人口減少はなぜ「マズイ」のか?(後編)――「人口減少問題」の本当の“問題”とは

ビジネスパーソンとして知っておきたい、ニュースの「なぜ」について詳しく解説するこのコーナー。通信社記者などを経て、現在はライターとして子ども向けの新聞などで、ニュースをわかりやすく説明している大井明子さんに、解説してもらいます。

今回も前回に続き「日本の人口減少」についてです。f:id:k_kushida:20170217152754j:plain

前編では、日本の人口がこれから、どれだけ減っていくのか、それはなぜなのかを見てきました。「人口減」=「マズい」という文脈で語られることが多いですが、なにがどうマズいのか、後編ではそれを見ていきます。

※前編記事「人口減少はなぜ「マズイ」のか?(前編)――人口減少の原因とは」はこちら

人口減より高齢化が問題

ちょっとここで原点に帰ってみましょう。人口が減るのはマズいのでしょうか?

一見、「人口が減る」からといって、そう大騒ぎする必要はないようにも思えます。2008年が日本の人口のピークだったわけですから、昔は今ほどの人口規模ではなかったということ。例えば、2050年には約9,708万人にまで減少すると予測されていますが、この人口は、1965年の人口約9,828万人に近い規模です。「単に昔の人口規模に戻るだけ」。そう考えると、特段問題ないようにも思えます。

しかし実際は、同じ1億人弱でも、1965年と2050年では、大きく「中身」が違います。

「中身」とはつまり、年齢構成です。1965年の65歳以上の割合(高齢化率)は6.3%なのに対し、2050年は38.8%と、割合が6倍以上に増える見込みです。高齢化が進んでいるのです。人口が減ることそのものよりも、高齢者の割合が増えること(若い人が減ること)の方が、多くの問題をもたらすと考えられています。

■日本の人口の推移と見通し・高齢化率

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資料:総務省統計局「日本の統計2016」(2015年まで)、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成24年1月推計)(2020年以降)

注:1940年の総人口は、国勢調査による人口73,114,308から海外にいる軍人・軍属の推計数1,181,000を差し引いた補正人口。1940年の高齢化率は、外国人を除いた割合。1945年の総人口は、11月1日現在の人口調査による人口71,998,104に軍人・軍属及び外国人の推計人口149,000を加えた補正人口。

市場の縮小、人手不足

まず挙げられるのが、国内でモノやサービスが売れなくなることです。「日本は少子高齢化で市場拡大が見込めない」とう言い方がされているのは、このことです。自分で稼いで消費する人が減るので、「売り先」が減ってしまいます。多くの企業が、海外市場に目を向けて、グローバル化を加速させているのは、このためです。

労働力が足りなくなり、生産力が下がる、とも言われています。労働力の中心となる15~64歳の人口(生産年齢人口)を見ると、1995年に8,716万人でピークを迎え、以降減少を続けています。2016年8月1日時点では7,665万人。今後も減少が見込まれており、2027年には6,980万人、2060年には4,418万人と、ピークの1995年の半分以下になると推計されています。生産力、つまりモノやサービスを生み出す力は、働く人の数、働く時間数、生産性の掛け算なので、生産性が劇的に上がらない限りは、生産年齢人口が減ることは生産力低下につながります。

一方で各企業は、業績を落とすのは嫌ですから、生産力を維持するため一定の労働力を確保しようとします。既に若手の採用に苦労している企業が出てきていますし、今そうでなくても、将来人手不足に陥ることを懸念している企業も増えています。

年金などの制度が危うい

さらに深刻な問題が起きているのが、社会保障制度、特に公的年金制度です。公的年金制度、公的医療保険(健康保険)などの制度は、人口が増加し経済が成長している時代に作られているので、人口増加と経済成長が将来も続くことを前提にしています。どちらも見込めない現在、根本的な見直しに迫られており、年金の支給開始年齢の引き上げなどが検討されています。

国民年金制度が創設された1961年の高齢化率(65歳以上の割合)は約6%で、現在(2016年8月1日現在)の27.2%とは大きな違いがあります。現在の年金制度は、現役世代が払い込む保険料を、高齢者に年金として支払う制度。保険料を納める現役世代が減り、年金を受け取る高齢者が増えるほど、資金繰りは厳しくなり、現役世代への負担は大きくなります。

