礼金や更新料がなくなる?特殊な日本の不動産取引慣習に変化の兆し

礼金や更新料がなくなる?特殊な日本の不動産取引慣習に変化の兆し

ビルオーナーが預かる敷金が最低水準にまで下がっている

2016年10月18日の朝刊で日経新聞が「(不動産大手のCBRE社の発表によると)オフィスビルに入るテナントがビルのオーナーに払う預かり金が過去最低水準に下がっている」と報じました。
具体的には、2011年には東京で賃料の9.5カ月分程度だった預かり金が、現在は9.1カ月程度まで下落、大阪では同10.5カ月分だったものが10カ月分を下回る水準となっています。

預かり金(預託金)とは、敷金や保証金など、賃料とは別に入居者がオーナーに支払うおカネで、退去時に原状回復費用を差し引いて入居者に返還するのが一般的な商習慣となっています。
オーナーはこの預託金を退去時まで金融機関に預けて運用することも多いものです。
しかし、日銀のマイナス金利政策などにより運用益を得るのが難しくなり、特に中小ビルのオーナーが預託金の水準を引き下げることで入居を促進しています。

日本のビル入居時の敷金は高額。礼金や更新料は日本独特の仕組み

敷金が低下している理由には金利低下以外に、日本独自の不動産の取引慣習が見直されていることがあります。
海外の不動産投資家や訪日外国人、日本への留学生など、外国人が日本に強くかかわりを持つ中、(賃貸住宅においても)日本の不動産取引が分かりづらいという声を無視できなくなりつつあるのです。

「敷金」の制度は欧米にもあり、Security Depositや(ペットを飼う場合には)Pet Deposit、CAM(Common Area Maintenance charge)などの名称で呼ばれています。
しかし、ビルのテナント(商業利用)であっても3カ月程度が一般的であり、日本は地域差も大きいですが、特に商業用では多くの敷金を徴収する文化があるといえます。

また、「礼金」という制度がここまで広く一般的に普及しているのは日本だけといえるでしょう。
諸説ありますが、関東大震災後に住む家を失った方や、戦後住みかを失った方々が住宅を貸してくれた大家さんに謝意を込めて渡したことが始まりともいわれています。
さらに「更新料」も日本独特のシステムで、世界的にも珍しい制度です。
これは、その徴収目的が不明瞭といわれ度々トラブルになり裁判も複数あります。
日本人同士でも十分な理解が得られないなら、外国人とってはさらにわかりづらい制度でしょう。

ガラパゴス化する日本の賃貸制度 外国人の入居ニーズを満たす制度へ

現在は空き家が増加する家余りの時代、礼金などの習慣は合理性が薄れ、むしろオーナー側が入居者に頭を下げる時代ともいえるかもしれません。
時代にそぐわなくなっている制度は今後、不動産のグローバル化とともに淘汰されていくでしょう。
今は差別化できる「礼金ゼロ物件」も将来当たり前となり、更新料もむしろゼロとすることで長期入居を促す切り札になることも考えられます。
保証人がいない方などには家賃保証会社がその代わりを担いますが、外国人は審査が厳しい実態があります。
その課題を解決すべく、外国人スタッフを擁し、海外現地の親族にまで直接コンタクトをとる保証会社も出てきました。

人口も世帯数も伸びていた時代は終わりをつげ、ますます日本の賃貸市場は競争が激しくなってきます。
外国人の「日本のオーヤサンは部屋を貸してくれない」との声にも積極的に耳を傾ける時代なのです。

海外投資家にもわかりやすい市場へ。大家さんも変化を迫られる

日本の不動産には昨今多くの海外マネーが流れており、不動産市場を支えています。
海外投資家が日本に目を向けるその背景には、日本不動産の安定性があります。
バブル期にも乱高下したのは不動産価格そのもので、賃料水準はこれまで若干の変動に留まり安定しています。

また、不動産投資利回りと金融機関への返済利息の差であるイールドギャップも、特に東京オフィスにおいては海外主要市場と比較しても高く、かつ安定推移しています。
東京には大型物件が多く存在し、まとまった金額の投資がしやすい点も海外ファンドから魅力的に映っています。
これらを支えているのは、これまで人口も世帯数も増加する時代であったことや、日本の高度な社会インフラなどビジネス環境が整っていること、経済規模が大きいことなどに支えられていたものです。

今後は少子超高齢化社会に突入してますます経済が成熟する中、入居者やテナントを安定的に確保するには、外国人の存在を無視できなくなりつつあります。
また、不透明な取引条件はファンドが投資収益を予想する際に嫌気され、投資そのものを見送るリスクもあります。
もちろん、日本だけが独特なのではなく世界にはその地域に合わせた賃貸慣習があります。
しかし、日本の不動産市場は多くの海外投資家に魅力的であり、わかりやすい仕組みへ変化することが望まれているのです。

古くから続く不動産業界が現在過渡期を迎える中、今後、旧態依然とした商習慣が徐々に変化、業者のみならず大家さんにも対応を迫られる時が来るでしょう。

(加藤 豊/不動産コンサルタント)

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