小島慶子さんに聞いた オーストラリアと日本の二拠点生活[中編]

小島慶子さんに聞いた オーストラリアと日本の二拠点生活[中編]

2014年に一家でオーストラリアのパースに引越しした小島さんファミリー。小島さん一人が東京と3週間ごとに行き来して一家を支える″大黒柱生活“を始めてから3年がたった。日本とオーストラリア、東京とパース……二つの国、二つの都市を俯瞰(ふかん)する小島さんだからこそ見えてきた日本とオーストラリアの住宅観の違いを語ってもらった。(前編の記事はこちら)

オーストラリア人は家の古さに無頓着

――著書『大黒柱マザー』によると、パースの家は「築30年くらい」。厳密には築何年なんですか?

分かりません。そもそも、この家を借りるときにも「築何十年」という情報は特にありませんでした。ただ、家の外観を見れば、建築スタイルからだいたい年代が分かるんですね。「このスタイルはこの年代によくはやった家だ」みたいなのが。だから私たちも、パッと見て「これはもう古いよね。だいたい30年か40年かな」って分かりました。もともと大家さんが住んでた家なので、借りることを決めてから「どのくらい住んでたんですか?」って聞いたら、「だいたい30年以上住んでいた」と。だから築30年くらいなんだと思います。これは借りるときに限った話ではなくて、買うときも同じ。インターネットのサイトに載っている不動産広告にも、築年の情報は基本的に載っていません。載っているのは、「ベッドルームはいくつ」「バスルームはいくつ」「キッチンはこんなにきれいに直してあります」といったことだけ。

――いつ建てられたかが分からなくても、直してあれば問題ないよねってことなんでしょうか

彼らは自分たちで直してしまいますからね。テレビでは、古い家を買って自分たちでピッカピカに直して転売するという番組も人気です。こんなにひどい家をこんなふうに直したっていうプロセスが面白いし、直した家がいくらで売れたのかという結果にも興味があるんでしょうね。そうやってリノベーションした家がすごく高値で売れた例が過去にあり、その番組がきっかけでプロになった番組参加者もいるらしいです。パースにも、業者と素人の両方が買いに来るホームセンターがあります。店には大型トラックが入れるエリアがあって、その両側に売り物の柱や鉄骨が並んでいるかと思うと、一方では便器も売ってる。端から部品をそろえていったら、家が建つレベルです(笑)。【画像1】紫色の花を咲かせているのは、ジャカランダの木。「ジャカランダは、パースの初夏を彩る花。鮮やかな紫色で甘い香りがします」(小島さん)。桜が日本で春を告げる花なら、ジャカランダはオーストラリアの夏を告げる存在なのだとか(写真提供/小島慶子さん)

【画像1】紫色の花を咲かせているのは、ジャカランダの木。「ジャカランダは、パースの初夏を彩る花。鮮やかな紫色で甘い香りがします」(小島さん)。桜が日本で春を告げる花なら、ジャカランダはオーストラリアの夏を告げる存在なのだとか(写真提供/小島慶子さん)

賃貸には“自由”がある

――東京で住んでいたマンションも築28年でしたね

はい。賃貸でした。そのマンションの前に住んでいたのは、新築で買った分譲マンションだったんですが、とにかく私、ローンが嫌いで。毎月、住宅ローンの借入残高の書類が送られて来て、「あといくら借金が残ってます」っていうのを見ているうちに、「ずっとここにいるのかなあ」と思い始めて。小さいころから、いろいろなところに住んできたので、飽きてきていたんですね。子どもが成長して部屋が狭く感じるようになってきたこともあって、「賃貸のほうが、子どもの通学とか、自分たちの仕事の都合に合わせてパッと移れていいかなあ」と思い始めて。不動産屋さんに相談してみたら、「マンションは10年超えると値が下がりますから、売るなら今です!」と言われ、買ってから6年たったころだったので、「今だ!」とばかりに売りました。利益は出なかったけれどそんなに損もしなかったんです。

――それで、次は賃貸を選んだんですね

私が会社員を辞めたというのもありました。当時は共働きでしたが、そのとき会社員だった夫の収入も時期によって上下があり、その上、私はフリー。「ローンが払えなくなっちゃったらどうしよう」と怖くなり、「だったらいったん清算して賃貸にしよう」と決めました。「今、住居費にいくら使っているか」を計算して、それと同じ額で近所に賃貸を借りたら、なんと家の広さが1.5倍になったんです!

――広さが1.5倍になったんですか!

