スライムの青のこと

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有機化学美術館・分館

今回は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。
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スライムの青のこと

さて先日から『Twitter』など眺めておりますと、どうやらこいつが大人気のようであります。『ドラゴンクエスト』発売25周年を記念した、ファミリーマート限定で売っている『スライム肉まん』なのだそうです(トップ画像参照)。実は筆者は『ドラゴンクエスト』なるものを一度もやったことがなく、この形態を見ても何の感興も呼び起こされないのでありますが、まあかつてやりこんだ方々にはたまらない商品なのでありましょうね。

しかしこの商品、色が普通の肉まんにはあり得ないスカイブルーです。青ってのは基本的に食欲を失わせる色なんだそうですが、まあこの場合やむなしでしょう。しかしこの色を何で出しているのか、化学者としては気になるところです。青色1号か何かかなと思ったら、「合成着色料を一切使用しておりません」 *1 とのことです。天然由来のものってことですね。

*1: 『スライム肉まん公式サイト』 ファミリーマート
http://www.family.co.jp/goods/ff/slime/

スライムの青のこと

青色1号。いかにも人工な構造。
https://px1img.getnews.jp/img/archives/1108.jpg
(画像が見られない方は上記URLからご覧ください)

実は生物界にあって、青という色は非常に珍しい色です。青い鳥はめったにいないから幸福のシンボルですし、青いバラは英語で“不可能”の代名詞です。空も海も青であるのに、生き物にはなぜか相性の悪い色であるようです。

しかしもちろん、青色色素が天然にないわけではありません。たとえばリンドウやデルフィニウムの花は青色で、デルフィニジンというフラボノイドの一種が青色のもとになっています。

スライムの青のこと

デルフィニジン
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https://px1img.getnews.jp/img/archives/270.jpg

この分子、中央付近の酸素(赤)が3価、つまり陽イオンになっています。この電荷が分子全体に分散しているのですが、この手の構造というのは往々にして特定の波長の光を吸収し、色がついて見えます。これがリンドウの青の秘密です。

で、今回のスライムもこの手のフラボノイド系なのかなと思ったら、クチナシから得られる青色色素なんだそうです。クチナシってのは黄色色素ばかりかと思っていたら、青も取れるんですね。知りませんでした。で、手元の『食品添加物事典』で調べてみると以下の通り。

アカネ科クチナシ(Gardenia augusta MERRILL var.grandiflora HORT., Gardenia jasminoides ELLIS)の果実より、微温時水で抽出して得られたイリドイド配糖体とタンパク質分解物の混合物に、β-グルコシダーゼを添加した後、分離して得られたものである。

何のこっちゃ感爆発ですが、このイリドイド配糖体というのはこんなものだそうです。

スライムの青のこと

イリドイド配糖体の一種、ゲニポシド
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/3310.jpg

β-グルコシダーゼで処理すると、このゲニポシドの糖部分(黄緑色)が切断され、水色の本体が残ります。これが酸性では脱水してデルフィニジンに似たような陽イオンを発生し、青く見えるのではないか――と思います(いまいち自信なし)。

まあこのクチナシ青色素、おそらく使われている量は極めて少量ですし、安全なものなのだろうと思います。ただ、これをもって「合成着色料を一切使用しておりません」と言ってしまうのはどんなものなのか――という気もします。あくまでクチナシの成分に手を加えてできた物質ですので、「天然100%です(キリッ)」と胸を張れるものでもないような気はするのですね。

以前から述べております通り *2 、天然だから安全、合成だから危ないというのは幻想に過ぎません。化合物の安全性は、合成とか天然とか大ざっぱなくくりではなく、個々の化合物について論じられるべきです。別にスライム肉まんの安全性に疑いを持つものではありませんが、「合成着色料を一切使用しておりません」という文言を盾に安全性を主張するようなやり方はちょっとアレであるなあ、と筆者などは思ってしまう次第です。

*2:「改めて、「天然」と「合成」ということ」 2010年06月23日 『有機化学美術館・分館』
http://blog.livedoor.jp/route408/archives/51571404.html

トップ画像:ガジェット通信編集部撮影

執筆: この記事は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。

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