コミュニケーションが上手い人は「何を変えて」いるのか
人の心を動かすには言葉=セリフが大事だと思われがちです。ところが「相手に気に入られるかどうか」において、言葉が占める割合は、実はたったの7%なんです。
「完璧な営業トークのはずなのに売れない…」
「初対面でハキハキ話したのに会話が続かない…」
など上手くいかなかったとき、「何を話せば良かったのだろう」と反省していませんか?実は反省すべきは、そこではありません。
話す内容に集中するあまり、ある大事な観点が抜けてしまっている人が実に多いのです。
周りにいませんか?こんな「売れない営業マン」
【私の経験談①】
私の元に営業マンが来ました。
あいさつもそこそこに、説明を始めました。セールストークは何度も練習しているのでしょう。論理的に非の打ち所がない説明を続けます。
ところが、一切こちらの目を見ないで話してばかり。私とはまったく視線を合わせないし、見ていると目線がフラフラと定まらない。
そんな営業マンを見ているとこちらが落ち着かないので、もらったカタログに目を落として、耳だけ傾けてみることにします。
でも声だけ聞いていると、ほとんど抑揚がなく、淡々と早いテンポでしゃべり続けているのが余計にイラつきます。
たまに質問をしてくるので、適当に返事をします。
「えーと、そ~ですね~。ちょっと今はわからないですね~」
このように、私はゆっくりしたテンポで返しているのにも関わらず、営業マンは変わらず早いテンポでしゃべり続けます。
当然契約することもなく、早々に切り上げて帰ってもらうことになりました。
こういった営業マンが、世の中にはきっと多いのではないでしょうか。
では、彼の何が問題なのでしょう?
それは、「コミュニケーションとは言葉で行うもの。人を動かすには、話す内容が重要だ」と思っていることです。
実は、話す内容より「どんな話し方をするか」という観点が重要なのです。
私も営業マン時代に、こういった誤解を長い間持っていましたから、多くの人が誤解しているのも理解できます。
印象を左右するもの…「言葉」の影響はたった7%
コミュニケーションには「言葉」「声の使い方」「ボディランゲージ」の3要素があります。(メラビアンの法則)
7% ⇒ 言葉:話の内容
38% ⇒ 声の使い方:声のテンポ、トーン、大きさ、口調など
55% ⇒ ボディランゲージ:視線、ジェスチャーなど
このように、コミュニケーションで言葉が占める割合は、なんとたったの7%。
声やボディランゲージなどの「非言語コミュニケーション」が占める割合が93%もあるのです。
つまり、話す内容がどんなに素晴らしくても、声や表情などが相手に合っていなければ、人を動かすことは難しいのです。
特に頭のいい人、論理的な人ほど、言語情報のみに意識が向かいがちで、非言語コミュニケーションを軽く見てしまう傾向があります。
コミュニケーション力を上げるには、「ボディランゲージ」と「声の使い方」を磨き上げる必要があるのです。
実は、非言語を使いこなす技術は、話す時に限りません。
聴くときにも大きな効力を発揮します。
その中でもコミュニケーションの達人への最初のステップとして、今回は「声の使い方」についてフォーカスします。
「売れない営業マンほど元気で明るい」のはなぜ?
営業研修トレーナーとして指導して思うのは、相手に合わせるのができない営業マンがとても多いということです。
一般的には元気で明るい人が好かれるイメージですよね。ところが、一概にそうとは言えません。
初対面の営業マンが、突然こんな風にお客様に話し始めるとどうでしょう。
(ハキハキ!)「お客様!ご趣味はなんですか!」
(緊張気味…)「えーと、趣味ですか…?趣味はね…たまに映画に行くことですかね…」
(ハキハキ!)「なるほど!映画ですね!映画が趣味って素晴らしいですね!私も大好きですよ!」
(警戒気味…)「…はぁ…、そうですか…」
このように、せっかく「オウム返し」をしても、相手と同じテンポや声の高さ、大きさで返さないと、波長がズレてしまいます。
とても元気が良くてハキハキしゃべる営業マン。
それに対して、緊張気味で警戒心が解けていないお客様。
声のテンポも違うし、大きさも違う。
波長が合っていない状態です。
もし相手が、営業マンと同じく体育会系の元気の良い人なら、意気投合するかもしれません。
ですが、初対面で明るく元気に質問してきた営業マンに対して、元気よく明るい声で対応してくれるお客様は少ないです。
お客様の心理を考えてみると、営業されている立場の人は、警戒心が働きます。大抵の人は、次の状態になります。
■ 声のテンポはゆっくり
■ 声のトーンは低音
■ 声の大きさは小さめでボソボソと話す
それに対して、元気で明るく話す営業マンは、お客様の声の使い方とは、まったく反対のことをしているわけです。わざわざ波長を断ち切る作業をしているのと同じなのです。
売れない原因は、上司にもあった!?
