デキるリーダーはなぜ「悪い報告」を歓迎するのか
『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』(明日香出版社)の著者である石川和男さん。石川さんは、建設会社総務部長・大学講師・専門学校講師・セミナー講師・税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパーサラリーマンです。そんな石川さんに「仕事が速いリーダー・仕事が遅いリーダーの特徴」について伺うこのコーナー。第6回目の今回は「悪い報告の上手な受け方と対処法」についてです。
「ミスしたけど怒られたくない」
「失敗で評価を下げたくない」
「上司が怖い…」
という気持ちから、小さなミスは報告しなかったり、悪い報告は後回しになったりしがちです。
しかしどんな小さなミスでも、時間が経つほどに状況は悪化し、重大な事故につながることも。それを防ぐために、日頃から「悪い報告をいち早くしてもらえる」チームの形成がリーダーの重大任務なのです。
なぜ「悪い報告ほど速く」すべきなのか?
「ハインリッヒの法則」をご存知でしょうか?
1件の重大事故の背後には29件の軽い事故があり、その背景には実に300件の小さな異常が存在するという考え方です。労働災害における経験則で「1:29:300の法則」「ヒヤリ・ハットの法則」とも言われています。
大きな火災も、元はと言えばタバコなど小さな火種。火種が小さいうちに消火せず放置していると、大きな火災になり、自分の家だけでなく近所も巻き込んでしまうかもしれなません。
この300のヒヤリとする事象や異常(小さなミス)、29の軽い事故は「プロセス」に潜んでいます。プロセスを無視して結果だけ見ていると、カーテンが燃え始めていることに気付かず、家が燃えるほどの重大事故になって初めて「なぜこんな火事になったんだ!」と驚いてしまうのです。
「勝ちに不思議な勝ちあり 負けに不思議な負けなし」
という江戸時代後期の平戸藩主、松浦静山の言葉があります。
プロ野球解説者でヤクルトスワローズをはじめ多くのチームで監督を務めた野村克也氏の言葉だと思っている人も多いようです。それだけ氏が監督時代に好んで使った言葉なので、印象に残っている人が多いのでしょう。
「勝ちに不思議な勝ちあり」というように、結果が出たとしても運よく偶然などの要素が含まれている場合があります。
プロセスを無視した結果オーライは、次につながるとは限りません。仕事は1回きりではなく継続的なものですから、結果のみで評価することは危険です。
その結果が必然なのか、それとも偶然なのかを、よく見極める必要があります。
日頃から注意・点検していて火事にならなかったのか、今まで偶然火事にならなかっただけか。同じ結果でも、今後火事になってしまう可能性が高いのは、もちろん後者「偶然火事にならなかった」方です。
「結果重視」の落とし穴 ― プロセスも評価しよう
結果が出た仕事でも、たまたま上手くいった、他のやり方のほうがよかった、あるいは速かったというケースも少なくありません。仕事を結果だけで評価してしまうと、工夫や改善点を見ることができなくなります。
さらに、結果至上主義だと、部下は結果が出なさそうな仕事はしないという消極的な状態になってしまう可能性があります。
言い換えると成功の見込みが高い仕事しかしなくなってしまうのです。
新しい仕事への挑戦をしなくなるのです。
そうなると、部下の成長が止まってしまうばかりではなく、激動の時代、現状維持だけでは会社も衰退してしまいます。
≪プロセスで評価する方法≫
たとえば、部下が新しい見込み客にプレゼンテーションをしました。残念ながら契約成立はしかなった。つまり結果が出ませんでした。そんなときあなたならどう評価しますか?
ここで大事なのは、まずはプロセスを分解すること。そこから改善すべき点や褒めるべき点を見つけていくのです。
プロセス分解① 改善すべき点は?
・資料作りに時間がかかり過ぎた⇒時短する方法を検討
・確認作業を怠って商品が到着しない可能性があった⇒確認フローの徹底
・取り掛かるのが遅れて他の業務に支障をきたした⇒スケジュール管理の強化
など、プロセスを分解することで、たとえ結果が出ていたとしても改善点を見つけることができるのです。工夫するプロセスは永遠に必要です。
プロセス分解② 褒めるべき点は?
