又吉直樹が考える“原作を実写化する意義”とは 「無理なものを飛び越えていく時に発明が生まれる」

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4月20日から23日にかけて開催された『島ぜんぶでおーきな祭 第9回沖縄国際映画祭』。会期中には又吉直樹さん(ピース)が主演を務めた映画『海辺の週刊大衆』(監督:太田勇/公開日未定)のワールドプレミアが行われた。

ガジェット通信は舞台挨拶終了後の本人を直撃し、主演映画や自身の執筆活動、今後の取り組みなどについて話を聞いた。

『週刊大衆』で無限の宇宙を創造する

又吉:『海辺の週刊大衆』は、無人島に遭難したひとりの青年がいて、何もない島に『週刊大衆』だけがあって、表紙や中身の記事でいろいろと妄想しながら、遊びながら、時間を過ごす。果たしてその後どうなっていくのか、という話です。

――原作小説を手掛けたせきしろさんならでは世界観ですよね。又吉さんとは、自由律俳句集『カキフライが無いなら来なかった』、『まさかジープで来るとは』などの共著も発表されています。

又吉:『週刊大衆』ひとつでここまで遊べるんやな、と思いました。せきしろさんの言葉遊び、大喜利に近いセンスが光っていて笑えました。でも全体で見た時に、ただ面白いだけじゃないんですよね。無人島みたいな状況って都会でも起こり得るというか、自分のちゃんとした居場所が確定していない、つまり社会的に認められていない状況で、孤独を感じてこの先どうなっていくのか分からない不安の中で、それでもひたすら面白い事を考え続ける。そういう人って、結構いてるやろし、その姿がせきしろさんとも重なりました。

――今の言葉を聞いて、又吉さんの小説『劇場』に出てくる、売れない劇作家の主人公を思い浮かべました。

又吉:近いかもしれないですね。自分の創作だけが世の中と繋がっていく唯一の“何か”である、という部分は似ているのかも。言ってみれば、僕自身もモノを作る時には基本的にひとりで長い時間を費やして作りますし、似たところがあるかもしれません。『劇場』の主人公は僕自身ではないですけど、創作に対する不安とか、でも作ってると楽しいとか、そういう“揺れ”みたいなのは共感できます。

――ベタな質問ですが、又吉さんが無人島にひとつだけ持っていくとしたら?

又吉:やっぱり本は持っていきたいですね。『人間失格』は100回以上読んだから『罪と罰』かな。あ、上下巻になっちゃうか。でも無人島に行ってすぐ死ぬんやったら『人間失格』が良いかも。『罪と罰』だと資料が欲しくなるやろし、聖書とか読みたくなるかもしれないですね。まあ、でも、やっぱり紙とペンが良いですかね。創作したいです。『週刊大衆』ではないですね。すぐに読み終わってしまうんで。

――無人島ではありませんが、相方の綾部さんはニューヨークで孤軍奮闘していると思います。何か託したモノはありますか?

又吉:モノは渡してないですね。欲しいの聞いたら「金くれ」って言われたんであげるのやめました(笑)。みんなで送別会みたいのはやりましたけど、今ニューヨークで住む家を探しに行ってて、また一回戻ってくるらしいんで、あと一回くらい皆で集まるかもしれませんね。

人気原作を実写映像化する意義とは

――長編デビュー作となった小説『火花』は『Netflix』でドラマ化されて、今年11月からは映画版の公開も決定しています。

又吉:僕自身は、『火花』も『劇場』も書いたら映像化の声がかかって、コンテンツとして成長して、という一連の流れは全く意識せずに作りました。(『Netflix』版は)僕が描きたかった空気感みたいなものを監督がちゃんと感じてくれたんやなと伝わってきました。映画は板尾(創路)さんが監督ということで、それだけで幸せです。全10話のドラマはゆったりとした時間の中で繊細に描くことができたと思うんですけど、2時間くらいという時間の制約がある中でどういう風になんのかなってのは楽しみです。

――小説に限らず、漫画やアニメなどを実写映像化する場合、原作ファンから歓迎する声もあれば、反発を招く場合もありますよね。人気原作の実写映像化の流れについてはどう感じてらっしゃいますか?

又吉:過去にさかのぼれば戯曲というものがまずあって、演劇で実現可能かどうかという議論は昔からあったんですよね。ギリシャ悲劇の時代から。1960年代とか70年代に唐十郎さんが書いた文芸誌に発表されるような戯曲って、急に建物が燃えるとか、コインロッカーから犬が飛び出すとか、ある種のシュールな世界観が文学的な記述として確立されているわけです。それを「(演劇で表現するのは)無理だ」といって皆が避ける中で、蜷川幸雄さんは歌舞伎の手法とか、手品の技術を駆使して乗り越えっていった。発想で観客を驚かせたんです。だから、原作の意図しないことを表現する安易な実写化はお互いにとって良くないですけど、原作の映像化という行為自体は否定したくないです。映像化を前提とした脚本も良いですけど、無理なものを飛び越えていく時にこそ発明が生まれたりするんで、それは消滅して欲しくないですね。

――『劇場』もおそらく映像化の話が出てくると思われますが、既に小説第3弾も取り掛かっているのでしょうか。

又吉:綾部がニューヨークに行ったことで僕の体制も新しくなったので、まずはそれを整えてからですね。コンビで出ていた劇場の出番をピンのスペシャルコントという形で出演したり、9月にライブがあるので、まずはそれを成功させたいです。年明けくらいから3作目のことを考え始められたら良いなと思ってます。

『島ぜんぶでおーきな祭 第9回沖縄国際映画祭』公式サイト:
https://oimf.jp/

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よしだたつき

よしだたつき

PR会社出身のゆとり第一世代。 目標は「象を一撃で倒す文章の書き方」を習得することです。

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