コミュニケーションは、話す内容以外が重要なことを知らないのは、売れない営業マンだけではありません。
教える方も誤解しているので悲劇は拡大するのです。
【私の経験談②】
高級家電品の訪問営業をしていた時代のことです。朝礼が済んだらすぐに車に乗って、一日中お客様宅を回り、会社に帰って報告します。
「課長、今日も売れませんでした」
「今日もダメか。なんで売れなかった?」
「はい、高いって言われました」
「そしたらなんて返したんだ?」
「お客様、高くはないですよ。寿命が長いからかえってオトクなんですよ」
「その説明だけだから売れないんだ!充実したアフターサービスの話もしたのか?他にもアレもコレも話したのか?」
このように、課長から、セールストークを熱血指導されるわけですが、話す内容をいくら磨いても、他の部分が変わらなければ、人の感情を動かすことはできないのです。
メラビアンの法則によると、「声の使い方」が占める割合は38%ということでした。
言葉に比べると、5倍以上の影響力ですね。
上司が部下に対して指導する場合、話す内容の指導だけに偏りがちです。
でも、話す内容を磨いて、セールストークを覚えて話しても、声の使い方で売れる人・売れない人の差が開きます。それは、相手が好む声の使い方をしているかどうかがポイントです。
人は「自分に似た雰囲気」の人を好きになる
私は30年にわたって、さまざまなコミュニケーションスキルを研究してきました。
実は、コミュニケーションの達人たちは、非言語コミュニケーションを、話すときだけでなく、相手の話を聴くときにも使っています。
また、人は自分と共通点のある人や似た雰囲気のある人を好きになります。
そこで大事なのは「相手に波長を合わせる」こと。
波長を合わせる技術を心理学では、「ペーシング」と呼びます。
ペーシングには、「言葉」「声の使い方」「ボディランゲージ」の3つがあります。
言葉のペーシングは、前回の記事で紹介しましたが、オウム返しが基本です。
コミュニケーションが苦手な人ほど、相手が使った言葉をいちいち言い換えます。
達人たちは、自分の解釈を加えずに、相手の言葉をそのまま拾って返します。そうすることで、自然と相手と波長を合わせているのです。
さらに以下5つのポイントをおさえた「声の使い方」をすれば、相手に気付かれず自然に波長を合わせることができます。
①話すテンポ
②声の高さ
③声の大きさ
④声色
⑤間の取り方
まずは身近な家族や友人と話すとき、この5つを意識して相手の声をしっかり観察し、相手に合わせる練習をしてみてください。
まとめ:「声」の使い方ひとつで、印象は変えられる
営業を例に話しましたが、コミュニケーションが苦手な人も同じです。
自分のペースで話してばかりで、相手の声の使い方とは、大きくズレていることに気が付かず、どんどん相手との溝を自分で作ってしまいます。
大事なのは、相手の声をよく聴くことです。
そして、テンポや大きさ、高さを相手に合わせることです。まとめると、
■ 緊張している相手にはゆっくりと話す
声の高さが低めで、声の大きさは小さめでボソボソと話す人には、音程は低めの声で、同じ音量で話します。
■ 初対面でも明るくてテンションが高い人には元気に話す
声のテンポが速い人には、早口で話します。声が高くて音量が大きな人には、同じ音程、同じ音量で話します。
相手を観察して、波長を合わせることを意識していくと、初対面でもなぜか打ち解けて、会話が盛り上がるようになりますよ。
次回はさらに一歩踏み込んだコミュニケーション「ボディランゲージ」の極意をお伝えします。
松橋良紀(まつはし・よしのり)
コミュニケーション総合研究所代表理事/一般社団法人日本聴き方協会代表理事/対人関係が激変するコミュニケーション改善の専門家/コミュニケーション本を約20冊の執筆家
1964年生青森市出身、青森東高校卒。ギタリストを目指して高校卒業後に上京して営業職に就くが、3年以上も売れずに借金まみれになりクビ寸前になる。30才で心理学を学ぶと、たった1ヶ月で全国430人中1位の成績に。営業16年間で、約1万件を超える対面営業と多くの社員研修を経験する。2007年にコミュニケーション総合研究所を設立。参加者が、すぐに成果が出るという口コミが広がり出版の機会を得る。NHKで特集されたり、雑誌の取材なども多く、マスコミでも多数紹介される。
約20冊で累計30万部を超えるベストセラー作家としても活躍。「コミュニケーションで悩む人をゼロにする!」を合言葉に奮闘中。
著書
「あたりまえだけどなかなかできない聞き方のルール」(明日香出版社)
「相手がべらべらしゃべりだす!『聞き方会話術』」(ダイヤモンド社)
「人見知りのための沈黙営業術」(KADOKAWA)
「何を話したらいいのかわからない人のための雑談のルール」(KAODOKAWA)
「話し方で成功する人と失敗する人の習慣」(明日香出版社)
公式サイト http://nlp-oneness.com
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