『It’s Only The End of The World』Gaspard Ulliel Interview
一番近いようで、果てしなく遠い。そんな家族の微妙な心の距離感を美しく辛らつに描いた映画『たかが世界の終わり』。メガフォンを執ったのは、『マイ・マザー』『Mommy/マミー』などで時代の寵児となったカナダが生んだ若き天才、グザヴィエ・ドランだ。原作はジャン・リュック・ラガルスの戯曲で、自身の死を告げるため、12年ぶりに実家に帰った男とその家族の一日が映し出される。物静かな主人公ルイ役を好演したフランス出身の俳優ギャスパー・ウリエルに、ドラン監督や作品の魅力を聞いた。
—グザヴィエ・ドラン監督や彼の作品との出会いについて教えてください。
ギャスパー「グザヴィエの作品は、デビュー作からすべてオンタイムで観てきたんだ。非常に感動させられたし、彼の映画へのアプローチは、あの世代ならではのもの。若い世代が持つ独特のフィーリングがあって、まったく受け付けないという人もいれば、ものすごく大好きだという人もいるし、両極端な反応を起こさせるんだ。グザヴィエはフランスではちょっと例外的な、一つの“現象”のようなとらえられ方をしている。若いのに既に6作目だし、成長がとても早いよね。他の監督の作品とは全然違う、すごく個性的な、唯一無二の作品を撮る稀な監督だよ。作品毎に独自のスタイルがあって、でもあえてバリエーションを持たせるのではなく、毎回同じテーマを掘り下げているのもいいよね」
—早くから注目されていたんですね。
ギャスパー「若くしてデビューしただけに(※監督デビュー作『マイ・マザー』は19歳の時に発表)、映画監督としてどのように成長していくのか、その歩みを見届けることができるのは素晴らしいことだ。少しずつ成熟度を増していく、その過程を見られるわけだから。どんな監督でも若いころに撮った作品を観ると、その人のことがよくわかるものだよね。監督としてやりたいことがほとんど全部詰まっていて、不器用だけど前兆のようなものが感じられるんだ」
—実際に仕事をしてみて、どんな人でしたか?
ギャスパー「グザヴィエは彼が撮る映画とすごく似ている。何からも後ずさりするようなことは一切しない人だよ。妥協もしないし、非常に衝動的に、そして本能のままに動く人なんだ。だからこそ、彼の映画は僕らを感動させる。とても誠実で、自分そのものを投げ出している映画だよ」
—本作であなたが演じた主人公のルイは、ほとんどのシーンに出演しているのに非常にセリフが少ない役です。相手の言ったことに対して表情だけで反応して演じるのは難しいことだと思いますが、脚本を読んだ時はどう思われましたか?
ギャスパー「実はこの企画について最初に話された時から、まだ脚本もない段階で、『今回の君の役はすごくセリフが少ないよ』と言われていたんだ。『これは沈黙で演じる役柄で、相手の話に耳を傾けて、それに対してリアクションをする役なんだ』とね」
—監督からはどのようなリクエストがありましたか?
ギャスパー「現場では、グザヴィエから心理描写について事細かく説明されることはなかったんだ。心理的な部分は撮影前に話し合っておいたから、撮影中は顔の表情の作り方だとか、わりと表面的なことで指示を受けることが多かった。ルイの内面的な部分は比較的自由に作らせてくれたよ」
—役作りで注意したことはありますか?
ギャスパー「俳優の作業としては、他の登場人物のセリフに対して、表情なりでふさわしい反応をしなければならないわけだ。このルイという人物が家族とどのような経験を共有したのか、どのようなドラマを共有したのかということを、自分の中で最初から作り上げておくのが重要だった」
—監督の演出が独特だと聞いたことがあるのですが、印象に残っている出来事はありますか?
