独裁で何が悪い?

独裁で何が悪い?

今回はKenさんのブログ『Tokyo Life』からご寄稿いただきました。

独裁で何が悪い?

大学で政治学を専攻したわけでもないし、政治史の本をよく読んでるというわけもないんですけど、日本人にしては中東やアフリカに住んだり出張したりが多くて“独裁”には縁があるほうなので、それなりに考えることはあります。学術的には穴だらけの理屈なのでしょうが、体感的にはこんなふうに考えられたよ、という話をメモっておきます。

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独裁で何が悪いんでしょう? アフリカや中東には正真正銘の独裁、独裁的な大統領、王制など、民主主義とは呼べない独裁的な統治をやっている国がたくさんあります。それで何が悪いのか。

悪くないと思うんです。ただし、統治が公正である限りは。そして国家権力が暴力的でない限りは。

プラトンだって、高い見識をもった哲人が私心を脇において国家を第一に考えて統治するような、為政者のノブレス・オブリージュに期待するような哲人政治をよしとしたんじゃなかったけ? ローマだって中国だって、善政を敷く賢帝のでた時代は幸せでした、と世界史の教科書に書いてあった気がする。

独裁者が有能で公正である限りは独裁って悪くない。そう思うのです。特にアフリカや中東みたいに、貧しかったり、国家よりも一族の繁栄のほうが重要だったり、拮抗(きっこう)する派閥間の対立が厳しかったり、あるいはその全てがあったりすると、民主主義の実践は皮肉にも暴力や腐敗をうみ、却って国を不安定化・弱体化させているように見える。

ただね、独裁を肯定するには、“統治が公正で暴力的でない限り”、“独裁者が有能で公正である限り”という留保がつく。そしてこれがどうしようもなく難しいんでしょうね。

為政者本人が優れていて清廉であっても、その権力を傘に着る大臣や官僚のすべてが公正で清廉などということはあり得ない。国家は為政者が一人で治めるには大き過ぎ、必ず統治の機構が要るんだけど、その機構はきっと利権に溺れ、縁故主義に走る。時に反対する者を暴力で潰す。

為政者が有能である、ってこの統治機構にまでその徳の威光を浸透させることができる、ということなのかもしれないけど、それはちょっともう、哲人っていうか神の領域のような気がする。“絶対権力は絶対腐敗する”という格言をもちだすまでもなく、“よい独裁”って難しい。

そして、そこからが問題。失敗した独裁者、独裁政権には、それを穏便に交代させる仕組みがないのです。武力弾圧される危険を冒してデモをやるか、出待ちして襲うか、いずれにしろ合法的に手続きに則って退陣させる方法がない。

有能で公正な独裁政権は悪くない。が、そういう独裁政権は滅多にできない。できてもやがて腐る。そして腐ってしまっても交換できない。

いろいろ問題があるし、完全無敵なシステムではないですけど、この一点で民主主義が優れているのだと思うのです。すなわち、民主主義は失敗した為政者を交代させる仕組みが内蔵されている。

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中東やアフリカを見ていると、欧米式の自由で公正な普通選挙を基本とする民主主義システムを強制するのは却って国を不安定化させ、暴力を誘発し、貧困を悪化させる側面があるようにも見える。といって、とんでもなくヤクザな独裁政権をのさばらせておくのも許しがたい。

どこまで為政者の無茶を許すのか。アジアでよく見られた開発独裁というのがそのひとつの妥協点なのか。あるいは、アフリカでしばしば見られる、族長や各勢力のドンが話し合いと妥協で方向を決め、たとえそれが非合理的な内容であってもその権威にみんなが従う“長老政治”的なものを認めることが解になり得るのか。またあるいは、中東諸国ではイスラム教を倫理の規範とすることで為政者の暴走に歯止めがかかると信じていいのか。

現に今生きている人々の日々の暮らしの安定と向上を目指すのなら、妥協点は厳格な民主主義と厳格な独裁主義の間にあるんじゃないのかなあと考えたりするのです。欧米的な民主主義は、それなりの豊かさを達成した後の導入でもいいんじゃないか、とね。

執筆: この記事はKenさんのブログ『Tokyo Life』からご寄稿いただきました。

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