浅田次郎「葉室麟さんの直木賞受賞は我が事のようにうれしい」
第146回直木賞は、葉室麟(はむろ・りん)さんの時代小説「蜩ノ記」(ひぐらしのき)に決まった。選考会のあと、選考委員を代表して記者会見に臨んだ作家・浅田次郎さんは「非常にデッサン力があり、目配り気配りも行きとどいた、安心して読める時代小説」と激賞した。
葉室さんはこれまで4回、直木賞候補に名を連ねてきたが、一歩届かなかった。浅田さんによれば「今回の作品は、今まで『ここが至らない』と言われてきたものを本人が堅実に改めて、これまでにない完成度に仕上がっていた」という。葉室作品を「デビュー時から読み続けてきた」という浅田さんは、
「これまでは(直木賞の選考会で)落とし続けてきたが、この作品にめぐりあえて、我が事のようにうれしい」
と喜びを表現した。
受賞作の「蜩ノ記」は、豊後・羽根藩という架空の藩を舞台に、「10年後の切腹」を命じられた武士と貧しい山村の民との交流を描いた作品。美しい風景描写を織り交ぜながら、余命を区切られた男が最後をどう生きるかを表現した。
1951年生まれの葉室さんは還暦の60歳。同い年だという浅田さんは、
「私も還暦をむかえ、余命を感じるようになった、あと10年でなにができるか、ひしひしと重く感じる。これは人生の経験をつんだ人でなければ思いつけない小説だろう」
と述べ、目の前にいる「年下の記者」たちに向かって「還暦になったら、もう一度読み返してください」と呼びかけた。
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(亀松太郎)
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