ギャスパー「彼は己のヴィジョンを大切にする監督なんだ。テイクの途中でアイデアが沸き上がってきて、俳優のセリフを途中で止めてしまうこともあったよ。だから、一つのテイクを最後まで演じ切らせてもらったことはなかったんだ。本作はフィルムで撮影したんだけど、カメラが全部巻き切ったら『はい、カット』みたいな感じで(笑)。現場でシーンがどんどん発展していって、彼はその場で『こうしたほうがいい』『ああしたほうがいい』と、まるでモニターを観ながら編集しているかのようだった。印象としては、俳優と同じ感情を共有して、一緒に演じているようなイメージだったよ。彼が現場で涙を流している姿も目撃したんだ。彼自身がすごく感情移入していたみたいだね」
—監督の作品は音楽の使い方も印象的ですよね。
ギャスパー「グザヴィエの作品と音楽には特別な関係があるんだ。作品において、音楽がとても重要なポジションを占めている。脚本の段階で、ト書きに音楽について書かれていることもあるんだよ。オリジナルの音楽に関しては、彼は常にはっきりした考えを持っている。iPodとスピーカーを現場に持ち込んで、撮影の段階で音楽を流してしまうんだ。テイクの途中で音楽をかけ始めたりするので、音声スタッフはイラッとしていたよ(笑)。でも現場で流される音楽によって雰囲気が作り出されるから、スタッフも役者も同じムードの中で撮影に挑むことができるんだ。
撮影現場では、彼が選んだシーンのイメージと合う既存の音楽を流していた。すべての撮影が終わった時点で、本作の音楽を担当したガブリエル・ヤレドに、『このシーンではこんな音楽を使って撮影したんだけど、こんな感じで作曲してくれない?』と伝えたらしい。既存の音楽をインスピレーションにするなんて、作曲家にとっては一番嫌なリクエストだよね(笑)。現場ではフィリップ・グラスの曲をよく流していたよ。映画『めぐりあう時間たち』の音楽とかね」
—主人公ルイの母親(ナタリー・バイ)と妹(レア・セドゥ)が「恋のマイアヒ」を踊るシーンもありましたね(笑)。
ギャスパー「あの曲は流行ったよね(笑)。あのシーンは最初からシナリオに書かれていた。ストーリーから少し逸脱してキッチュな音楽を楽しむシーンを入れるのは、グザヴィエの作品の定番なんだ。観客の中には、1980年代とか90年代に聴いていた音楽を聴くと、すぐに当時のことを思い出す人もいるだろう。ああいうキッチュなポップミュージックを流すことで、観客と作品の間に一瞬にして深いきずなが生まれるんだ。それによって、若い世代だけではなく、幅広い世代にも受け入れられるんだよ」
—本作では夕暮れ時の食事のシーンなど、光の使い方が印象的でした。
ギャスパー「あの光については、最初からシナリオに書いてあったんだ。少し非現実的な天空からの光のような…雨が降った後の夕暮れ時のピュアな光のような。後半はリアリティというよりも、神秘主義的なオーラを帯びさせる光の作り方がされていた」
—映像的に特に好きなシーンはありますか?
ギャスパー「やっぱり、最後のシーンの光が効果的な演出は良かったよね。グザヴィエの作品の中でも『トム・アット・ザ・ファーム』に近い部分があって、暗くてコントラストが強くて、濃密で。『Mommy/マミー』は光にあふれたカラフルな作品だったけど、本作は暗くて少し冷たい感じなんだ」
—ストーリー的に印象に残っているシーンは?
ギャスパー「ストーリー的な部分では、母親とルイが小屋で話すシーン。ルイの視線がカメラの方に向いていて、彼の主観的なショットで、カーテンが少し揺れていて…時が一瞬止まっているかのような、あの瞬間が好きなんだ」
—すれ違う家族のありようというテーマは、人にとっては痛いほど理解できるのではないかと思います。ご自身と照らし合わせて感じたことはありますか?
ギャスパー「誰にとっても他人事ではないテーマだと思う。僕も理解できる部分があったし、彼らの関係性の中に自分自身を見出す部分があったよ」
—いつかもし俳優としてグザヴィエ・ドランと共演するとしたら、どういった作品に出演したいですか?
ギャスパー「グザヴィエはドラマ作品が好きなんだ。彼にとってモチベーションになるのはドラマ性だよ。コメディでもなく、アクション映画でもなく、シリアスな作品がいいんじゃないかな。役者としても素晴らしいよね。監督作の『トム・アット・ザ・ファーム』は、役者としてもすごく良かったよ」
photo Shuya Nakano
interview & text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara
『たかが世界の終わり』
第69回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門グランプリ受賞
2017年2月11日(土)新宿武蔵野館 ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル、ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ナタリー・バイ
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