1965年には高齢者(65歳以上)1人を、現役世代(20~64歳)9.1人が支えているという計算でしたが、2014年は高齢者1人を現役世代2.2人で支える形になっています。

組織・人事マネジメントを専門とするグローバルコンサルティング会社、マーサーが2016年に発表した、グローバル年金指数ランキングでは、日本は27か国中26位という低い評価を受けています。このランキングでは、年金の支払いが十分か、制度の持続性はあるか、制度のガバナンスが保たれや国民とのコミュニケーションが取れているか、などを基準に評価しており、1位はデンマークで、オランダ、オーストラリア、フィンランドと続きます。日本の評価の低さは、年金の支払い額の低さや、制度の危うさが響いています。

ではどうしたら…

では、どうしたらいいのでしょうか?

今更言っても仕方がないことかもしれませんが、既に1975年には出生率は2.0を切っていましたし、そのころから将来の人口減少や経済成長の鈍化を心配する声は上がっていました。少子高齢化は進んでいたものの、人口はまだ増えており、問題を先送りするうちに、状況がこれほど深刻になってしまったのです。

さまざまなアイデアが上がっており、取り組みは始まっていますが、残念ながらどれも、劇的に状況を変えるほどの効果は期待できません。人口を「増やす」ことはあまり現実的ではなく、減少を緩やかにしたり、人口が少ない状態でも社会の活力を維持する、といったことを目指すものです。

■子育てしやすい環境づくり

少子化を食い止めるための方策として、企業の長時間労働の慣行を改めたり、子育て中や介護中の人でも仕事を辞めずに働き続けられる柔軟な働き方を可能にすることなどが挙がっています。また、保育園などの子育てをサポートする仕組みを整えること、教育費の負担を下げることなどが考えられます。

子どもを産む、産まないは個人の選択なので、産まない選択をした人に気持ちを変えるよう強制するような施策ではなく、「本当は産みたいのに、環境が整わず産めない」という人が、安心して子どもを産み、育てられる環境を作る必要があるでしょう。

■女性や高齢者の力を活かす

労働力不足に対しては、外国人労働者を活用しようという議論もあります。しかしこれには反対意見も多く、議論はあまり進んでいません。

その一方で、女性や高齢者の力を活かすことで、減少する労働力を補おうという動きもあります。女性が働き続けられる環境づくりは、少子化対策でもありますが、こうした意図もあるのです。

また、2013年には、定年年齢が60歳から65歳に引き上げられました。今後さらに引き上げられる可能性があります。年を取っても、できるだけ長く働いて自分の稼ぎで生活し続けてもらうことで、労働力不足を補うとともに、年金支給開始年齢の引き上げにも備えてほしい、というわけです。

■イノベーション、生産性のアップ

人口減少による生産力のダウンについては、ロボットやAIなどの技術革新などによって、生産性を上げることでカバーできるとする議論もあります。

そもそも1950年代~1960年代に、日本経済が急速に成長していたころ(高度成長期)は、確かに人口も増加していましたが、経済成長は人口の増加だけによるものではありませんでした。技術の進歩により生産性が上がっていたことも、大きく寄与していたのです。労働人口が減っても、それだけ技術が進歩して生産性が上がれば(つまりイノベーションが起きれば)、生産力は伸ばせるし経済成長はできるというわけです。

また、他の先進国に比べると、日本の労働生産性は低く、日本生産性本部によると、OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進国35カ国中、日本は過去40年以上、20位前後で推移しています。2015年の労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)は、42.1ドルと20位で、1位のルクセンブルク(95.0ドル)の半分以下、5位のアメリカ(68.3ドル)の6割程度に留まります。これはつまり、まだまだ日本の生産性には「のびしろ」があるということになります。

いずれにせよ、急激に現状を好転できるような決定的な特効薬はありません。その一方で、少子高齢化、人口の減少は、かなり深刻です。公的年金制度をはじめとした社会保障制度の見直しは、避けて通れません。高齢者が生活しやすい街づくりも必要です。少子高齢化や人口減少を前提にした社会作りに発想を変える必要があるでしょう。

※前編記事「人口減少はなぜ「マズイ」のか?(前編)――人口減少の原因とは」はこちら

大井明子(おおい・あきこ)

ワシントン大学卒業後、時事通信社に入社し、記者として警察、経済などを担当。再びの留学を決意し、米国コロンビア大学国際公共政策大学院を卒業。大手家電メーカーなどを経てライターとして独立。

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