“夫婦でユニットを組む”働き方とは
結婚後も、夫婦ともに働きつづける人たちが増えています。子どもが生まれると幸せとともに予想外の事態も増えて、多くのカップルが日々大忙し。同時にキャリアアップを目指したい、仕事にもっと時間をかけたいという気持ちとの板挟みも…。そんな毎日にはお互いの思いやりや協力体制が大切ですが、女性に負担がかかりすぎているとか、イクメンを期待されてストレスが溜る男性が多いとか、聞きますよね。そこで今回、夫婦でユニットを組む淵江ご夫妻の働き方をご紹介します。仕事も家事も育児も、恊働スタイル。そのメリットとは?
<ふたりのプロフィール>
四宮(旧姓)明子:慶応義塾大学総合政策学部卒業。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)入社。リクルートにて『ALL ABOUT JAPAN』立ち上げ、マリン企画にて各誌編集長を経て、2008年に株式会社COSTA BLUE設立。(写真右)
淵江亮一:早稲田大学人間科学部卒業。渋谷のイタリアンレストラン、銀座の人気ビストロ/ワインバーで、ソムリエとして勤務。編集者である妻との結婚を機に、(株)COSTA BLUE 入社し、カメラマンとしてのキャリアをスタート。現在はマーケッター、コピーライター、プランナーとして活動。(写真左)
<ふたりの会社>
株式会社COSTA BLUE(コスタブルー):ボディーボード・サーフィン専門誌の版元として2008年に神奈川県・湘南にて創業。その後、グルメ、建築、ブライダル、トラベル、スポーツ、農業、学校関連など幅広いジャンルの出版物制作を行う。2016年夏に神戸に移転。
きっかけは夫の転職。家族としての在り方を優先
妻の四宮明子さんは編集者としてキャリアを積み、夫の淵江亮一さんと出会った頃には自らの会社を運営。一方、亮一さんは銀座の人気ビストロのソムリエ。店で知り合い、お互いの趣味であるサーフィンを通して友人に。亮一さんの猛アタックを経て結婚しました。当初は、それぞれの仕事をしていました。
淵江「レストランの仕事は大好きで、ずっと続けていこうと結婚前は思っていました。しかし、基本的に夜型の勤務体系。生活時間の違いが大きく、これでは結婚生活が上手くいかないと感じました。私の両親が自営で共に仕事をしていた姿も印象に強く残っていたのかもしれません。写真を撮ることが元々好きだったので、自分がカメラマンになってしまえば編集者である妻と一緒に働いていけると思い、現在に至ります。」
四宮「夫本人としては、かなり思い切った転職だったと思います。でも、私も夫婦で一緒に働けるスタイルが作れることを嬉しく思っていたので、当時はポジティブな面しか考えていなかったですね。仕事もプライベートも、それこそもうずっと一緒ですけれど、これが自分たちのスタイルだと言えるようになってきました。」
ずっと一緒にいると、ストレスを感じることも
—外で働く時間が、自分の時間でもあるというワーキングママもいます。ひとりの時間を確保する事でバランスを取る人も多いですが、ずっと夫婦一緒というのは、正直どうですか?
四宮「お互いに信念や主張がはっきりしているので、意見の衝突は頻繁にあります。また性格の違いも大きいですね。私は物事をゆっくり進めていくタイプ。夫は効率やスピードを非常に大切に考えている。お互いの良さが違うからこそ、幅広い仕事を手がけることが出来ていると感じています。でもやっぱり、ストレスに感じることも確かにあります。仕事の話をプライベートで完全にしないかというと、むしろプライベートな時間からの発見を仕事に活かすことも多いので、完全に“違うもの”とは思っていません。だからこそ、仕事でもプライベートでも、とことん楽しもうと。特に、日々の食事は大切にしています。時間がある時は、一緒に食材選びをして、好きな料理と好きなお酒を楽しんでいます。子どもたちも食べることが大好きなので、家族みんなで食卓を囲む時間を大切にしています。レストランで働いていた夫の料理はプロ並み。ソムリエですからワインもお任せです。食事の時間もつい長くなります」
淵江「2014年春に原因不明の病で私が倒れました。その時から、何か生活を変えていこうと決意しました。まず変えたのが、食生活。化学調味料や添加物などを摂取しない家庭料理を心がけ、外食もお店選びからしっかり行うようにしました。元々はレストランマンでしたし、今でも食には大きな興味を持っています。
食という世界の中で、本質的なものは一体何なのか? を考えるようになってから、仕事への考え方まで連鎖して変わってきました。例えば、ハウスメーカー様からカタログ制作の仕事を受ける時には、リサーチ段階から制作の最終段階まで『家とは何なのか?』を考え続けます。当たり前だと思われるかもしれませんが、核となることを考え続けると、見えてくるものがあります。」
四宮「また、休日は子供たちと一緒に自然の中で思い切り遊んでいます。神戸は海と山が近いので、オフィスでも自宅でも、窓の外を見るとその両方を感じることができます。自然の中にいることは私たちにとって、かけがえのないリラックス方法なのだと思います。」
夫婦ユニットはAM5時始業、PM5時終業
朝は素材集めの時間
四宮「朝の時間を大切にしようと、5時頃に起きて読書や新聞閲覧をしています。本からの知識や情報も、写真やコピーのアイデアも、仕事を進めて行く上では欠かせない素材たち。そういった素材は、早い段階で集めることが大切だと感じています。
子供たちが起きてからは、多くの子育て世代と同様にかなりバタバタしています(笑)。朝食を済ませ、子どもたちを幼稚園に送るのが7時45分。そのまま車でオフィスに移動して、8時半前から仕事をスタートさせます。車での移動も一緒なので、この時間は会議の時間に。その日の流れや、会社の方向性、新しい施策案などを約1時間ほど話しています。」
淵江「写真の現像やキャッチコピーのアイデア出しなどは、朝いちばんに行うと一日がスムースに流れるので、早朝に行うことも多いです。料理人の方々が早朝に市場や畑に買い出しに行くのと、多分同じですね」
オフィス時間は、17時までを厳守!
