40歳までに、まず「“投資”すべきもの」とは?―『お金が貯まるのは、どっち?』著者・菅井敏之氏インタビュー
すがい・としゆき
1960年、山形生まれ。 三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。個人・法人取引、およびプロジェクトファイナンスを担当する。42歳で不動産投資をはじめ、4年後には家賃収入が7000万円に。48歳で銀行を退職し、セミリタイア。2012年、田園調布にカフェ「SUGER COFFEE」をオープン。著書『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム刊)はシリーズ累計45万部のベストセラー。
銀行員時代の経験から、
お金を増やす25の法則をまとめた
『お金が貯まるのは、どっち!?』が
ベストセラーになった。
「銀行員は天職だった」と語る菅井氏だが、
48歳で退職し、
専業大家としての道を歩み始めた。
その理由とは。
「相手の困っていることを見つけて解決する」で成績トップ
銀行には25年いました。ずっと営業です。もともと銀行と旅行代理店と、2つ内定をもらったんですよ。自分のキャラからいえば旅行代理店のほうが向いていた。真面目で堅物な銀行員のイメージは自分にはかけらもありません。でもなんとなく旅行代理店にいったらワンオブゼムになるだろうと思ったんです。逆に銀行のほうが、僕みたいに明るくてフットワークが軽くて、プライドがないからドブ板だってやれる人間の持ち味が生きるんじゃないかと。それだけなんです。
入行してからずっと、営業成績はダントツ。営業の仕事って要はサービス業です。コミュニケーション能力を発揮して、相手が困っていることを引き出し、解決してあげること。これがものすごく自分に合っていたんですね。向いていないと思った仕事が、実は天職だった、というわけです。人の可能性というものはわからないものですね。
子どものころから父親に繰り返し聞かされた話があります。父が小学校3年生の時、椅子の上に立って張り紙をしている先生を見つけて、椅子を支えてあげたんですって。紙には「進取の気性」と書いてあった。父が尋ねると先生は「お前がいま先生にしてくれたことが、進取の気性っていうんだ」と教えてくれたそうです。本来の意味とは違いますよね。本来は「新しいことを取り入れる」という意味ですから。でも父は「進取の気性とは、自立的に動いて行動すること」だと理解した。先生に褒められたことが嬉しかったんでしょうね。子どもや孫にこればっかり話すんです。人が困っていることを先に見つけて、言われる前に手を出せ、それが世の中で一番大事なことだぞ、と。それで子どものころから、玄関の掃除をしたり雪かきをしたり。率先してやっていました。
会社に入ってからも同じなんですよ。人が困っているのを見つけて手を出す。僕のお客さんは会社経営者。社長の頭のなかを占めている困りごとの半分は、経営のことですよね。最初は「営業順調そうですね」なんて褒めるんです。すると「そんなことないんだよ」「ええ?そうなんですか」「去年より悪いよ」。本音が出てくる。そこで販路の開拓をしてあげたりすると、大喜びされて。「銀行さんがそんなことしてくれるの?」となるわけです。後継が心配だといえば、息子さんのお嫁さんを紹介する。何度お見合いをセッティングしたことか(笑)
とにかく相手のことを一番に考える。普通の銀行員は真面目だから、自分が困っていることをいきなり口にしちゃうんです。「今月はノルマ2000万円なんです、社長お願いします」。相手の都合お構いなし、むしろ自分の困っていることを相手に解決してもらおうと思っている。それ、違うじゃないですか。
父親を一人にしておけなくて、48歳で銀行を退職
ずっと楽しく仕事して、42歳で支店長に。あらためて富裕層のお客さんを回る機会がありました。貯金も土地もある資産家、でも毎月入ってくるお金は年金しかないという人は表情が暗いんです。お金があってもこわくて取り崩せない。お金があるのに使えない。ちっともうらやましくありませんでした。ところが、預金は大したことなくても、年金のほかに30万円、40万円と新しいお金が入ってくる人は明るい。菅井さん今度歌舞伎行きましょう、ゴルフ行きましょうって、いつも元気。
そこでわかったのは、人の幸せはストックじゃない、新しいお金が毎月入ってくるかどうかで決まるんだ、ということです。それを可能にする資産には大きく3種類あります。1つ、国債や投資信託などの分配金、2つ、アパートや駐車場などの収入つきの不動産、そして3つ目が、自分のビジネス力。この3つが「金の卵を産むニワトリ」です。
僕は、それが欲しいと思いました。銀行は確かに天職でしたけど、50歳までには経済的にも時間的にも自由になりたかった。というのは、長男なのに東京で就職しちゃって、父親を山形に残していたんですね。僕が50になったら父は85になる。これは1人にしておけない。東京と山形を行ったり来たりできる経済基盤を持たないと、親の死に目にもあえないし、僕はずっと後悔すると思ったんです。
幸い、42歳の段階で4000万円のお金が貯まっていました。29歳のときは貯金ゼロだったんですよ。僕の20代はバブルの時代で、貯金している奴なんて誰もいなかった。でもある日、こんな2人を担当しました。40歳で年収1300万円、でも貯金ゼロのAさんと、やはり40歳で年収500万円、だけど金融資産は2000万円のBさん。このままでは僕もAさんのようになると思うと背筋が寒くなって、悔い改めたんです。それからは徹底的にストイックに無駄遣いしないでお金を貯めました。土日にゴルフにいく代わりに、子供のミニバスケのコーチになって。大声が出せてストレス解消、ママさんたちからはヒーロー扱い(笑)。会社の、どうしても参加しなくてはならない飲み会も二次会に行かなくなりました。
