カルビーの“利益率が5年で10倍”を実現させた「働き方改革」とは?

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カルビーといえば、「かっぱえびせん」や「じゃがりこ」など、昔ながらの大ヒット商品を持つ老舗菓子メーカー、というイメージを持っている人も少なくないかもしれない。ところがこのカルビーが、この5年で大きく変わったことをご存じだろうか。象徴的な事実が、会社としての利益率がわずか5年で10倍にもなっていること。カルビーにいったい何が起きたのか。この間に進められたのが、働き方の大きな改革だ。

会長兼CEOの松本氏による「成果主義の徹底」

きっかけは、2009年6月、伊藤忠商事を経てジョンソンエンドジョンソンでの社長経験を持つ松本晃氏が、カルビーの会長兼CEOに就任したこと。そこから大きな働き方改革は始まった。成果主義を徹底し、社員の意識改革を断行。これが、会社を大きく変えた。広報課長の野原和歌氏は語る。f:id:k_kushida:20161226182824j:plain

▲カルビー株式会社 コーポレートコミュニケーション室広報部広報課課長 野原和歌さん

「働き方の改革は、もちろん改革そのものが目的だったわけではありません。人材をどう活用していくか、イノベーションが起きる環境をどうつくっていくか、そのための仕組みや制度をどうつくっていくか。結果として、お客さまから支持を得て、売り上げや利益を伸ばしていく。それを従業員に還元していく、という取り組みです」

目標へのコミットメントのため、全員「契約書」にサインをする

働き方改革の代表的なものには、大きく3つがあるという。中でも注目したいのが、他の会社ではあまりお目にかかったことがない、カルビーならではの独自性が強く感じられる「マネジメント」方法だ。松本氏の働き方改革により、人事制度は大きく変わった。

「まず、役職が極めてシンプルになりました。会長、社長、副社長、常務、上級執行役員、執行役員(本部長)、部長、課長、メンバーというのが、基本です」

そして仕事の目標が明確化された。何をしなければいけないか、何をすれば評価されるのかが、はっきりしたのだ。

「それぞれが上司と一年間の仕事内容と目標のコミットメントを確認して、「契約書」にサインをするんです。会長は取締役会とコミットメントを交わして契約書にサインする。社長は会長とコミットメントを交わす。役員は社長と交わす。部長は本部長と、課長は部長と交わす。メンバーも課長と交わして、最後は全員が契約書にサインします」

上司から順に目標がブレークダウンされていく、という仕組みだ。しかも、役職者のコミットメントは、社内のポータルで公開されるという。どんな成果だったのか、ということも公開される。

「コミットメントはすべて数値化しなければいけない、というルールになっています。スタッフ系であっても、売り上げや利益に結びつくという視点から数字に落としこんで目標を作る必要があります。だから、成果は透明性高く評価されます」

今では、松本氏が導入した目標と成果の明確化「C&A(コミットメント&アカウンタビリティ)」という言葉は、社内ですっかり一般化したという。

「目標となるコミットメントづくりは、最初は下手くそだった、と松本は言っていましたが、6年間の経験値が蓄積されてきています。上司と一緒に考えたりしますが、中には時間をかけてシビアに交渉するケースもあるようです」

というのも、成果は賞与に確実に反映されるからだ。ベースとなる給料は役職によって決まっており、これも開示されている。しかし、成果で賞与が大きく変わるのだ。

「2倍以上の開きが出ることもあります。また、成果が出なければ、降格もある。そのかわり、再びの昇進もあります。コミットメントも成果も公開されますから、こういうことがまったく特別なことではない、という空気になりました」

評価の仕組みが透明化され、誰もが納得できる成果主義が導入されたのだ。結果を出せれば評価されるが、そうでなければ評価は得られない。しかも、目標は上司と一緒に自分で立てるのである。納得性が高いのだ。そして上司は、日頃から目標のフォローアップをしていくことが大事なマネジメント業務になる。

「会社が変わり、お客さまが喜ばれ、売り上げや利益が上がる。そうすると、それが還元されて、リアルに自分たちの賞与が変わる。給与が増えるのは誰でもうれしいですから、こういう仕組みだと理解できていれば当然、モチベーションは上がります。トップのメッセージは極めてシンプルでわかりやすいんです」

「不満があるなら、他の会社に移ればいい」というシンプルなメッセージ

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不満を抱いていた人もいたかもしれない。しかし、「それなら自分が満足できる会社に移ったらいい」というのが、松本氏のこれまたシンプルなメッセージだったのだという。

