増え続ける知財収入 日本の新たな稼ぐ力にしていくには

増え続ける知財収入 日本の新たな稼ぐ力にしていくには

増え続けている日本の知財収支

日本は貿易立国、これは変わりません。
貿易は日本の生命線です。
ただ、国際取引における利益構造が少し変わってきています。
近年は“モノ”だけではなく、知的財産やノウハウに関する「知財収支」の額が増加しています。

この「知財収支」は数年前から増加し始めて、最新の統計データではざっと2.4兆円の黒字になっています。
アメリカに次いで高く、世界第2位です。
この収支額は素晴らしい数字です。
ただし、いくつか課題もありますので、少し整理しながらご説明していきましょう。

知財収支が大幅黒字のワケ

まず、どの地域から多くの知財収入を得ているのでしょうか。
最大の地域はアジアです。
半分以上がアジア地域からの収入です。
次いで、北米からの収入で、全体の4分の1程度です。
国別では、中国、アメリカが約20%程度、タイが15%程度、英国が10%弱という感じです。
なんとなく、日本メーカーと関係のありそうな地域ですね。

次に、取引の規模なのですが、「知財収支」は黒字額としては確かに大きいのですが、取引規模はあまり大きくありません。
具体的には、「収入(外国からのライセンス料収入)」、「支出(外国へのライセンス料支払)」ともにあまり大きくありません。
黒字額が大きいので、さすが日本の技術・コンテンツ、と思いがちですが、実は、「海外からの収入」の7割程度は親会社・子会社間の取引なのです。
つまり、アジアやアメリカの子会社から特許、技術指導やノウハウ提供の料金を親会社に集約している、ということなのです。
ですので、単純に日本の技術・コンテンツが素晴らしいのでライセンス料がどんどん入っている、とは言い切れないのです。
ただし、素晴らしい技術・コンテンツがあることは間違いなく、その技術・コンテンツのおかげで利益を上げ、更にその利益の一部を親会社に集めることができているので、この構造を維持しつつ、更に収入が増えるような仕組みを作ることが、今後の課題になるかと思います。

全体的には、単純ですが、「収入」は、外国において親子会社以外の外部企業からライセンス料を得ること、「支出」は、外国における外部企業へのライセンス料支払い額を減らすことになります。
もう少し具体的には、外部企業からライセンス料を得ることができる特許権等を外国で取得し、ライセンス活動や標準化活動等を強化する、ということになります。
魅力的な技術を開発し、権利化し、権利を戦略的に活用する、という基本的な活動を海外でも行うということですね。

著作権等に関する収支は大幅赤字

それと、上記は主に特許、ノウハウや技術に関する収支の説明ですが、著作権等に関する収支の方は、実は大幅赤字なのです。
「知財収支」の特許、ノウハウや技術に関する部分は3.1兆円以上の黒字で、著作権等の部分は7,000億円程以上の赤字なのです。
この分野の強化が「知財収支」の更なる向上のポイントですね。
ちなみに著作権等の部分の収入は2,400億年程度なのですが、2016年の興行収益1位、2位のハリウッド映画の2本分の興行収益が、これと同程度の金額なのです(もちろん売上段階なので単純比較できませんが)。
各種ソフトウェア、音楽、映画・ドラマ等、クールジャパン活動も含めて、海外でも収益が得られるものを制作・外部発信する体制や、これらを支援する活動を強化することが必要+有効かと思います。
この分野はまだまだ伸びしろがありそうですね。

以上、「知財収支」について簡単にご説明しましたが、いずれにせよ「知財」による収入は、今後も重要度を増していくと考えます。
基本的には、良い技術、良いコンテンツを創作することが大前提で、この部分が強い日本は本当に有利であると思います。
その上で、知財により収益を得るという意識+仕組みが更に強化されることで、「知財収支」という数字上の成果も更に出るのではないかと期待しています。 

(乾 利之/弁理士)

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