手塚治虫の80年代シナリオ集はやっぱりスゴかった。企画・構成・編集を担当した濱田さんに聞いてきた!【PART 2】

すごみを感じさせる晩年の仕事集

『手塚治虫シナリオ集成1970-1980』(2017年2月20日発売)に続いて、『手塚治虫シナリオ集成1981-1989』(2017年3月17日発売)が発売されます。初公開のテキストも多い本書を編んだアンソロジストの濱田髙志さんに、その詳細を伺いました。

アイデアの泉が全く枯れなかった手塚治虫

———『手塚治虫シナリオ集成1970-1980』(2017年2月20日発売)に続いて、『手塚治虫シナリオ集成1981-1989』(2017年3月17日発売)が出版予定です。

濱田 手塚先生が亡くなられたのが1989年ですから、本書『手塚治虫シナリオ集成1981-1989』には、晩年の仕事が多く含まれています。例えば「ネオ・ファウスト」は、手塚先生の絶筆とされる3作品(「グリンゴ」「ルードウィヒ・B」「ネオ・ファウスト」)のうちのひとつですが、本書には、1984年にアニメ映画化を想定して書かれたシナリオが収録されています。これまで単行本に収録されていたのは第二稿のみですが、今回はその前に書かれた第一稿も併載しています。結果的にこの映画化は実現しなかったんです。また、舞台劇「火の鳥」のシナリオは、先生が亡くなる寸前まで病床で朱を入れたという作品で、手塚先生は開幕の翌日に亡くなられました。

 この舞台、音楽を千住明さんが手掛けられていて、音楽面のプロデュースを務めていらしたのが、映画「火の鳥2772 愛のコスモゾーン」の音楽を担当された樋口康雄さんの所属事務所の社長だった故・荒家正伸さん。荒家さんが亡くなられる前、事務所でこのシナリオの何校目かのコピーを見せていただいたことがあって、手塚先生直筆の原稿用紙に朱がたくさん入っていたのを覚えています。荒家さん、“仕事柄こういった資料がどんどんたまるので、普段はある程度たまると捨てちゃうんですが、手塚さんのこの原稿コピーだけは捨てられません”とおっしゃっていたのが印象に残っています。

 同様にテレビアニメ「青いブリンク」も、最晩年の作品ですね。本書には「青いブリンク」のキャラクタースケッチも掲載しました。なかには初公開のものも複数含まれています。
 前巻『手塚治虫シナリオ集成1970-1980』もそうですが、漫画作品の執筆と並行して、こういった作品を数多く残されているのが驚異です。生涯を通じて、アイデアの泉が全く枯れなかったという、手塚先生のすごさを実感しますね。

手塚がこだわり続けた「ファウスト」「火の鳥」

———「ネオ・ファウスト」はマンガにもなっていますよね?

濱田 〈朝日ジャーナル〉に連載された「ネオ・ファウスト」ですね。先ほど話した本書収録のシナリオは、その数年前に書かれたもので、設定なども違っています。手塚先生は、その生涯においてゲーテの「ファウスト」を基にした漫画を3作品描かれていて、最初が児童向けの赤本漫画「ファウスト」で、これが1950年。その後1971年には、舞台を日本の戦国時代に置き換えて翻案した「百物語」を描き、最後が1988年に連載を開始し、絶筆となった「ネオ・ファウスト」です。本書に収録したのは、そのいずれとも異なりますが、このシナリオを発展させて描かれたのが漫画版の「ネオ・ファウスト」と云われています。手塚先生にとって、「ファウスト」の物語は、何度でも挑むべき魅力的な題材だったんですね。

 同様に舞台劇「火の鳥」のシナリオと「火の鳥2772愛のコスモゾーン」の原型になった「火の鳥(第二部)」、その後に書かれた「火の鳥 大地編」のシノプシスも重要な作品で、いずれも「火の鳥サーガ」のミッシングリンクを埋めるピースになっています。もちろん、この作品を組み込んだところで、円環が綺麗に閉じることは永遠にないわけですが。

漫画とは違うけれども、立派な手塚作品

———ほかにも多彩な作品が収録されますね。

濱田 「ユニコ」に関しては、最近、原作漫画が復刊されて再び注目を集めています。キャラクターの愛らしさと主題の深さが若い読者にもアピールしているようですね。本書に収録したのは映画用のシノプシスで、ここには3本収録しました。ひとつは1981年に公開された映画のためのもの。もうひとつは1983年に公開された「ユニコ魔法の島へ」のために書かれたふたつのシノプシスです。あと「ブレーメン4」のシノプシスも初の書籍化ですね。
 そのほか「プライム・ローズ」は1983年、「三つ目がとおる 悪魔島のプリンス」は、1985年にテレビ放映された東映動画制作の2時間スペシャルアニメ用のシノプシスです。

———「絶対に結末がバレないように」というお達しが書かれた内部文書「青いブリンク 構成」は、創作・創造という行為に対する、手塚先生の深い考えが表明されていてすごみを感じました。

濱田 どのシノプシスも「もし手塚先生がご存命で、この先が書かれていたら、どんな作品になっていたのか」と考えさせられるものですね。

 この2冊を読んでいただくと、手塚先生が本当に生涯現役だったということ、亡くなる寸前までアイデアが途絶えなかったということが実感できるはずです。未完成のものもあり、漫画とは違いますが、いずれもやはり立派な手塚作品です。実はこの2冊に収まりきらなかったシナリオやシノプシスも複数あるので、それらは今夏、補遺篇として別巻を発売する予定です。

 立東舎文庫では、このあと手塚先生の残されたエッセイの数々をテーマ別に編み直したエッセイ集の発売も控えています。そちらにも既刊には未収録だった貴重なテキストを複数収録予定ですので、ぜひご期待下さい。

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■応募要項:
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■対象商品:
立東舎文庫
『手塚治虫シナリオ集成 1970-1980』
好評発売中

『手塚治虫シナリオ集成 1981-1989』
2017年3月17日発売

以下、続刊予定
『手塚治虫エッセイ集成 私的作家考』
『手塚治虫エッセイ集成 映画・アニメ観てある記』

■応募締切:
2017年7月31日(月)当日消印有効

『手塚治虫シナリオ集成 1981-1989』(立東舎文庫)
著者:手塚治虫
定価:(本体900円+税)
発売:2017年3月17日
ISBN 9784845630080

《濱田高志プロフィール》
アンソロジスト。ミシェル・ルグランやロジャーニコルスら作曲家からの信頼が厚く、これまで国内外で企画・監修したCDは500タイトルを数える。出版の分野では、『手塚治虫オリジナル版復刻シリーズ』(国書刊行会)や『手塚治虫表紙絵集』(玄光社)など手塚作品の復刻企画をはじめ、『MONO AQUIRAX 宇野亜喜良モノクローム作品集』、『Posters in Wadaland―和田誠ポスター集』(共に愛育社)、『柳原良平の仕事』(玄光社)といったイラストレーターの画集の企画・編集、BSフジ『HIT SONG MAKERS 栄光のJ-POP伝説』、 NHK-FMや文化放送など、テレビ・ラジオ番組の企画・監修・構成・出演も。主宰する〈TV AGE〉では、フリーペーパー「月刊てりとりぃ」の編集長を務めている。

濱田高志

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