罰則付き受動喫煙対策、飲食店業界などから反対相次ぐ
政府が罰則付き受動喫煙対策を検討
政府は2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて「罰則付きの受動喫煙対策」を検討しています。
受動喫煙については、国立がん研究センターが「受動喫煙による肺がんリスクは科学的に明確な結論」との見解を示しており、世界的にも「たばこ規制枠組条約(FCTC)」などによって世界共通の問題として対策が進められてきました。
受動喫煙による「疾病リスク」はすでに科学的に明確に立証されています。
たばこの煙にさらされることにより健康に被害が及ぶ事実を社会全体で強く認識のうえ、公共の場や職場での「屋内全面禁煙」の法制化など、「たばこ規制枠組条約」が推奨する受動喫煙防止策を実施することが急務です。
意見聴取では飲食店業界などから反対が相次ぐ結果に
現在、厚生労働省は、医療機関に対しては最も厳格な「敷地内禁煙」を、官公庁や大学に対しては「建物内禁煙」を、飲食店などのサービス業に対しては喫煙室の設置が可能な「原則建物内禁煙」を、それぞれ規定する法制化のためのアウトラインを示しています。
これに関連して政府の検討チームが対象業界団体から意見聴取を始めたところ、ビジネスホテル業界や消費者団体は賛成の方向であったのに対し、飲食店業界などからは反対が相次ぎました。
たとえば、ファミリーレストランや居酒屋が加盟する日本フードサービス協会は「売り上げ不振による撤退、閉店、雇用減少などを招く」と反発しており、全国麻雀業組合総連合会は「麻雀店の存続にかかわる」などと抵抗しています。
また、日本私立大学団体連合会は「喫煙室を外に移すと費用がかかる」として、経営の圧迫を主張するとともに実施の猶予と費用の援助を求め、さらに、病院団体である「四病院団体協議会」は「医療機関だけ敷地内禁煙は違和感がある」としたうえ、「長期療養病床は患者の生活の場」であるとして、屋外において喫煙場を設置できるよう「敷地内禁煙」の例外的措置を求めています。
受動喫煙はれっきとした健康被害であるという認識が重要
このような業界団体からの意見聴取内容を拝見すると、やはり我が国においては「受動喫煙による健康被害」に対する「社会的認識」が余りにも低レベルであることが判ります。
病院に入院している患者に喫煙の便宜を与えようという発想に至っては、医療に関わる者として如何なものかと首を傾げたくなります。
受動喫煙は単なる「迷惑」の問題ではありません。
JTのCMでは「気配り」や「思いやり」の問題としてクローズアップされていますが、受動喫煙はれっきとした健康被害であり、喫煙者はその「加害者」であると言っても過言ではありません。
飲食店業界などが懸念する「客離れ」は「喫煙者離れ」を意味しますが、全店が禁煙化されるならば、店舗間の「競争条件」はまったく同じになりますから、「禁煙化イコール売上減少」という公式は成り立たないと思われます。
政府は、来年の通常国会への法案提出を目指すとしていますが、ただでさえ「世界水準」から遅れている我が国の受動喫煙防止策が、業界団体などからの「横槍」に負けて「骨抜き法案」に成り下がることのないよう、切に望みたいところです。
(藤本 尚道/弁護士)
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