【実は必読のビジネス書?】『学問のすゝめ』から学ぶ5つのビジネススキル

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明治初期の名著『学問のすゝめ』は、国と人が独立して豊かになるには、よく学問をするべきだと説いた、17編の論説文です。

福沢諭吉がいう学問とは、物理化学、経済、外国語、会計、地理といった、実用的な近代の学問のこと。

読み進めると、現代においても変わらず役に立つ実用的な助言や、仕事に使える考え方に出会えます。

福澤はなぜ「学問」を「すゝめ」たのか?

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元幕臣の思想家、教育家、大学経営者である福沢諭吉の生年は1835(天保5)年、まだ幕末が始まる前で、坂本龍馬が生まれる1年前です。没年は1901(明治34)年、これは日清戦争に勝った6年後にあたり、着々と日本が一等国に向かって力を付けていると誰もが実感できた頃にあたります。

福沢諭吉は漢学・儒学を重んじた封建・専制の旧時代を廃し、洋学に基づいて近代化を進め、新時代を切り開こうとした人ですから、自身が夢見た未来を、生きているうちに見ることが叶う、幸せな生涯を送ったといえます。

しかしながら生まれた時から恵まれた環境にいたわけではなく、むしろその逆。早過ぎる父の死、下級藩士という低い身分、漢学と儒学に基づく閉塞的な封建・専制のしくみ。それら全てにあらがおうと、故郷を捨てる覚悟で洋学を学び続け、立身出世を成し遂げました。学問をすすめたのはこうした実体験も大きかったのでしょう。

【その1】意図しない炎上はきちんと弁明する

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厳しい状況に甘んじることなく、快活な批判精神を持ち、どこまでも前向きに学問に励んだ福沢諭吉の明るさは、文章から伝わってきます。込み入った内容はユニークな比喩を用いてわかりやすく、読者に発破を掛けたい時は、遠慮をせずに挑発的な言葉を使うのです。ただあまりに挑発が過ぎて、「遠近より脅迫状の到来」するほどの炎上事件を起こしたことがあります。

福沢諭吉は全17編の『学問のすゝめ』を、約4年半かけて発表しており、6編と7編では、法治国家と法令遵守の重要性を説きました。そのなかで、「赤穂47士の敵討ちは私刑でけしからん」「主人の金を落とした権助が自死して責任をとった話などは、美談に似ているが世に益することはない」と過激なたとえ話をしたために、忠臣義士が好物の多数の読者から大きな反感を買いました。

新聞までが騒ぎ出す炎上事件に発展し、さすがの福沢諭吉も五九楼仙万というペンネームで新聞に「双方の情意相通ぜざるがために不平を感ずるのみ。いやしくもその真面目を明らかにして相互に会心するときは、人間世界に憎むべきものもなく怒るべきものもなきの事実を知るに足るべし」と誠意ある弁明の投書をしています。それが功を奏したのか、さらなる延焼はなかったようです。

現代は福沢諭吉が生きた時代と比べると、情報発信が格段に手軽となった時代。もしも意図しない炎上の当事者になってしまったら、放置をせずにしっかりと真意を説明すべきなのでしょう。

【その2】部下とは適切な距離を保つ。部下は他人であって家族ではない

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政府といい会社といい、すべて人間の交際と名づくるものは皆大人と大人との仲間なり、他人と他人との付合なり。この仲間付合に実の親子の流儀を用いんとするもまた難きに非ずや—11編

親子関係とは、子どもが小さい頃にだけ機能する、絶対的な信頼に基づいた揺るがない主従関係であると福沢諭吉は断じています。そして親子関係は美しく快適なため、人はそれを政府や会社のなかに持ち込みたくなるが、弊害の方が多いので止めた方がよい、なぜなら政府と国民、上司と部下は他人同士であり、多数の他人が全て絶対的な信頼の気持ちを持てる聖人君子であった試しがないと続けます。

