遅い! 小さい! ショボい! でもそこが逆にステキな「逆スーパーカー」のすゝめ
▲「非日常を楽しむ」という意味では、わざわざ500馬力や700馬力のスーパーカーを買わないでも、例えばこのシトロエン 2CVみたいな車で十分な可能性も?
極端に遅い「逆スーパーカー」もある意味かなり刺激的
すべての自動車愛好家が……というわけでもないが、多くの自動車愛好家が憧れる存在、スーパーカー。それについての公式かつ明確な定義はないが、「スーパー」な「カー」というだけあって、その魅力の本質は「非日常性」にあるはずだ。現実離れした劇画のようなフォルム。いつどこで発揮するつもりなんだ? と言いたくなる異次元の動力性能。そして異次元の価格設定。それらすべてが、我々の日常の延長線上には決してないモノだからこそ、ある種の人間はスーパーカーに強く引かれるのだ。
で、その世界を真摯に追求するのも一つの人生ではあるが、本気で非日常を追求してしまうと、何かと差し障りも生じるのがこの浮世。500馬力や800馬力の車で全開をカマしていては免許証がいくつあっても足りず、そしてそもそも入手にはベラボーなお金が必要。フツーの感覚で生きている人間としては、そう簡単にできるものでもないのが「スーパーカー趣味」なのである。
そこで提案したいのが「逆スーパーカー」だ。
逆スーパーカーについても公式かつ明確な定義はないのだが、要するに「すべてが正統スーパーカーとは真逆な車」をイメージしていただければ、それが逆スーパーカーである。
現代の基準から見るとあり得ないほど遅かったり、あり得ないほど小さかったり、またあり得ないほど質素だったり……という車。それらは正統スーパーカーと真逆のベクトルではあるものの、広くとらえるならば同種類の「非日常性」を享受できるステキでスペシャルな存在だ。あちらが非日常ならこっちだって(ある意味)かなり非日常ですよ、ということである。
▲流通量はきわめて少ないが、今なおたまに路上で見かけることもある50年代から70年代のフィアット 500(NUOVA 500)。この極端なまでの小ささはまさに逆スーパーカー的。現代の視点から見ると完全に「非日常」だ
逆スーパーカーの化身(?)シトロエン 2CVはこんな感じ!
長い人生のある時期「逆スーパーカー」に乗ってみると、あなたはごくフツーの車に乗っていては絶対に経験しないはずのモロモロを、ひんぱんに経験することになる。そしてそれは正統スーパーカーに乗る人生と(ある意味)同種の驚きと歓びであったと、あとになって気づくのだ。
逆スーパーカー界最大のスターといえばシトロエン 2CVだろう。
▲フランスのシトロエンが1948年に発表した前輪駆動の乗用車、シトロエン 2CV。当時の農民のための車として「こうもり傘に4つの車輪を付けたような車」というシンプルなテーマで開発された。写真は数年前乗っていた筆者の私物。現在の中古車相場はやや高騰しており、100万~180万円付近が中心
筆者も数年前に乗っていたが、最高の逆スーパーカーである。なにせあり得ないほど遅い。そしてびっくりするほど鉄板が薄く、万一の際に果たしてドライバーのことをしっかり守ってくれるものなのか、そんな不安がよぎってしまうほど、はかないというかプリミティブな作りの車だ。
そこが逆に素晴らしい。
駐車場でエンジンを始動させ(寒い時期はチョークを引く)、当然パワステなど付いてないのでいわゆる重ステなのだが、車体が軽いのでタイヤがひと転がりさえすれば思いのほかサクサク回せるステアリングを操作しながら、幹線道路に出る。で、後ろの車に追突されないよう思いっきりアクセルを踏んでフル加速し、スピードに乗る。速度が乗るまでにちょっと時間はかかるが、少々の時間をかけさえすれば、現代の交通事情の下でもノープロブレムな巡航速度には達する。
が、何の考えもなしにカーブを曲がろうとするとなかなか曲がらないので、軽くアセったりもする。「あ、そういえば荷重移動だ!」と懐かしい単語を思い出し、カーブの手前でしっかり減速することで前輪に荷重をかけ、そしてスッとステアリングを切る。すると2CVは華奢なボディをたわませながら、意外とスポーティな身のこなしでシュッと向きを変えてくれる。
そんなこんなで気を良くして運転していても、やはり鉄板の薄さや華奢なボディのせいで、常にある種の不安に包まれた状態となる。四方八方に注意を払いながら、なるべくスムーズに、なるべく安全に、しかしなるべく活発に、心と身体すべてを使うイメージで2CVを走らせる。
……すると当然、目的地や自宅車庫に到着したときにはダーッと疲れるわけだが、その疲労はなかなか心地よいものだ「エベレストに無酸素で登頂しました」とかそんな大層なものではないが、「ケーブルカーには乗らず自分の足で高尾山に登りました」ぐらいの達成感と満足感は感じられるだろう。あ、ちなみに高尾山というのは東京のはずれにある標高599mの小さな山です。
▲写真の場所は東京・銀座のリクルート本社ビル(当時)裏手。この車だと都内の筆者自宅から銀座に行くだけでちょっとした遠征気分だったが、それもまた楽しい貴重な経験だった
2CV以外だと例えばこんな逆スーパーカーはいかが?
