それでは公正な評価とはいえないでしょう。

一方、「絶対評価」の制度では、一人ひとりの社員に対して個別に目標設定し、その進捗・達成度合いを評価します。基準をクリアした社員は等しく評価し、等しく給与を上げる。つまり「ナンバーワン」が何人いてもいいわけです。多数の社員が成果を挙げれば企業の業績全体も上がるので、全員の給与を上げても経営に支障は出ません。

また、それぞれは向き合うのは「自分の目標」であり、同僚の評価を気にする必要がないため、人間関係のゆがみも生じにくくなります。

こうした「絶対評価」を運用できるのは中小企業ならではといえるでしょう。

●四半期に1度の評価/半期に1度の査定

「一つの目標を意識し続けていけるのは3ヵ月が限度」と捉え、四半期に1度のペースで評価を行います。低評価を受けても、次の四半期で挽回できる。課題を意識→克服するという「PDCA」サイクルが高速で回るため、社員は自身の成長を感じられるでしょう。

さらに査定を半期に1度ペースにすれば、頑張りが早い段階で給与に反映され、モチベーションがより高まります。実際、ある企業では、半期で挙げた成果が評価され、月の基本給が一気に4万円アップした社員さんがいました。もちろん、下がるケースもあるわけですが、「頑張ったら頑張っただけ収入を得たい」という人にはうれしい制度といえるでしょう。

大手企業だと、このペースで評価・査定を運用することにはかなり抵抗が大きいはず。その点、小回りが利く中小企業では実践している企業が増えています。マザーズ上場クラスのベンチャー企業でも、四半期評価を導入しているケースが多く見られます。

●社員の給与を全社員に開示

今、誰がいくらの給与をもらっているかをオープンにしている会社もあります。

実は当社でも、今年10月より、まずは営業メンバーから各社員の「時給」を開示する予定です。

「働き方改革」が叫ばれていますが、それは正社員であっても「時給」で捉える時代になることだと私は考えています。同じくらいの業績を上げ、同じくらいの年収を得ている社員でも、年間2400時間働いている人もいれば1900時間働いている人もいる。働き方改革とは、要は「生産性を上げていきましょう」ということなので、時間あたりの報酬を意識することが大切だと思います。

当社もこの制度を導入予定ですが、「時給開示」に対し、社員からは歓迎する声が多いんです。自分の位置や働き方を認識できますし、「時給が高い社員の動きを真似ればいいんだ」ということで。

――政府が「働き方改革」を掲げて以来、大手はもちろん、中小ベンチャー企業でも取り組みが始まっています。しかし、「労働時間削減=収益悪化」を懸念する経営者はなかなか行動を起こせていません。一方、社員側も「残業削減=残業手当のカット」に抵抗を示しています。

しかし、本来の目的は、単に労働時間を減らすことではなく、本来の就業時間の生産性を上げるということ。生産性を高めた結果、業績向上につながり、社員の給与が上がる…という好循環をつくっていくのが理想です。

それを目的とした制度・仕組みづくりに取り組む企業こそが、成長の可能性を秘めているといえると思います。

高橋恭介氏/株式会社あしたのチーム 代表取締役社長高橋恭介氏/株式会社あしたのチーム 代表取締役社長

1974年、千葉県生まれ

大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。2年間、リース営業と財務を経験。2002年、ベンチャー企業であったプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまでに成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位にまで成長させた。

2008年には、同社での経験を生かし、リーマンショックの直後に、株式会社あしたのチームを設立、代表取締役社長に就任する。現在、国内22拠点、台湾・シンガポールに現地法人を設立するまでに成長。1000社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用実績を持つ。給与コンサルタントとして数々のセミナーの講師も務める。

EDIT&WRITING:青木典子

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