“和”の精神を隠れみのにした嫉妬心を明るみにしたダルビッシュ

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プロ野球のダルビッシュ投手がメジャー移籍に関しての会見を行ったわけですが、その内容がシーズン中のピッチングと同じように何者も寄せつけないキレのよさで、見る者を圧倒していたと思うのです。というか、私は圧倒されてしまいました。

「野球選手として相手を倒すのが仕事だが、最近は試合前から相手に“このカードで投げないでくれ”とか“絶対に打てないよ”と言われるようになった。冗談と聞いていても、これではフェアな挑戦ができなくなる」
(中略)
「僕は凄く勝負がしたかった。その上で相手が打ってやるという気持ちできて初めて勝負が成り立つ。それがなくなってきて、僕の中でモチベーションを保つのが難しかった」

「無敵ゆえの苦悩…ダル 日本で“フェアな挑戦ができない”」2012年01月25日『スポニチ・アネックス』
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2012/01/25/kiji/K20120125002500450.html

同じことをものすごく遠回しに言った人はたくさんいましたし、松井選手のようにノーコメントを貫く人もいるなか、ここまで直接的な表現をした例は、過去にはありません。
これを平たく書くと、“和”の精神に付き合ってるとモチベーションが下がる、ということになるわけです。

ものすごく意地悪な書き方を承知で書きますが、日本の社会はずっと“和”の精神を重んじることで、ある意味、お互いの嫉妬心を刺激しない知恵で構成員全員の納得を引き出し、維持されてきた社会だと言えます。そんな習慣のなか、60年代からの高度成長という特殊事情(わりと寝ててももうかった)が起こり、そこで能力のある人がそうではない人には次第に疎ましく感じられる、要するに嫉妬心ですが、そういう状況下で、嫉妬心にとって都合のいいように“和”の精神が利用されてしまった部分があったわけです。能力のある人たちを潰してしまっても、企業も社会もやっていけたのが高度成長の時代だったので、それが通用したわけですが、その名残がずっと今でも社会に残ったままではあるのです(能力のある人を潰してしまう習慣のまま、相変わらずやっていける程度に、日本の社会はまだまだ豊かなのですよね)。

そしてこの国では、ほぼこの嫉妬心の都合のいいように利用された“和”の精神を利用することで、大事な問題が先送りにされてしまうわけですが、結局その嫉妬心をやっつける以外、ある部分、社会は先には進めなくなっていたりもします。ただ、そこで本当に嫉妬心をやっつけようとすれば、相手も嫉妬心に任せてなりふり構わず応戦してくるので、最後は暗殺あり、社会的抹殺あり、など目も当てられない状況が待っているだけでしょうから、今の若い人がはじめから戦わない選択をしていたりするのも、実は仕方のない話ではあるのかもしれません。

ダルビッシュ選手ほど飛び抜けた人でも、戦わず日本を出ていく選択をするわけですから、いわんや普通の人はという状況です。

最近、大人が「今の若い人には元気がない」という話をよくしています。そして「若い人に怒りがないから社会が変わらない」という、ある意味では身勝手な疑問を若い人に向ける傾向があるのですが、これに対する若い人の答えは、ほぼ“怒る対象がない”ということで、現状落ち着いているようです。でも若い人の怒る対象は、実は“和の精神を隠れみのにした嫉妬心”にあることを、ダルビッシュ投手は置き土産として示してくれたような気もします。日本の社会にいると“和”の精神は美徳とされているだけに、それを隠れみのにされると、若い人のほうからは言うに言えなかった、ということだったのではなかったでしょうか。同世代の若い人の空気を良く理解する人が、自分の行動を理解してもらうためにああいうコメントを出す、ということは、どうも共感を得られる手応えがあるような気がするのです。

もちろん、若い人が自分の嫉妬心を隠すために“和”の精神を利用する場合もたくさんあるわけですけど(だから話がややこしくなる)、いろいろ考えれば、「若い人が頑張れ」とか言ってる前に、まず大人が自身の凡庸な部分を受け入れ、その嫉妬心を引っ込める方が順番としたら先(子どもと大人とどっちが先に折れるか、という話なので)、というようなことも、これから日本のさまざまな問題の解決策として、考えていって良いのではないでしょうか。

確かに、難しい話には違いありませんが。

トップ画像:ダルビッシュ有選手 オフィシャルブログから
http://ameblo.jp/darvish-yu-blog/

※この記事はガジェ通ウェブライターの「あらい」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
東京の音楽業界の隅っこで仕事をしてきました(インディーズアーティストのもろもろ、ゲーム、ラジオの音楽制作、専門学校講師等)。現在、田舎の楽器屋さんでギターのインストラクター、ジャズとロックのギタリスト、その他もろもろをやりながら、細々と生活中。

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