もし仮に会社で圧倒的な上司が、部下を子のように世話したらどうなるでしょう。いろいろな弊害が起こりそうですが、福沢諭吉の着眼点は実にドライ、或いは反専制。上司が部下を子のように甘く見て盲目の信頼を置くと、部下の不正を誘発し、なおかつそれに気付けなくなって非常にまずいといっています。

たとえば部下に仕事を頼む際に、手取り足取り指示を出し、子に対するような優しい言葉遣いになっていませんか? 部下が安心して仕事ができる雰囲気作りは大切ですが、しっかりと責任を持ってもらうには、適度な距離感が必要です。

【その3】人は物事を軽く見がちで、時間の計算も甘くなる

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人の企ては常に大なるものにて、事の難易大小と時日の長短とを比較すること甚だ難しー14編

新しいプロジェクトの立案時は、あれもやろう、これもやろうと、たくさん内容を盛り込んで、計画が大きくなりがち。また、仕事の難易度に応じて、それをやり遂げるためにかかる時間を正確に見積もることは、非常に難しいと指摘しています。平たくいえば、人は往々にして時間の計算に甘く、物事を簡単に見過ぎるということでしょう。耳の痛い話です。

大工の工事期間だろうが、大学に入って3年で語学を修得する目標だろうが、どちらも同じで、遠大な目標を実現できる人は多くありません。計画通りに事をなしたいのであれば、商売の棚卸しの様に、正確な現状の把握に努めて、今後の方針を立てなさいと、アドバイスしています。

もしも半年かかる仕事、半年後の目標を立てたのであれば、月単位、週単位の細かなゴールを設定して、その都度、進捗の確認をするとよいでしょう。

【その4】頭でっかちになっていたら行動してみる

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心事高大にして働きに乏しき者は常に不平を抱かざるを得ずー16編

心が高いところにあって、働き・仕事・行動が伴っていない者は不満を持つ。そしてこの不満が生み出す弊害は深刻になる場合があると、福沢諭吉は警告しています。

弊害のひとつは、自分の心の高尚さを満たす仕事がないことを、時流や巡り合わせのせいにし、より一層消極的になっていく点。もうひとつは、高尚な自分の心だけで、他人の仕事を判断しようとし、無闇に他人を軽蔑するようになってしまう点です。ひどい場合、お互いに軽蔑し合って、しまいには奇人と思われ、世間に入ることが難しくなります。こうなる前に、試しに何でもやってみなさいと、福沢諭吉は強く若者を諭しています。

「とりあえず行動する」「手を動かしてみる」は日々の仕事においても大事なこと。アイデアが浮かばず、パソコン画面を前にして悩んでばかりで手が進まなかったら、とりあえずキーボードを叩いて、思考を外に出してみてはいかがでしょうか。

【その5】他人の評価や人望は努力で手に入れる

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顔色容貌の活潑愉快なるは人の徳義の一箇条にして、人間交際において最も大切なるものなりー17編

17編は「学問のすゝめ」の締めくくり。そこには意外にも、事をなすには人望が必要だから、これを積極的に求めるべきで、人望は努力によって手に入るという内容が書かれています。他人からの評価を得るためには、座して待っているのではなく、評価が得られるように自ら動くべきだとのことです。

福沢諭吉によればポイントは3つ。1つは語彙を増やし、流暢で魅力ある話し方をすること。2つ目はいい笑顔です。3つ目は好奇心を広く持って、いろいろな人と多く知り合っておくこと。確かに、話が下手で、いつも仏頂面であれば人は寄って来ず、交友関係が狭ければ、少数の人からの信頼しか得られません。

そんなことはわかっている、けれども特に忙しい日々を送って余裕を無くすと、普段はできているコミュニケーションが疎かになりがちなもの。慌てている時ほど、相手にそれを悟らせない術もビジネス・スキルのひとつです。

底本:岩波書店『学問のすゝめ』

文:本山光

編集:大山勇一(アーク・コミュニケーションズ

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