「空き家」×「ゼロ円リノベーション」で人気の沿線を活性化
私鉄各社が、住み替えに伴う空き家を有効活用するサービスを開始
これまで物件の管理業務を多数手がけてきた私鉄各社が、空き家管理やリフォーム・リノベーション、賃貸管理、売却・住み替え、民泊などの各種支援サービスを開始、沿線の空き家活用を本格的化させています。
例えば小田急電鉄は、高齢者の住み替えによって生まれた空き家を借り上げ、リノベーション後に若年層向けに貸し出す包括的な支援サービスを打ち出しています。
背景には、鉄道路線の価値を維持すべく、空き家を賃貸や民泊で活用し、若年層や訪日客など国内外の人口を沿線に流入させる狙いがあります。
一般的に若年層は、価格水準の高い沿線住宅を買うことより借りることの需要が高いとみられ、また、利便性の高い沿線住宅への民泊需要も旺盛です。
一方で高齢化や超寿命化に伴い、介護施設やバリアフリー住宅への住み替えに伴う空き家の発生は今後増加することが予想されます。
つまり、沿線の賃貸住宅に対する需要も供給も両側から掘り起こし、空き家をうまくビジネス化するものといえるでしょう。
空き家発生の一因「おカネを出したくない」に応える資金ゼロリノベーション
住宅を貸し出す時にハードルとなるのが、家主が負担すべきリノベーション費用です。
そのまま空き家を賃貸できるのであれば問題ありませんが、長年住んできた住宅の多くは、少なくない修繕費用が発生します。
特に高齢者の場合、老後資金を取り崩してまでリノベーションを行うことへの抵抗は大きいものです。
このため、老朽化した住宅をリノベーションする資金を用意できず、そのまま放置してしまうことがあり、空き家が発生する原因の一つになっています。
小田急電鉄はそこに目を付け、10月3日、家賃の前払いによるリノベーションサービス「安心サブリース」を開始することも発表しました。
これは、事業者が住宅を借り上げて転貸(サブリース)することを前提に、将来の賃料収益を前倒しして家主に支払い、そこからリノベーション費用を捻出するという方法です。
この場合、家主が資金を出さずにすみ、しかも賃料収入も得られるため、家主の心理的負担も大きく下がります。
この家賃前払い方式自体は目新しいものではなく、リフォーム事業者や不動産会社などでも行われてきたものです。
しかし、立地の悪さなどから入居者が想定通り確保できず、サブリース会社から家賃減額を要求されるなど家主にとって旨味のない事例も少なくありません。
今回は、鉄道会社ならではの利便性の高い沿線の空き家が対象となるため、これらに比べ持続的な空き家活用が期待できるでしょう。
真の課題は人口激減の地方。都市型活用の取捨選択が必要
私鉄各社の取り組みは、沿線という好立地を前提としたサービスです。
不動産の二極化が進む中、今後ますます需要が高まるであろう利便性の高い沿線に賃貸住宅の供給を増やすというものです。
確かに空き家活用ではありますが、小田急電鉄も「当面は小田急線およびJR山手線沿線を中心に展開します」と発表している通り、まずは需要の根強い立地に限定したサービスに留めるものといえるでしょう。
一方で難易度が高いのは郊外や地方であり、いまだ抜本的な解決策はみつかっていません。
2050年には、2010年に比べ国土の60%以上で人口が半減、その3分の1では人が住まなくなるという国土交通省の推計もあります。
人口が都市部に集中し、地方人口が激減するのです。
リノベーションによる賃貸住宅化といった従来の不動産活用法による空き家対策ももちろん大切ですが、それだけでは地方の空き家問題は解決が難しいでしょう。
例えば現在各社が推し進めるホテル型民泊ではなく、地方はホームステイ型民泊(民宿)を積極的に普及させ、宿泊ではなく田舎暮らし体験という“コト消費”を提供することで人を呼び込む差別化が必要となってくるかもしれません。
また、空き家巡回サービスでは、私鉄各社含め多くの事業者が取り組んでいますが、人が実際に空き家を訪れ、換気や通水、清掃、郵便物や建物状況の確認、防犯などを行っています。
これを省エネや防犯、健康管理などをAI(人工知能)が自ら学習して快適な住環境を創り出す「AI住宅」の技術を活用し、空き家管理を大きく効率化することも考えられるでしょう。
私鉄会社などが取り組む持続的な都心型空き家活用の知見も踏まえつつ、IoT(モノのインターネット)やAIなどICT技術も総動員することで、より一層柔軟で常識にとらわれない空き家活用に発展させ、既定路線となっている空き家増加の流れを断ち切ることを期待します。
(加藤 豊/不動産コンサルタント)
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