・新規のお客様を開拓できた
・新しい資料を作成したことにより、次から使用する資料の雛型になった
・資料のグラフが見やすかった。そのグラフは次回のプレゼンで役に立つ
・街頭アンケート1000人って凄い数だ。しかも東村山で1000人
・ライバル会社のエースとプレゼンで競った
プロセス自体を細かく分けると、部下を認められる部分が増えます。そして、挑戦したことだけでも認めるようにしましょう。失敗してもしっかりしたプロセスを踏んで挑戦したことはむしろ評価の対象です。
部下にいちはやく悪い報告をさせる方法
●デキないリーダー:頭ごなしに怒る
デキないリーダーは、悪い報告を受けると不快な顔で対応します。目くじらを立て、イライラした顔で部下を叱り、報告を受けた後、最後にもう一度叱って話を締めくくります。これでは次回から、ますます悪い報告が上がってこなくなります。
●デキるリーダー:話を聞いてくれる
デキるリーダーは、部下が悪い報告をしやすい雰囲気をつくります。悪い報告を受け入れる体制を取り、日頃から仕事の状況を気に掛けます。悪い報告を受けたときこそ、穏やかに対応します。叱ることは一点だけ。「なぜもっと速く報告しなかったんだ」ということを叱ります。部下に対し、次回からは悪い報告を速くするように促すのです。
悪い報告をするから評価が下がるのではなく、悪い報告が遅れるから評価が下がる仕組みにすればよいのです。
⇒何でも話してもらえるリーダーになろう
部下が心配なのは「怒られること」や「嫌われること」、「評価が下がること」です。報告内容の大小にかかわらず、いち早く報告してきたことを評価し、まずは「ありがとう」と感謝を伝えるようにしましょう。その上で、再発防止に向け一緒に改善していくのがリーダーの役割です。
まとめ:悪い報告こそ1秒でも速く!!
結果重視でいい報告だけを歓迎する上司に対して部下は、「いい報告はすぐに、悪い報告は後回しに」という気持ちになります。
部下が上司に報告する必要のある内容は8:2で悪い報告の方が多いと言われています。そして、その悪い報告こそ1秒でも早く報告を受け、対処しなければならない事案なのです。
もちろん、部下から悪い報告を受けるのはイヤなものです。
それを態度に出すか出さないかの違いです。
デキないリーダーは、部下からの悪い報告には鶏のようにバタバタとうるさく対応します。
一方、デキるリーダーは、白鳥のように対応します。表面的には穏やかに悪い報告を聞き、水面下で懸命に頭をフル回転させ解決策を考えるのです。
また、悪い報告を速くに伝えたことを評価します。プロセスを細部まで分析、評価することで部下のモチベーションを上げ、改善点を指摘することで仕事の質を高めます。
結果のみで判断しないことが会社全体の底上げにもなるのです。
【プロフィール】
石川和男(いしかわ・かずお)
建設会社総務部長、大学、専門学校講師、セミナー講師、税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパーサラリーマン。
大学卒業後、建設会社に入社。管理職就任時には、部下に仕事を任せられない、優先順位がつけられない、スケジュール管理ができない、ダメ上司。一念発起し、ビジネス書を年100冊読み、月1回セミナーを受講。良いコンテンツを取り入れ実践することで、リーダー論を確立し、同時に残業ゼロも実現。建設会社ではプレイングマネージャー、専門学校では年下の上司の下で働き、税理士業務では多くの経営者と仕事をし、セミナーでは「時間管理」や「リーダーシップ力」の講師をすることで、仕事が速いリーダーの研究を日々続けている。
『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』(明日香出版社)は16刷中ほか、勉強法、時間術など3冊のビジネス書を出版している。
石川和男 公式サイト http://ishikawa-kazuo.com
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