ただし古い物件ですよ。新しくさえなければそういう住み替えも可能でしたね。よく「持ち家は全部自分のものになるけど、賃貸はお金をどぶに捨てるようなもの」っていう人がいますけど、「いやいや捨ててないですよ」って言いたいですね。だって、都心の職場への通勤に便利で、子どもの学校にも近くて、住環境のいいところで“屋根と壁”を手に入れようと思ったら、お金がかかるに決まってるじゃないですか。しかも、子どもがいじめられたから転校したいとか、受験したから遠くの学校に行きたいとか、あるいは夫婦の仕事の都合で「ここだと不便だ」ってなったときに、賃貸ならすぐ移れますよね。私にしてみれば、「明日モナコにでも引越せる」という自由を手に入れた気分です。商社マンだった父の駐在先に次々に移り住んだ小さいころ、「次はどこの国に行くんだろう」と期待をふくらませていたワクワク感や気持ちの自由が手に入りました。私の場合は賃貸が向いてました。【画像2】東京の集合住宅暮らしではまったく縁のなかった“庭仕事”に、オーストラリアで初めて目覚めたという小島さん。「すっかり『庭女』になりました。そんな私に刺激されたのか、夫も庭仕事に燃え始めて、チェーンソーまで買ってきて。おかげでうっそうとしていた庭がすっかり明るくなりました」(写真撮影/八木虎造)

【画像2】東京の集合住宅暮らしではまったく縁のなかった“庭仕事”に、オーストラリアで初めて目覚めたという小島さん。「すっかり『庭女』になりました。そんな私に刺激されたのか、夫も庭仕事に燃え始めて、チェーンソーまで買ってきて。おかげでうっそうとしていた庭がすっかり明るくなりました」(写真撮影/八木虎造)

日本とオーストラリアの「持ち家信仰」

――日本には「持ち家信仰」がありますが、賃貸には賃貸の身軽さがありますよね

「持ち家信仰」もだけど、日本には「住宅ローンの呪い」もありますからね。男同士で掛け合ってるでしょ、「呪い」。先輩が若い男性に「お前さ、家は買わなきゃだめなんだよ。一人前なんだからさ。買え買え」と家を買うように執拗(しつよう)に勧める。それは、自分の住宅ローンがあまりにつらくて、ローンを抱えてない男を許せないからなんですよ。で、呪いを真に受けた若い男性が「小島さん、やっぱり家、買ったほうがいいんですかね」って私に相談してくるから、「だめだめだめだめー」って止めてます。「どうしてもというなら、結婚して、子どもの学校も決まって、ある程度、自分たちの生活が見えてから。それでも何があるか分からないよ。家を買って一人前なんていうのは、単なる呪いだからね!」と。呪いを解くのにもう必死です(笑)。

――オーストラリアにも「持ち家信仰」はありますか?

「ローンを組んで家を買い、そのローンを完済してもさらに利益が出るくらいの値段で転売する」という住み替えが可能だった、年配の世代にはあると思います。オーストラリアの景気が過去20年ほどずっと右肩上がりで、不動産価格もそれとシンクロして上がり続けていたから。だから、そうした世代の人は、家を生涯に何回か買い替えるらしいです。中古の家を買って室内を自分で直して高く売るとか、新築で買った家に丁寧に住み続けてから売って、そのお金でまたもうひとついい家を買うとか、あるいは売らずに賃貸に出すとか……。そういう住み替えをしている人が多いですね。ただ、オーストラリアの若い世代は、自分たちの世代ではそんなことはできないと分かっています。親の世代と違って、当たり前のように家が買えるわけではないし、学費のローンもありますからね。しかも今のオーストラリアは空前の不動産ブームで、相当値上がりしていますから。だから、一世代前と同じような「持ち家信仰」は現実的ではなくなっています。日本の若者も同じような状況にいることを考えると、どこの世界も同じということかもしれません。【画像3】天気の良い日は、平日の16時からでもビーチに繰り出すパースの人々。「基本的にみんな残業しないし帰るのも早いですが、波がいい日には早退しちゃうんでしょうね」(写真提供/小島慶子さん)

【画像3】天気の良い日は、平日の16時からでもビーチに繰り出すパースの人々。「基本的にみんな残業しないし帰るのも早いですが、波がいい日には早退しちゃうんでしょうね」(写真提供/小島慶子さん)

滑舌の良い語り口で、「賃貸はお金をどぶに捨てるようなもの」「男は家を買ってこそ一人前」といった、これまでの日本人の思い込みを、それこそチェーンソーのようにぶった切って吹き飛ばしてくださった小島さん。海外から客観的に日本を捉えることのできる小島さんならではの視点を通じて、あらためて「日本の”当たり前“は、決して世界の”当たり前“じゃない」と実感した。次回の最終回は、小島家の教育方針や今後の住まい方について紹介する。●参考

・小島慶子オフィシャルブログ

・小島慶子Twitterアカウント
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