人だけでなく動物たちからも日常を奪った大震災 ペット支援dogwood代表・我妻敬司<インタビュー「3.11」第9回>

dogwood代表の我妻敬司さん

 東日本大震災から、まもなく1年を迎えようとしている。東北地方を襲った地震と津波の猛威は、いともたやすく人々から「日常」を奪った。しかし、それは「人」に限ったことではない。

 宮城県仙台市のペット関連サービス企業「dogwood(ドッグウッド)」代表でブリーダーの我妻敬司さん(41)は、震災直後から被災した犬や猫などのペットを保護する活動を行っている。自宅に住めなくなった人や、避難所や移転先での生活を強いられている人たちから、ペットをスタッフ・ボランティアとともに無期限・無料で預かってきた。

 経営するペットショップの敷地内に13棟の保護施設をプレハブで設置し、現在までに450頭のペット達(猫が95頭、犬が355頭)を保護。また、飼い主を失って町を彷徨っていたペットの保護や、震災で命を失ったペット達の亡骸を埋葬する活動も同時に行ってきた。

 感情を言葉で伝えられる人間と違い、動物であるペットに語る術はない。私たちは「人」の動向ばかりに注目しがちだが、ペット達も人間と同じように生きていることに代わりは無い。ペット達は震災でどんな困難に直面したのか。

・東日本大震災 3.11 特集
http://ch.nicovideo.jp/channel/311

(聞き手:吉川慧)

■はじめは「ペット預からせてください」と言っても怪しまれた

飼い主の行方がわからないペット達 。原発非難区域で見つかった犬が多い。

――震災直後に被災したペット達の保護活動を始めたきっかけは何だったのですか?

 震災当日の夜のことです。仙台市の荒浜地区で200~300の遺体が見つかったという報道を知り、初めて津波の被害を実感しました。津波が来ていることは知っていたが、まさかそれほど大きな被害を受けているとは思っていませんでした。

 自分にできることは無いかと思い、沿岸部のほうへ向かいましたが…津波のせいで海水が内陸まできており、海沿いの地区まで行けない状態で。これを目の当たりにしたとき、「素人の自分が、水のなかに入って活動することは難しい」と感じました。でもその代わり、「ペットのプロである自分達ができることをやろう」と考え、すぐその準備にとりかかりました。ブリーダーであり、ペットショップを営んできた自分達が一番力を発揮できる部分でお手伝いしようと思ったんです。

 被害状況から、ペットフードが不足したり飼い主さんのはぐれてしまったペット達もいたりするんじゃないかと考えて。これが、今日に至るまでの活動のきっかけです。震災後、電気はすぐに止まり水道も2日後には断水してしまいましたが、幸運なことに私の経営する施設の被害はほとんどありませんでした。施設の壊滅的な被害を免れたことも、地震と津波のすぐ後からペットの支援活動ができた大きな理由でもあります。

dogwood代表の我妻敬司さん

――どのような支援活動から始めたのですか?

 まずは物資やペットを運ぶ車のガソリン確保ですね。とある新潟県内のガソリンスタンドの店主さんに事情をお話したら、何千リットルという量のガソリンを売ってもらうことができました。その新潟の方は、かつて中越地震を経験されていたそうです。それで、活動に理解をしてくださいました。

 準備が整い始めたところで、まず避難所をまわりはじめました。ペットの支援をしていると告知するためにポスターを作って配り、ペットを飼っている方がいるかどうか、必要なものがあるかヒアリングすることに努めました。

 当初は「ペットを預かりますよ」と呼びかけても、「すぐに帰れる」と思っていた方が多くて断られることも多かったんです。それに、どこの誰ともわからない自分が「ペット預からせてください」と言ったところで、怪しまれることもありました。

 でも、時間が立つにつれて避難所にも今回の被害がとてつもなく大きいという情報が入るようになると、「ペットを預かってほしい」という声が多くなっていきました。さらに、地元の新聞社が支援活動の告知をしたことで、預かりを求める電話がたくさんかかってくる状況になりました。これだけ多くの人がペットで困っていたんだなと実感しました。

■「ペットの先には、飼い主がいる」 ペットだけでなく人も支援

dogwood代表の我妻敬司さん

――避難所のペット達に物資も運ばれたということですが・・・。

 ドッグフードとかペット関連の衛生用品が主なものですが、人用の物資も届けました。また、ペットフードの援助をきっかけに知り合った被災者の方に、次に必要なものを聞いたりしました。必要とするものは地域や個々によってちがう。人用・ペット用を問わず集められるものは集めて、必要とする人に使ってもらったりしました。