シトロエン 2CVについて長々と書いてしまったが、要するにこれが逆スーパカーの「非日常性」だ。まったくの逆方向ではあるものの、700馬力や800馬力の正統スーパーカーと(ある意味)同じ種類の「フツーじゃない刺激」が、そこには確実に存在するのである。
逆スーパーカー界最大のスターはシトロエン 2CVだと思う筆者だが、例えばミニもいいだろう。もちろんBMW製となった今のやつではなく、英国製の元祖の方だ。この(現代の感覚では)あり得ない小ささは紛れもなく逆スーパーカー的であり、唯一無二の刺激をあなたの人生に与えるだろう。
▲59年から00年まで販売された英国の元祖ミニ。全長3051mm×全幅1410mm×全高1346mmというのは今の感覚からすると「あり得ない!」と叫びたくなるほど小さいが、身長180cm近い人間でもなぜか普通に座れてしまうのが不思議なところ。運転感覚もダイレクト感の塊で、現代の車とはかなり異なる印象を受けるはず
「あり得ない小ささ」という意味では、スマート フォーツーあるいはスマート ロードスターもなかなかの逆スーパーカーと言えるかもしれない。
▲メルセデスとスウォッチのコラボから生まれた超ミニマムなシティコミューター、スマート フォーツー。写真は07年からの第2世代で、運転感覚は実はかなりしっかりしている。中古車相場は30万~120万円付近
▲スマート フォーツーをベースに作られた異色スポーツカー、スマート ロードスター。フォーツーより高出力な0,7Lの3気筒ターボを搭載し、峠の下りでは異様に速い。中古車相場は80万~160万円といったところだが、最近は流通量が減少傾向で、絶滅の危機に瀕している
正統スーパーカーといえばV12エンジンとかV8エンジンとかの爆音が特徴の一つだが、そういった意味では「ほぼ無音」となる電気自動車も逆スーパーカー的かもしれない。例えばBMW i3。
▲BMWが14年4月から販売しているEV、BMW i3。タイヤなどが発する走行音はもちろん発生するが、エンジン音ゼロの静寂っぷりからはどことなく逆スーパーカー的わびさび(?)を感じる。中古車相場は250万~350万円ほど
「これがスーパーカー?」と疑問に思うかもしれないが、フォルクスワーゲン up!からもほのかな逆スーパカー臭を感じる。気の利いた軽自動車にも劣る装備レベルは、ある意味衝撃的で独創的。しかし車そのものとしての機能はすこぶる優秀である。
▲後席の窓がいわゆる「はめ殺し」であるなど、軽自動車などの至れり尽くせりな便利装備に慣れている人は卒倒しそうなほどシンプルな装備となるフォルクスワーゲン up!。ただ安全装備にぬかりはなく、走行性能自体はクラス水準を大きく超えている。中古車相場は50万~130万円付近
……多くの人はこれを読んでも戯言か冗談としか思わず、そしてごく普通に3年落ちとか5年落ちとかの、装備充実な優秀中古実用車をカーセンサーnetを通じて購入するのだろう。それは仕方ないというか、むしろそちらが健全で当たり前の行為だ。
だがもしも「何らかの強烈な刺激を我が人生に与えたい!」と思っている人がいたならば、正統スーパーカーや強烈なスポーティカーもいいが、ぜひ「逆スーパーカー」にも注目していただきたいと、戯言ではなく意外と本気で思っている不肖筆者なのであった。
【関連リンク】
文中に登場した「逆スーパーカー」の中古車をチェックしてみるtext/伊達軍曹
photo/フィアット・クライスラー、BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲン、伊達軍曹
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