『2足のわらじ』 が本業に与える好影響――バスクリン営業・平田氏が2足のわらじを履く理由
株式会社バスクリンといえば、きき湯、日本の名湯シリーズなどの入浴剤をはじめとした日用品メーカー。お風呂の文化を守る「銭湯部」があるなど、面白い取り組みをされている会社です。(銭湯部に関する記事はこちら)
そのバスクリン社に、元オリンピアンであり、現・バスクリン営業マネージャー・兼日本ボート協会オリンピック・選手役員の会理事長という珍しい働き方をされている方がいるのをご存知でしょうか。今回は、バスクリン社の平田明久さんに、「二足のわらじ」をはくまでのキャリアと、副業が本業に与える好影響について伺いました。
【プロフィール】平田 明久(ひらた あきひさ)
1963年東京都墨田区生まれ。
1988年、24歳の時に、ソウルオリンピックにて、ボートのエイト(8+)種目で選手として出場した経歴を持つ、元・オリンピアン。所属していたマツダオート社の方針変更に伴い、バスクリン社に転職。以来、同社の量販部営業担当として、全国の小売チェーンの本社に対して商品提案などを行う。
副業として、日本ボート協会「オリンピック・選手役員の会」の理事長を務め、小中学生向けに「オリンピアンが教えるボート教室」の開催・講師、次世代選手の普及・育成を行っている。自身も大会に出場し、2017年6月に開催された第10回全日本マスターズレガッタで優勝するなど、現役選手としても活躍中。
国内ではNo.1。日本代表としてオリンピック選手になったものの、世界では歯が立たなかった。
ーはじめまして。早速ですが、元・オリンピアンということで、選手活動について教えてください。
平田:はい、24歳のときに1988年のソウルオリンピックにボートの選手として出場しました。一口にボートといっても色んな種目があって、私はエイト(8+)という8人の漕ぎ手と舵手で艇を進める種目で出場しました。他にも1X(1人乗り種目)や2X(2人乗り種目)や4X(4人乗り種目)などあるのですが、エイト(8+)は全種目の中でも最も人数が多く、スピードも最速。ボート競技の中では花形種目です。
―花形種目というと、陸上で言うと100m走のようなものですね。
平田:はい。ですから、各国からエース級の選手が投入されます。私の身長は184cm。自慢ではないですが、国内では常に1位を獲ってきました。でも、世界を相手にしたら、まったく歯が立ちませんでしたね。各国の選手は2mを超える選手がザラにいます。筋肉も隆々で、まるで大きさが違う。スタートと同時にあっという間に先に行かれたことを、今でも鮮明に覚えていますよ。
オリンピックが終わった後も、日本ではNo.1。なのに、世界では通用しない。コンディション・モチベーションの維持には相当苦労しましたね。
ー厳しい世界にいらっしゃったのですね…。なぜ、そこからバスクリン社に転職をされたのですか?
平田:もともとマツダオートの実業団に所属する選手としてオリンピックに出場したのですが、方針変更により実業団が無くなることになりまして。でも、ボートは続けたいし、オリンピックは諦めきれなかった。そこで探し回った結果、「ボートをやって良い」と言ってくれたバスクリンに転職しました。ありがたいことに、次のオリンピックに挑戦する機会をいただけたのです。
選手としての限界と、家族。
ボートを引退し営業として第二の人生を歩むも、縁あって再びボートの世界へ。
ーバスクリンに入社した後、再びオリンピックを目指された、ということでしょうか?
平田:いえ、実は数年で現役選手を引退しました。きっかけは2つです。
まず1つ目は、選手としての限界を感じたことです。年齢とともに体力が落ち国内での順位が徐々に落ちてきた。2つ目は、同じタイミングで結婚して家族ができたことでした。自分が家族を養わないと、と決心し、そこからは営業の仕事に集中しました。
ーボートの活動に未練はありませんでしたか?
平田:未練が無い、とは言いませんが、自分なりにはやり切ったと思った。だから悔いはなかったですね。しばらくはボートから離れ、平日は営業、休日は子供の野球に付き合って審判をやったりと、父親らしく過ごしていました。
ただ昨年、急に日本ボート協会から、「発足した『オリンピック・ボート選手役員の会』の理事長になる人間を探しているんだけど、平田さん、理事長になってくれないか?」と打診があって、結果的に仕事と日本ボート協会(以下、『ボート協会』)の理事長の「二足のわらじ」として活動することになりました。
なぜ私に…とも思いましたが、「かつて一緒に苦楽を共にした仲間が、次世代にボートを広める活動をしないでどうする」ということだったのだと思います。それをきっかけに、ボート協会理事長としての活動が始まりました。
本業と本業以外の活動の切り分け方と、相互に与える影響とは。
ーボート協会の理事長として、どのような活動をされていらっしゃるんですか?