この4000万円を種銭にアパート経営に乗り出したわけです。それまでお金を貸すほうでしたから、どうやったらお金が借りられるかもわかる。2年のうちに6棟のアパートを買って、家賃収入が7000万円を超えたところで銀行をやめました。
不動産投資家、作家、
カフェオーナーと数々の顔を持つ。
最近では、自らの経験をもとにした
『京都かけだし信金マンの事件簿』
(アスコム刊)
という小説も上梓。
菅井氏のように経済的に自立し、将来の不安から解放された
「豊かな人生」を歩むには、どうすればいいのか。
投資するなら、株やFXよりも「まず自分」
宣言通り、僕は50歳で経済的・時間的な自由を手に入れました。だけどそれまではとにかく本業を徹底的にやった。相手の困りごとを見つけて答えを出す。そのたびに自分の引き出しが増えていきました。スキル、人脈、問題解決能力、ぜんぶ本業で磨いたものです。誰もがアパートを買えるわけじゃないし、種銭があるわけでもない。あるのは自分そのもの。つまり若いうちは、3種類の「金の卵を産むニワトリ」のうち、ビジネス力を膨らませておくべきです。そのためにはやっぱり「仕事を一生懸命やる」こと。120%のリソースを突っ込んで、周りから抜きん出るぐらいのビジネス力を身につけるんです。
70歳になっても毎月30万稼げるビジネス力のほうが、株やFXよりよほど価値がある。それは若いうちじゃないと身につけられないものです。だから力を出し惜しみしている場合じゃない。120%突っ込む。結果を出せば大きな仕事を任される。また120%突っ込む。その繰り返しでどんどん引き出しが増えていきますよ。給料をもらいながらビジネス力を高められるなら、こんなにいいことはない。
結果、お金も貯まっていきます。給料のうちの2割は強制的に貯蓄してください。使ったあとに余ったお金を貯めようとしても、貯まるわけがない。まず貯蓄して、残ったお金で暮らすんです。ざっくりでいいから家計簿もつける。皆さん、自分のお金に責任を持っているという意味で、社長と同じなんです。社長だったら会計を知っているのは当然のことですよね。収支を把握していない会社はつぶれてしまいます。これは個人でも同じなんですよ。
銀行員時代と変わらない「世話焼きおじさん」として生きる
セミリタイアした次の年に、父が亡くなりました。最後は集中治療室に一週間付き添って、親の死に目にあうという願いを叶えることができました。ところが、いざ願いが叶って見ると、もぬけの殻になっちゃって。専業大家も、最初の半年は楽しかったけど、だんだん飽きてきました。誰からも相談されない、電話もかかってこない。これは辛いですよ。セミリタイアなんて、憧れを持つものじゃありません。
それで自分はどういう時が幸せなんだろうって、思い返してみたんですね。そしたら、相談ごとだった。人の困りごとを聞いて解決してあげて喜んでもらったときが何より嬉しい。よく考えれば、父も世話好きオヤジでした。村の人がやってくると、茶の間で相談に乗るわけですよ。「なんにもお返しするものがなくって、気持ちだけ」なんて、大根をもらったりしてね。幸せってこういうことだと思いました。少なくとも僕は、そういう相談の時間を持つことが幸せなんだと。
最初は、みんなが集まれる大人向けのネットカフェにしようかと思ったんですが、人の勧めで自家焙煎の喫茶店にしました。コーヒーなんて全然知らなかったんですけど、茶の間の父の姿が思い浮かんで、ピンときた。困ったのは、客が来ないこと。乗降客3万人以上の駅の近くで、かつ同業のないところを探したんですが、オープン半年でカフェができて、目の前真っ暗(笑)。お客も全然来なくて。作家として一作目の『お金が貯まるのは、どっち?』を書いたのも、お店をPRする意味がありました。でも内容は、世のニーズに合っていた。資産家になりたいと思ったら銀行からお金を借りる技術、リテラシーを身につける必要がある、そんなこと親も学校も教えてくれないじゃないですか。でも僕は元銀行員、お金を貸す側の理屈を知っている。それをたくさんの人に教えたいと思って本にしたのが『お金が貯まるのは、どっち!?』。40万部売れました。
場所が少し変わっただけで、銀行員のころからやっていることは全く変わりません。困っている人を助ける。特に、自分では気づかないポテンシャルを見つけてあげて、その人の顔が一瞬輝くのを見るのが生きがいなんです。理髪店の人が人の頭の形を見て「俺ならこう切るのに」と思うのと一緒で、その人の強みとか、お金を貸せるポイントを探すのが癖になってるんです。つまり「いいとこ探し」。銀行でも審査の人間は「こんなリスクがあるから貸せない」ってダメ出しばかりするんだけど、営業はそうじゃなくて、その人の強みを見るんです。この人は自営業者だけど3期連続黒字で優良顧客から安定的に売り上げがあるから、そのへんのサラリーマンよりよっぽど安心ですよ、とかね。
人のいいところを発見するのって楽しいですよ。それで今も、毎日4人ぐらい相談に乗って、のべ3万人にはなったでしょうか。究極の世話焼きおじさんですね。
『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』 菅井 敏之著
京都の駆け出し信金マン、和久井健太が、中小企業の側に立って奮闘するも、その裏にはメガバンクの謀略が。
「メガバンクと信用金庫、口座を開くならどっち?」 「お金を貸す側の銀行は、何を考えている?」 「どうやって銀行を利用したらお金持ちになれる?」等、お金の増やし方のエッセンスが凝縮したエンタメビジネス小説。菅井氏が銀行員時代に経験したエピソードが元になっているため、なかなか表に出ない金融業界の裏側も覗ける。(アスコム刊)
※リクナビNEXT 2017年6月14日「プロ論」記事より転載
EDIT 高嶋ちほ子 WRITING 東雄介 DESIGN マグスター PHOTO 栗原克己
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