「残業をすることは良くない、という空気にもなりました。経営の大方針は、時間ではなく成果だから。会社が成長するには、いい人材を育てていくしかありません。これからの時代に求められるのは、過去とは違ったやり方です。そのためには、違ったことを学ばないといけない。残業を減らし、新しい発見をする機会を得る。自分に投資する時間をつくる。家族と一緒に過ごすところから何かを見つける。長く会社にいたのでは、そういう時間がつくれないわけです」

もちろん働き方の大転換は多くの社員に戸惑いを生んだに違いない。すべての仕事の目標を数値化することも簡単なことではない。しかし、カルビーは基本的に極めて素直な風土だったのだという。簡素化・透明化・分権化など、明快なトップのメッセージを、すんなりと受け入れた。これが、会社をガラリと変えた。

オフィス改革、ダイバーシティ。3つの改革が業績向上を後押し

「マネジメント」以外でも、本社の「オフィス」を改革。複数のオフィスを統合して丸の内のビルに移転。フリーアドレスを採用した。同じ席で同じ部署の同じメンバーで毎日、顔を合わせるような環境で、果たしてイノベーションは生まれるのか、という疑問からだ。

「フリーアドレスもルールのない中では結局、同じ席に固定化されてしまいます。そこで席は毎日、コンピュータが決め、席替えが強制的に行われるコクヨのシステム「オフィスダーツ」を導入しました」f:id:k_kushida:20161226184729j:plain

▲「オフィスダーツ」によって、席が決められる

これによって、普段は積極的にコミュニケーションを交わさないような社員同士が隣り合って会話を交わすような機会が生まれるようになった。また、オフィスを見学させてもらって驚いたのは、社内の会議室の壁が取り払われてしまっていたことだ。

「オフィスの中から丸見えです。ダラダラ会議は、とてもできないですね。そもそも会議は推奨されておらず、できるだけしない、が原則。定例会議も次々に廃止され、会議は以前の3分の1に減りました。会議のための書類をつくるな、というメッセージも発信され、紙の書類は引っ越し前から7割減。オフィスはとてもきれいになりました」f:id:k_kushida:20161226185155j:plain

▲社内の様子。ほとんどの会議室には壁がない

そして「ダイバーシティ」。まずは女性が活躍できる制度を整えた。理由は明快。売り上げや利益を伸ばしていくためには、優秀な人材が必要になるからだ。

「時短勤務、フレックスタイム制度、在宅勤務などが制度化されました。約6年半前には5.9%だった女性管理職比率は、今では22.1%になっています。執行役員の中には子育てしながら働く女性もいます。もともと離職率の低い会社でしたが、女性は出産のタイミングで退職するケースがありました。今は出産が理由での退職はほぼ皆無です」

こうした松本氏による働き方改革のひとつの象徴的な成果が、大ヒットとなっているフルグラだという。松本氏自身が商品力を評価し、管理職に女性を抜擢。マーケティングが大きく変わっていった。f:id:k_kushida:20161226185502j:plain

▲フルグラ

「食べ方、売り場、お客さまとのコミュニケーション…。丁寧にマーケティングが行われるようになり、いろんなキャンペーンが積極的に行われるようになりました。朝食ブームや働くお母さん、働く女性を応援するというブランディングも手伝って、商品のポジショニングが大きく変化したんです。31億円だった売上高は、5年で221億円になりました」

フリーアドレスの導入で、固定電話がなくなり、いつでもどこでもモバイルでつながれる仕組みになった。在宅勤務も当たり前になり、今日は仕事に集中したいから出社しない、といった声も普通になった。今では社員は、男性女性問わず、将来の管理職を当たり前にイメージするようになっているという。

カルビーの働き方改革は、仕事の納得感を高め、働きやすい環境をつくり、残業を減らし、女性を活性化させている。これが“5年で利益率10倍”に結びついているのだ。働き方改革で、こんなにも成功している会社が、実はあるのである。f:id:k_kushida:20161226185729j:plain

カルビー株式会社 コーポレートコミュニケーション室広報部広報課課長

野原和歌さん

ロンドン大学大学院卒業後、デベロッパーで美術館開業準備を経て、ブライダルのベンチャー企業「ノバレーゼ」入社。宣伝及び広報を約10年務め、マザーズや東証一部上場にも携わる。2015年、カルビーに入社。トップ広報、マーケティング部門と連携した商品・人事制度や社内取り組みのPR、海外関連のPR、社内広報など戦略的な広報活動を主導する。

WRITING:上阪徹 PHOTO:刑部友康

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