藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#35 朝食抜き
朝食抜き健康法を約一ヶ月試してみた。参考書として医学博士渡辺正さんの「朝食有害説」を傍らにした。
以下ざっと要約しつつ進めたい。
朝食を抜くと元気が出ない。一日のスタートが切れない。そう思う人は多いと思う。だが、これはどうやら気のせいらしい。なぜなら食物が消化吸収されエネルギーに変換されるには、食べものによるが約4〜6時間かかる。どんなにカロリーの高い朝食を摂ったとしても、それは午後のエネルギー分になるので、朝食を食べないと力が出ないというのは、気のせいのようだ。
もちろん元気というのは科学的なエネルギーの側からのみ語られるものではない。食べることの気分へもたらす影響力は大きい。気のことは別の機会に譲るとして話を進める。
食べたものがエネルギーになるには時間がかかる。午前中分のエネルギーは前夜の夕食がもたらしてくれる。だとしたら、午後のエエネルギーのために朝食を食べる必要がやはりあるのでは?と思いつつ、「朝食有害説」を読み進めた。
山で遭難した人が何日も水だけで過ごせるように、脂肪と筋肉から分解された糖分によってあたかも食べものを口から摂るようにして、エネルギーは供給されるらしい。自分を食べるようにしてだ。つまり午後の活動は、前夜の夕食分でのエネルギーが午前中の活動を賄った残りや、自身の脂肪や筋肉から分解されたもので足りるとのことなのだ。この辺のことは、そうなのかあ、としか言いようがない。
科学的な裏付けというのは、科学を信じるという前提が必要なのだが、私個人として、科学に全幅の信頼をおいているわけではないので、そういうことになっているのだなあという感想になることが多い。辻褄は合っているようだが、疑心はある。
朝食を絶対必要とする説では、朝食を摂らないと血糖値が上がらず、頭が働かないという。科学的な説明によれば、脳の活動にはブドウ糖が必要で、ブドウ糖は他の器官と違って脳そのものには貯蔵できない。なので脳は血液中からブドウ糖を常に吸収しなくてはならず、それには血液中のブドウ糖が不足なく一定に保たれていることが大切で、食後4、5時間で下降してしまう血糖値を保つためには朝食が必要だとする説である。
それに対して、朝食不要説では、肝臓と筋肉に蓄えられたグリコーゲンが必要に応じて分解されグリコースとなり、血液中に入って血糖値を一定の値に保つようにできている。さらに長時間糖分をとらないと、脳はブドウ糖のかわりに脂肪から糖を作るともいう。つまり、血糖値のことも大丈夫なのだという。朝食を摂らないとふらふらして頭が働かないというの気のせいだということらしい。
空腹感というのは、胃が空になったことよりも、血糖値が低下した時に脳の視床下部が知らせて感じるもので、病気などでブドウ糖の点滴を受けている時に、空腹を覚えないのはそのせいだという。
朝食を抜くと、当初は空腹感に悩まされるが、前述のように肝臓や筋肉から糖分が供給される仕組みがスムーズに行われれば、意外に空腹感を覚えずにいられるそうだ。
要は、朝食を抜くことに慣れてしまえば、午前中の空腹感もなくなり、食べる気にならなくなるということ。頭が働かないとういこともない。
また、朝食を抜くと昼食をたくさん食べ過ぎて太るという説に対しても、これで説明できる。空腹感をそれほど感じなくなるのだ。
このような感じで、朝食を抜くことのデメリットに対しての答えとなる説明は語られている。
次に朝食を抜くことのメリットをざっとかいつまんでいく。
まず、ダイエット効果。
朝食を摂らずに活動すると、蓄積エネルギーである脂肪の分解すすむので、結果的に脂肪が減り、ダイエットになるということ。これは割と分かりやすく納得もしやすい。野生動物や狩猟民に肥満がないのは、活動して脂肪を減らしてから食事をするという順番があるからで、朝食をとるとこれが逆転してしまい過食となり、肥満だけでなく糖尿病や心臓病をも引き起こす原因になるということだ。
次のメリットは病気の予防になるということ。
