奪われた時間は過去?それとも未来?冤罪の補償は1日最高1万2500円!?「冤罪」について弁護士に聞いてみた!
今さらながら、『プリズンブレイク』にハマっています。世界規模の大ヒット作ですから、やはり面白いです。次から次へと予測できない事件が起こり、展開が二転三転。主人公のイケメン具合も最高です。
こちらの作品のテーマのひとつが「冤罪」。ニュースなどでは時々目にするこの「冤罪」ですが、意外と「冤罪」の補償やその後について知る機会はありません。冤罪となった人はどれだけの補償を受けるのか、冤罪を罰してしまった機関や人に何らかの裁きはあるのか。今回は、この「冤罪」について改めて掘り下げてみようと思います。
–記者
ドラマや映画ではよく見る「冤罪」や「誤認逮捕」ですが、実際にも実は結構起こっているものなのでしょうか?なお、法律、裁判、起訴など、罪の確定はどのような流れ、場所で、最終的に誰によって決まるものなのでしょう?改めて教えて頂けますでしょうか?
–岩沙先生
犯人ではないのにもかかわらず犯人のように扱われる冤罪や誤認逮捕は実際に起こっています。根本的な原因は「人が裁く」ことにあります。裁判官も神さまではないので、証拠から判断できる過去の事実と本当の事実がズレてしまうのです。
なお、起訴されたものに関して、犯罪があったかどうかは最終的に裁判所が判断します。憲法37条は「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定し、刑事訴訟法333条は、「被告事件について犯罪の証明があったときは、…判決で刑の言渡をしなければならない。」と規定しているからです。
もっとも、検察官は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができ」(刑事訴訟法248条)、軽微な事件で、前科がないような場合は裁判にならない場合もあります(いわゆる不起訴)。したがって、裁判にするか否かについては検察官が判断することになります。
–記者
冤罪であったにも関わらず何十年も服役していた。なんてニュースを時々目にします。こういった冤罪が認められたケースの場合、罪を確定させた機関、人、国などは、その方に対してどのような対応、補償をおこなっているのでしょうか?間違いでした。ごめんなさい。で済むとは到底思えないのですが。
–岩沙先生
憲法40条は、「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」と定め、被告人は被った損害を補うために、国に対して補償を求めることができます。これを刑事補償制度といいます。具体的内容は刑事補償法に規定されており、抑留、拘禁、懲役、禁錮による補償においては、その日数に応じて、1日1000円以上1万2500円以下の割合による額の補償金を交付すると定められています。
過去には、逮捕されてから無罪判決が言い渡されるまでの133日間で、166万2500円の補償が認められたものがあります(1日1万2500円計算)。
–記者
逆に、裁く側の方々は何かの法律や制度によって守られているのでしょうか?それとも冤罪を出してしまった事に対して、何らかの罰則や規定などがきちんと定められているのでしょうか?
–岩沙先生
国家賠償法は、「公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と規定し、公務員が違法行為をした場合は国が賠償責任を負うと定めています。また、公務員個人に著しい注意の欠如がある場合は、国は公務員個人に対して求償できることになっています。
もっとも、被害者が公務員個人に対して直接請求することはできないとされており(最高裁昭和30年4月19日判決)、被害者は国に請求できるのみです。また、前述の刑事補償とは別に、さらなる国の責任を追及するのは一般的にハードルが高いです。
–記者
ドラマなどでは、警察による強引な取り調べから、やってもないのに認めてしまう、なんてやりとりを目にする事があります。改めて警察の取り調べや捜査に対して、私たち民間人の持つ義務と権利について教えて頂けますでしょうか?取り調べを拒否する事や、その状況を録画・録音する事など、やっても良い事、法律で禁止されている事などありましたら教えてください。
–岩沙先生
憲法38条1項は、「何人も自己に不利益な供述を強要されない。」と定め、また、刑事訴訟法198条2項は、「取調べに際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。いわゆる黙秘権です。ですから、取調べに対して、答えたい質問にだけ答えて、答えたくない質問に対しては答えないということもできます。質問に答えなくても不利に扱うことはできないことになっていますので、御安心ください。
また、刑事訴訟法198条5項は、「被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印を求めることができる、但し、これを拒絶した場合はこの限りではない。」と規定しています。被疑者には、署名押印拒否権が認められているため「自分はそんなこと言っていないのに」と感じたら、そのような供述調書に署名・押印しないように注意してください。なお、逮捕・勾留されていない場合など、携帯などを持ち込むことができる場合は取調べを自ら録画・録音することも不可能ではありません。もっとも、警察からは喜ばれないでしょうね。
暴力的な取調べや長時間にわたる取調べなど、違法・不当な取調べを受けることがあったときには、弁護人に早めに伝えてください。弁護人は、警察官や検察官に抗議をするなど、被疑者の権利を守るために最大限活動します。
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というワケで、今回は“冤罪”について、弁護士の岩沙先生に色々とお話を伺いました。身に覚えがないにも関わらず、いつ自分が事件に巻き込まれるかなど誰にも分かりません。また、一度貼られた罪人のレッテルは、そう簡単に消えるものではないでしょう。その補償が一日12500円というのは果たして妥当なのでしょうか。個人的には少なすぎるように感じます。冤罪によってその人が奪われたものは、拘留されていた時間ではなく、冤罪が確定したその後の長い人生すべてなのかもしれないのですから。
・取材協力
岩沙好幸(いわさよしゆき)弁護士(東京弁護士会所属)
弁護士法人アディーレ法律事務所
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