――ペット用品だけの支援ではなかったのですね。

 そうです。何故かというと、「ペットの先には、飼い主がいる」ということです。私達も、全員に対しての支援はできない。だから、ペットを介して知り合った人を中心に、物を支援できる範囲で提供しました。そうすることで、必要とされる物資の情報も入ってきましたし。

 今でも毎月、ペット支援のために仮設住宅を巡回していますが、そういうときにも米・調味料・衣類などを届けさせてもらっています。そこで、現地の方とコミュニケーションをとって、それをまた発信していくということも必要だと思うのです。

■預かる期限を決めると「カウントダウン」が始まってしまう

我妻さんが保護したペット。震災後、ひとりで彷徨っていた。

――「困っている動物達を救おう」という意識は震災当初から強かったですか?

 正直「動物を救おう」なんていう意識はあまりなかったんです。確かに、(飼い主とはぐれて)放浪しているペット達を保護してあげようという部分はありました。でも一番大きかったのは、飼い主さんを支援したいという気持ちでしたね。

 ペットを飼っていることで避難所に入れなかったり、家族を探すことや家を片付けることができなかったり、色々なハンディキャップを背負うような飼い主さんたちが沢山いたんです。「ペットを連れてきている」という理由から避難所で肩身の狭い思いをしている人もいました。そういう人々の負担を少しでも取り除くことが出来るのであればと思い、無償・無期限でペットを預かることにしたんです。

――「無償・無期限」としたのはなぜですか?

 飼い主さんが早く生活基盤を再建してくれたら、それだけペット達を早く迎えに来てくれるわけです。「タダで預けられるからずっと預けちゃえ」という人は、基本的にはいないと思うんです。飼い主さんもペットと一緒に暮らしたいのですから。無期限・無償であれば、飼い主さんたちも早くペットと一緒に暮らせるような努力をしてくれるでしょう。

 預け期間が長引く場合というのは、仮設住宅や借りあげ住宅にペットと入居できない、仕事が見つからない、家族が亡くなって余裕が無いなど、それなりの事情がある方達の場合が多いです。それはそれで、止むを得ないと思うんです。

 だから、「無償・無期限」で預かることにしたんです。期限を決めてしまうと、預けたその日から「カウントダウン」がはじまってしまう。期限がきたら、事情はどうあれ迎えに行かなければいけない、というようにね。

 そうなると、飼い主さん達も腰を据えて家や仕事を探したりできなくなるかもしれない。負担を取ることが目的なのに、期限を設けたりしたら逆に負担になるかもしれません。生活基盤をきちんと作ってからペットを迎えに来てもらえればと思うのです。

dogwood代表の我妻敬司さん

――今日までに飼い主さんが迎えにきたペット達は全体のどのくらいですか?

 迎えにきたのは4割ですね。残された6割の内訳は、私達で預かっているペット達は131頭と、一時的に預かってくれているボランティアさんのところにいるペット40頭ですね、あとは里親さん候補のところに行ったり、亡くなったりしています。

――我妻さんはペットショップと動物病院を経営していますよね。これらを経営しながら、無償でペットを預かることにためらいはありませんでしたか?

 うちみたいなサービス業はお客さんが戻ってきて、復旧するのは最後になってしまう。だから、地震があったあと店はつぶれると思っていた。「遅かれ早かれつぶれるんだろうから、やることやってからつぶれるなら、それでいいじゃん」って思ったんです。

 やることやって、ダメならしょうがないと思っています。先のこと考えたって、また明日津波がくるかも知れないし、がけ崩れがきて亡くなるかもしれないんだから。突然津波がやってきて、家族・財産・仕事を奪われた人に比べたら、ここは家もあるし、店もあるし、従業員も、家族も無事だった。やろうと思えば、いくらでもやり直しがきくだろうと思って。

■「予防接種を受けていない」震災でわかった飼い主のマナー問題

飼い主から預かっているペット

――ペットを連れていることから避難所で肩身の狭い思いをした被災者の方々がいると聞きましたが、避難所でのペットの待遇はどのようなものだったのですか?