平田:一言でいうと、「未来のボート選手を育成するために、ボートの楽しさを広める」活動です。つまり、ボート業界の活性化のために、認知を広げる、集客する、育成する…マーケティング的な活動を行っています。代表的なのは「オリンピアンが教えるボート教室」というイベント。主に小中学生向けに日本全国で開催して、陸上でも乗れる擬似ボートを使って教えています。先日もボート競技普及の一環で、休日の港区お台場で擬似ボートセミナーを開催しました。道を歩いている人に声をかけ、シミュレーション的にボートの動きを体感していただいたのですが、かなりの盛況になりました。
理事長というと、椅子に座っているだけと思われがちですが、基本的に土日はイベントに出ます。「まずは現場に足を運ぶ」とか、「始めたらとことんやり続ける」…営業もボートも同じですね。
ーとてもパワフルですね。ちなみに、ご家族からの反対は無かったのでしょうか…
平田:それがありがたいことに、「どうぞどうぞ」と。元々妻もボート選手だったこと、子供たちが大きくなっていたこともあり、特に反対はありませんでした。が、いきなりの理事長就任でびっくりはしていましたね。
ー平日は仕事で疲れて、土日はさらにハードなボート協会の活動…正直、疲れませんか?
平田:そう思うでしょう?でも、疲れないんですよ、これが。全く違う種類の活動をしているからだと思います。平日は頭をフル回転して営業に集中。休日は、体を思いっきり動かしてボートに集中。ボート協会の活動は肉体的にはハードですが、本業のことを忘れて体を動かすのでストレス発散になる。逆に、スッキリした頭で営業の仕事に戻るので、また営業に集中できる。良い循環ができているのでしょうね。
▲(上:2017年6月全日本マスターズレガッタ表彰式、右から2番目が平田さん)選手としても活躍中。手元には金メダルが輝く。
ーボート協会の業務で本業に支障が出ることはないですか?
平田:基本的には厳密に区切っており、本業中にボートの活動をする、ということはしません。とはいえ当然、平日にボート協会に関する連絡は来ます。急ぎのメールがあれば、本業中に返信せざるを得ない場合もありますし、スポーツ振興活動ですから、文部科学省への訪問などの予定が組まれることもあります。本業に支障がないかと言われると、…ありません(笑)。
平日に組まれた協会の活動への参加が難しそうであれば他のメンバーにお願いしたり、逆にボート協会の活動が先に組まれれば、キッパリ休みをとって活動をします。その辺りは状況を見ながら柔軟に判断しています。
元々、バスクリンはスポーツに対する貢献活動が盛んということもあり、会社にも申請して正式に活動を認めてもらえています。会社メンバーの理解や応援あってのところもありますが、理事長ということもあり、比較的調整はしやすいかもしれません。
ーあまり共通点の無さそうな2つの活動ですが、二足のわらじをすることによる、良い影響はありますか?
平田:そうですね。先ほどお伝えしたような、平日と休日で良い循環ができていることが大きいです。また、一方の知識や経験がもう一方に活きる、ということも実感しています。
例えば「オリンピアンが教えるボート教室」では、身体のメンテナンス・リカバリーのためにも、入浴の大切さはしっかり伝えます。「これだけ身体を使ったのだから、しっかりお風呂に入って身体をケアしなさい」と。たまに、「きき湯ファインヒート」という入浴剤のサンプルを配ったりしてね。バスクリンでは、入浴がスポーツのパフォーマンス向上やコンディション維持に役立つといった研究(https://www.bathclin.co.jp/happybath/sports/)にも取り組んでいるんですよ。
逆に、ボート教室で「お風呂に入ったら疲労回復につながった」という声をいただければ、それを営業の方で使うこともあります。身体を使うことと休めることは表裏一体。別の活動ながら、実はつながっているんですよね。
あとは、元・オリンピアンがいることが、一つの営業トークにもなっていることでしょうか。「うち、オリンピアンがいるんですよ」って。営業担当者が訪問先で使っているみたいです(笑)。―最後に、読者の方にメッセージはありますか?
平田:「まずは何でも良いから、やってみよう!」ということですね。やってみて、やり続ければ、応援する人も増えていきます。また、やっていることが別のことに良い影響を及ぼすと思います。
私自身、ボートの活動を通じていろんな方に支えられて自分自身のキャリアを築いてきました。
今後のビジョンとしては、ボートを頑張っている子供たちにも、これからボートの世界に入るかもしれない子供たちにも、オリンピックや世界大会の景色を見てもらいたいなと思っています。ボートにも「軽量級」という種目があり、日本人でもメダルを狙えるチャンスがあります。この「軽量級」を含め、世界で表彰台に立つボート選手を増やしていくことで貢献していきたいですね。そして、そのボート選手たちがより世界の舞台で輝けるよう、「入浴」からも役に立てていければ、これ以上幸せなことはないと思っています。
―ありがとうございました。
インタビュアー【羽渕 彰博(ハブチン】
1986年、大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事し、ファシリテーターとしてIT、テレビ、新聞、音楽、家電、自動車など様々な業界のアイデア創出や人材育成に従事。2016年4月株式会社オムスビ設立。
ハブチン (@habchin3) | Twitter
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