夜間診療で大事なこと

私の職業は、“動物のお医者さん”。動物病院で働いています。
私の勤めている病院には、“ケータイ当番”という制度があります。診療時間終了後、病院の電話が自分のケータイに転送されるように設定し、時間外診療の電話番を務める、という制度です。院長および、病院の近隣に住む獣医師が日替わりで当番を務め、自宅待機しつつ電話番をし、急患の場合には病院へ急行します。
実に、心休まらない仕事。 
自宅にいるとはいうものの、トイレに行くにもケータイを持ち込み、入浴する時は脱衣所にケータイを置いてドアをやや開けておき、テレビを見て笑いながらも手元からケータイだけは離さない。成立秒読みのカップルでもかくや、というくらいに仕事でケータイに縛られて時を過ごすのですから、消耗はかなり激しいです。 

でも、ここで言いたいのは愚痴はではなくて。今日、ケータイ当番のことを記事のテーマに選んだのは、ケータイ当番のローテーションに組み込まれてから、心底、大切だと思ったことがひとつあるからなんです。獣医師にとって、ではなく、飼い主さんにとって大事なこと

それは何かというと、“動物の保定法を、しっかりと覚えておく”こと。なぜなら、時間外診療では獣医師がたった1人で診療にあたるのですが、動物の診療は、1人でできることがほとんどない、からです。 
たとえば、採血。全身状態を把握するためのごく基本的な検査ですが、これすらも、駆血をしてくれる人がいなければ、採血ができず実施できません。駆血帯を使っての採血はもちろん可能なのですが、その場合にも、誰かがしっかりと動物を押さえておいてくれなくては、首尾よくことを運ぶことができません。主義的には採血の応用である静脈注射(てんかん発作を抑えるのに必要!)や、静脈への点滴ライン確保も同様です。誰かの力が必要なのです。 
そして、時間外診療の場合、その“誰か”は、飼い主さんしかいないというわけ。 

獣医師が1人で診療に当たる以上、飼い主さんがどのレベルまで協力してくれるかで、その進行が大幅に変わってくるのです。飼い主さんが、まともに動物を押さえられないようであれば、我々は、多くのことを諦めなければいけません。 逆に、飼い主さんの保定スキルが高ければ、我々はいろいろな処置を施すことができます。いろいろな処理を施すことができれば、その分、動物の予後はよくなるのは当然ですよね。 

ですから、自分の愛する動物たちのためにも、動物を押さえる方法=保定法を、飼い主さんは覚えておいた方がいいんです。  
たとえば、この動画で解説されているようなレベルまでマスターしていると、診療はとてもスムーズに運ぶだろう、と思われます。



「動画でみる猫の血液検査入門」『YouTube』(http://youtu.be/JAPPOrkBh3Q)

ほんとうは、飼い主さんがそんなことまで考えなくても済むようなきちんとした夜間救急病院があればいいんですけどね……。

※この記事はガジェ通ウェブライターの「名古孟大」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
東京農工大学農学部獣医学科卒業、獣医師です。いわゆる「動物のお医者さん」以外にも幅広い役割を担っている獣医師のあまり知られていない姿や、獣医学を学ぶ学生たちの生態、なんかも伝えられたらいいな、と思っています。

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