それは断食の効用と重なる。朝食は英語では断食を終えるを意味するbreakfastで、フランス語でも同意となる。朝食は、ちょっと考えると短い断食であると考えられているのだ。これはその通りだろうと思う。
断食をすると、臓器が休め、その本来の機能が十分に発揮できる状態を作る。また食料が絶たれると体内の蓄えが消費され、余分な栄養は除かれて、老廃物や有害な化学物質なども排泄される。また断食という小さな飢餓によって自律神経と内分泌系が刺激され、自己治癒力が高まるという。このことによって病気の予防に効果があるというのだ。
まとめると、ダイエット効果と自己治癒力の増加が期待できるということだ。これはとても現代的な感じがする。
つまり、見栄えと本質的な健康の両立。
外見の整いを、人工的なものに頼らない方向性は、ヨガやオーガニックという言葉を持ち出すべくもなく、行き渡った考えだし、健康も薬などに頼らずに、自身の治癒力を高めることで得るというのも然り。
ならば朝食抜きの健康法は試す価値があると考え、さっそくやってみた。
これまでも食事に関してはいろいろ試してきた遍歴があるので、試すことに何も躊躇はなかった。
試す前までの食事は、野菜を中心にしたもので、過食は避け、食べたいものを食べたい時に、という感じだった。アルコールも飲むし、まあ一般的なものだ。
なので、朝食を抜くという以外は、普通の食事だと考えてもらっていいと思う。
で、三週間後の感想を先に言うなら、まず便の臭いがほとんどしなくなった。これは十分に休めた胃腸が、しっかりと消化吸収できたことで、不消化で悪臭を放つ過食分がなくなったせいだろうと思われた。これは目に見える結果として特筆ものだろう。臭くない便というのは不思議なものだが、上手に消化された便とは本来そういうものらしい。
ダイエット効果については、それほどでもなかった。自分がもともと痩身ということもあると思うのだが。だが、多くの人が心配する朝食抜きは太るということもなかった。まあ一食抜くのだから、一般的にはダイエット効果を期待できると思う。
自己治癒力に関しては、期間中、体調は良かった。ちょうど季節の変わり目だったが風邪も引かなかった。これは朝食抜きだけがもたらしたものかは分からないが、事実としてある。
空腹感に関しては、三週間目ぐらいから空腹感がなくなってくる、という記述もあったように、それには至らなかった。午前中の空腹感は達成好きの人には楽しいかもしれないが、そうでなければ、ストレスになるかもしれないと思った。ただ空腹感というのは無くなりはしなくても、気にならなくはなった。慣れたといえばいいのだろうか。野生動物は空腹感を覚えてから狩りや採集にでかけ、実際食べ物にありつくまでには、それなりに時間がかかるだろう。そう考えれば、肥満になることなく、癌にかかることもない野生動物を手本とした結果の空腹ならば、生物として真っ当なエリアにいるような楽しさはあった。
人それぞれに感じ方は異なると思うが、倦怠感や不調を慢性的に感じている人には簡単に試せる健康法としておすすめはできる。
便が臭くなくなるというのは、個人的には結構な驚きで、質量もしっかりとしたものだった。思い込みでは語れない事実として、覚えておきたいと思う。
また朝食に費やしていた時間を他に使うことができる。散歩をしたり、音楽を聞いたり、ヨガをしたり、寝坊をしたり。ばたばたとした朝時間が、ゆったりとしたものとなる効果というのも朝食抜きの恩恵として大きい。「親が死んでも食休み」の言葉があるように、食後は胃腸の活動のために余計なことをしないという共通の考えがあった。食べてすぐの運動は、胃腸を痛める。これから消化しようというのに、通勤などの運動によって筋肉などへ血液が分割されてしまう。食欲もないのにトーストを齧って走って駅まで行くというのは、およそ理にかなっていないことなのだ。何事にも優先順位が体にもあるということ。
ということで今しばらく朝食抜きを継続するつもりである。その後の報告はいずれまた。
※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#36」は2016年11月29日(火)アップ予定。
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