四宮「私たちの会社は17時に完全退社ということにしています。締切前や企画案出しなどの段階では各企業様や版元の方々とのやり取りが多岐に渡るため、仕事を自宅に持ち帰ることもありますが、基本的にこのルールは他スタッフにも守ってもらっています。出版業界は徹夜が常識と思われている部分もありますが、しっかり休めていない体と頭では作業も思考もベストなパフォーマンスを発揮できません。プロスポーツ選手でも、素晴らしい成績を収めている方達は、休息も大切な要因に考えています。私たちも健康的な体と心があってこそ、良い仕事ができると信じているので、スタッフにも徹底していきたいと思っています。」
淵江「子どもたちも僕たちを待ってくれているし、僕たちも家族の時間を大切にしたい。仕事と同じようにプライベートも充実させるからこそ豊かな人生になるのだと信じています。だからこそ、終わりの時間を明確にして、それまでに最大限のパフォーマンスを行えるよう、スケジュール管理や作業の効率化を図っています。例えば、子どもたちの送り迎え時の移動中は1日の仕事の進め方や時間の使い方を話し、オフィスについたらすぐ作業に取りかかれるようにしています。
あとは、デスクを隣にしていると、どうしても相談事をしがちになり、お互いの作業がストップしやすいので、『10時から20分間は相談タイム』というように話すタイミングを時間で区切っています。近い関係だからこそ、やりとりを自由にし過ぎない方が、全体的にはかどりますね。」
“夫婦でユニットを組む”働き方のメリット
(1)仕事の成果が足し算ではなく掛け算になる
四宮「2016年夏に、長らく拠点を構えていた神奈川県から、神戸市へ会社も自宅も引越しを。街が美しく、食が豊かで、海が見える場所。この3つを前提に考えたら、たまたま神戸にたどり着きました。私が近隣の西宮市の出身というのもあり、無意識に関西を選んでいたのかもしれません。
何のツテもなく神戸へ移転したのですが、子育て・育児にひと段落をつけ、改めて2人でリスタートを切りました。人脈も何も、ほとんどゼロから出発しましたが、前年比で4倍以上の業績が今年は見込めています。」
淵江「業績が伸びた最大の要因は、『孫請けの仕事を受けない』と決めたことだと思います。編集プロダクションや代理店からの仕事を受けない、と決めたのです。そのためにも、全く新しい土地で、既存のコネクションがない場所でビジネスをしてみたかったのです。
孫請けの仕事を受けない分、色々と考える時間が増えました。その中で、作業としての撮影や執筆ではなく、クライアントにとって本当に必要なものは何なのかを考え、提案した上で、そのパーツとしての写真や文章を提供するという姿勢が評価されているのだと感じています。少し前までは、『いい写真・いい文章ならば、売れる』と考えていましたが、本当は『いいものを作る』ことと『しっかり売る』ことを分けて考えなければなりません。その点と向き合い、提案内容に含めるようになったのが、業績が伸びている理由だと感じています。」
四宮「夫婦でタッグを組んで仕事ができる最大のメリットは、“2人”という数字が足し算ではなく、掛け算以上の効果を発揮する点にあると強く感じています。考えの幅、効率性、信頼性など、夫婦で仕事をすることですべてが“2”以上の結果をもたらしてくれた。だからこそこそ、おかげさまで業績も伸びているのだと思います。手がける案件も非常に多くなってきたので、これからは2人で培った経験をベースに、スタッフも広く募集していく予定です。」
(2)素早い判断が可能
淵江「経営面での判断が、夫婦だと即断できるのはとても良いことだと感じています。もちろん慎重になることも多いですが、お互いの意見を切磋琢磨するのに役員会議を開かないといけないわけではないので、リズム良く色々を決定できるのはいいことですね。」
(3)スケジュール管理をしやすい
四宮「お互いが別々に担当する案件もたくさんあるのですが、距離が近い分、それらがどのように進行しているのかが何となく分かっている面は、スケジュール管理には非常に有用に働いています。ある程度の長期取材や休暇なども、お互いが抱える案件の流れが分かっているので、1分くらいで決断できます。」
(4)実生活での経験が重なる分、様々な話が楽に出来る
淵江「例えば、どこかで一緒に見た美しい夕陽が、制作物の核となることもあります。そういう経験を一緒にしているので、言葉を尽くさずとも通じる部分があるのは、夫婦ならではのメリットですね。」
(5)経営者が2人いる強さ
四宮「様々な判断を、お互いが経営者としての視点で考えることができているのも、夫婦ならではかなぁと思います。ひとりの判断よりも、それこそ2倍以上のポイントで物事を分析できるので、活かすべき強みや補うべき弱みがしっかり見えてきます。その分、色々と”なあなあ”には出来ないのでやることは増えますが、結果的によいもの作りができていると感じています。」
ふたりの「違うところ」が夫婦ユニットの強み
四宮「私が経験を重ねてきた雑誌業界での“魅せ方”、夫が得意とする“サービスマインド”や“マーケティング”を融合させた提案を行っていくことこそ、夫婦の能力を最大化する道だと考えています。」
淵江「私たちの場合、お互いの得意・不得意分野が見事に違うのです。その差異を埋めようとするのではなく、苦手なところは相手に任せて、得意なところをどんどん伸ばしたい。そうすることで、お互いの能力が最大化し、提案物ももっと良くなっていくと思っています。」
取材・文:リクナビNEXTジャーナル編集部
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