【ここは法廷だゼ!】その気はあったか、なかったか? 家族泣かせの海産物万引き女

イカ

東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎には傍聴マニアのほか、記者、学生、研修とおぼしき社会人など、さまざまな人が傍聴に訪れるが、刑事裁判の場合、女被告人には傍聴人が集まりやすい傾向があるようだ。それも罪名によって人気度が異なるように見える。覚せい剤取締法違反の女被告人は珍しくない存在なので、傍聴席が満席になるということも滅多にないが、今回傍聴した「窃盗、傷害」で起訴されていた女被告人、Tの初公判は、有名事件でもないのに30分前から法廷前に行列ができるというありさまであった。女なのに傷害罪……おそらくそれが行列ポイントなのであろう。春休みという時期も影響しているかもしれない。しかし、これが傷害罪でなく強盗罪ともなれば、この行列はもっと膨らんでしまうのではないか……? などと、どうでもよい事を考えてしまいながらも、とりあえず、筆者も色々なドラマを想像しつつ法廷前の列に並んだが……。

Tは年明けのある日の午後、スーパーでスルメイカ、イカの塩辛、辛子明太子等、約5000円分の品を持参のバッグの中に押し込みそのまま店外へ。ずっとその様子をチェックしていた警備員が声をかけると「知りません」としらばっくれながら駐輪場へ歩き続けた。そして、左手でTのバッグの持ち手をつかんだ警備員に対して、その指を引っぱり、全治10日の怪我を負わせたという。それにしても海産物が多いが、万引きエリアが水産コーナーだった影響だろう。

思っていたよりドラマチックでなかったためか、この起訴状が読み上げられた時点で何人かが法廷を出て行き、その後もポツリポツリと傍聴人は法廷から出て行った。致し方ない。万引きの裁判はそんなに珍しくないのだ。

Tは昨年まで仕事をしており定期的に収入もあったが、昨年解雇となった。情状証人として証言した姉が、Tの分の両親の遺産も管理しており、頼まれるたびにそこから出していたという。

「妹に渡すと使ってしまうので預かっていた。親の遺産をアテにして欲しくないんです!」

語気鋭く述べる姉。不景気のあおりをうけた、やむにやまれぬ万引き……かと思っていたのだが、どうも、そうではない雰囲気も感じさせる。実際、仕事探しもそれほど熱心でなく、生活に困るたび例の遺産や、姉の会社でアルバイトをさせてもらい、しのいできたようだ。なにげに恵まれた環境ではある。また昨年にも万引きを働いている。

「スーパーに行った時は万引きしようとする気はなかった……」

すさまじく震える声でこう述べていたが、そもそもカゴを持たずに店内をうろうろしていたことも警備員が証言しており、疑わしい。当然ながら、

裁判官「最初から盗む気があったんじゃないですか!?」
T「いえ……」
裁判官「バッグに商品入れたら、すぐ疑われるでしょ!」
T「……」

裁判官も疑っているようだった。

いつ万引きをやろうと決意したのかは定かではないが、店内にカゴを持たずに入ったというのであれば、店に入る時点で万引きをやる気があった可能性は高そうだ。何度も繰り返してしまう万引き犯は珍しくない。今回、やたらと傍聴人の多い法廷で裁かれた事を胸に、もう裁判なんて二度とヤダ! と次の万引きを思いとどまる……ようなことになってくれればいいなぁ……。

画像引用元:flickr from YAHOO
http://www.flickr.com/photos/aoiakanemidori/2999046910/

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高橋 ユキ

傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。

ウェブサイト: http://tk84.cocolog-nifty.com/

TwitterID: tk84yuki

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