 車を持っている飼い主さんは、車内にペットを置いていましたね。しかし、車の無い人や、普段は家の中で飼っていたペットが避難所(学校の体育館)の外につながれていたという例はありました。

 他にも、埃っぽい学校の体育倉庫の中に入れられたという場合もありました。ほとんどの場合、ペット達は避難所の片隅に追いやられていました。でも避難所によっては、学校の1教室をペットと避難してきた人のために利用できるようにした例もありました。さすがに、これは少なかったですが。

――言葉は悪いかもしれませんが、「邪魔者扱い」ということでしょうか?

 まあ、そうですね。ただ、そういう風にされても「しょうがない」部分もあると思うんですよね。というのも、飼い主さんが伝染病の予防接種などをペットにしていない例が多かったんです。予防をしていないということは、人にもうつる病気を持っているかもしれないということになるわけです。

 避難所の責任者の立場から考えれば、人間にうつる病気を持っている可能性がある動物を避難所の中に入れることは許可できないですよね。私も、避難所に入れちゃだめだと思うんです。飼い主さんが、ちゃんと責任を果たしていないんですから。

dogwood代表の我妻敬司さん

――飼い主さんのマナーが悪いということですか?

 飼い主さんの中にはペットに予防接種を受けさせておらず、定期的にシャンプーもしていなかった例もありました。また、吠えないようなしつけや、ゲージに入れる訓練をちゃんとしていないという場合も多かったです。

 こういうマナーがきちんとできていれば、もう少しペット対する理解もあったかもしれない。避難所に「入れない」のではなく、「入れる準備がされていなかった」ということだと思います。公の場に自分のペットが行く前提が想定の中に無かったという飼い主さんも多かったんですね。

――我妻さんが預かった犬の中には、フィラリア(蚊を媒介とする犬の寄生虫)に罹っていた犬も多かったと伺いましたが・・・。

 現在、私達がお預かりしている犬達のほとんどが、フィラリアに罹っていました。今の時代、なかなかありえないことですよ。フィラリアは100%予防できる病気です。

 フィラリアの予防、外部寄生虫(ノミ・ダニ)の予防、病気予防の混合ワクチンの接種、狂犬病の予防接種の4つは最低限のものなのですが、飼い主さんから預かった271頭(昨年12月の時点まで)の犬のうち、すべてを接種している犬は全体の7.7%(21頭)しかいませんでした。狂犬病の予防接種は法律(狂犬病予防法)で義務付けられていることなのに、していない飼い主さんが多かったんです。

 特に津波の被害にあった沿岸部は都市部とは違い、知人からペットを譲ってもらうことも多い。そうすると、動物病院に行く機会がなかなか無かったりすると予防接種をうけることも少なかったりする。予防接種を受けていないペットの割合が一段と高かったりしたのだと思います。

■これから起こるべく大地震に備えて、飼い主ができること

犬に話しかける我妻さん

――今回の活動を踏まえ、飼い主が大地震に備えてペットに対してしておくべきことはありますか?

 きちんとケージ(かご)に入れる訓練はしておいたほうが、避難先でトラブルになりにくいです。あとは、吠えないことやトイレなどのルールやマナーなど、しつけをしてほしい。それができないと、避難したときに肩身の狭い思いをすることになることもあると思います。

 また、災害に遭遇したときに預かってもらえるところが近所にあるのかを、ちゃんと確認しておいてほしいです。それと、予防接種ですね。

dogwood代表の我妻敬司さん

――最後に、全国のペットの飼い主さんたちに向けてメッセージをお願いします。

 ペットを飼っているだけで、災害時は特に身動きがとりにくくなる部分があることが、現実的に目の前で起きていました。そこには、「予防接種」だったり「しつけ」ができていなかったという部分が多いので、飼い主さんには徹底しておいてほしいです。本当は同行避難、一緒に避難できるのが一番良いわけです。それができるように、飼い主さんには努力してほしい。自分ができることをやってもらいたいなと思います。

 あと、ペットを飼っていない方達へ。ペットは悪くないんです。悪いのは、人(飼い主)ですから。だから、ペットを非難することはしないでもらいたいと思います。動物達は自分で病院に行って、「ちょっと予防薬つけてください」ってことはできないんです。それを、「動物が悪い」ように言ったり、思ったりするんじゃなく、冷静な目で見てほしいですね。頭ごなしに「避難所には入れません」などというのではなく、避難所に入れる条件など、ルールをつくることで、互いに協力できることを、建設的に理解していただければと思います。

(了)

◇関連サイト
・dogwood – 公式サイト
http://www.dogwood-jp.com/
・東日本大震災 3.11 特集
http://ch.nicovideo.jp/channel/311

(聞き手・吉川慧)

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