9人乗り送迎車に64人乗って事故 21人死亡
日本のマスコミでもかなり大きく取り上げられておりますが、中国甘粛省東部の慶陽市正寧県で16日午前、石炭を運ぶトラックと地元の幼稚園の送迎車が正面衝突しました。これにより送迎車の運転手、教師の大人2名と幼稚園児19名の計21人が死亡し、多くのけが人を出す大惨事となりました。
この事故自体が極めて悲惨なもので、中国でもかなり関心を集めております。しかし、何と言っても、9人乗りの車に64人もの児童を詰め込んでいたことが話題となり、この事故の影響を受けて、これまで中国では一般的だった、スクールバスの定員を超えた運行が禁止される等、各地でさまざまな影響がでています。
1 スクールバスの運行停止
違法なスクールバスの運行が停止された結果どうなったかというと、学校から遠いところに住んでいる子どもは親が送るか、自分で通学するしかなくなりました。ただ、中国の農村部では働き場所がないため、親が出稼ぎに行っていることが結構あります。
そうなると親が学校に送っていくという選択肢はなく、子どもたちだけで歩いて通学することになります。しかし、問題はやはり広い中国なので、通学距離も日本とはケタ違いで、かなり長い距離を歩かざるを得ません。
そうした事例を紹介した記事が『CRI Online』*1 に掲載されていました。この写真は小学校6年生の姉が幼稚園の弟をつれて通学しているもので、運良く知り合いの車に乗せてもらうこともたまにあるそうですが、普段は2人で10㎞の道を2時間かけて通学しているそうです。
*1:『CRI Online』
http://gb.cri.cn/27824/2011/11/19/110s3442355_2.htm
だったら遠くの者だけでもスクールバスで運べばと思いそうですが、バス会社としては、あれだけの大人数を運んでいたから経営が成り立っていた面があり、少人数では車を出してくれないのではないかと推察されます。
2 賠償金
今回の事故で死亡した児童に対する賠償金は1人当たり、43.6万元(日本円にしておよそ530万円)だそうです*2。そして、早くも既に賠償金の支払い手続は始まっているそうです。
おそらくこれは今年7月に発生した高速鉄道事故の反省を踏まえたもので、さっさと金を渡して遺族をだまらせてしまえという感じがありありです。
実際この記事では、今回の事故に対し事後処理は積極的に行われており、遺族に対し、県、郷鎮、村、組の幹部が4者一体となって、1つ1つの家にあたって、入念に遺族を落ち着かせる作業をし、現在遺族の情緒は安定しているとあります。
これが何を意味するかは、言わずとも明らかです。7月の事故では遺族等が抗議運動を行い、下手をすれば反政府運動に拡大する事態にもなりかねませんでした。そのため、今回は徹底的に遺族を囲い込み下手な行動をとらせないようにしてるのでしょう。
*2:『人民網』
http://news.qq.com/a/20111118/000552.htm
3 政府の対応
またこれだけの事故を受けて、官も何かやっているという行動を見せなくてはならなくなったのでしょう。事故の起こった甘粛省慶陽市では2012年の公用車を買う予算を全てスクールバスの購入に充てることを決定したそうです*3。
こうした政府の政策を支持する記事は散見されます。他にも、浙江省徳清県で2000万元(約2億4000円)の金で79台のスクールバスを購入し、23の学校の6000名もの生徒の送迎をしているという記事がありました*4。いかにも先見の明があった、ちゃんと政府もやっていると言いたいのでしょう。
しかし、冒頭に述べた事故のように中国政府の無策のために、いまだに多くの子どもたちが通学に苦労させられており、そしてこれまでもぎゅうぎゅう詰めのバスに押し込められるなどしてきたわけで、こうした記事を見るにつけ、やりきれなさが募ります。
*3:『中国新聞網』
http://www.chinanews.com/df/2011/11-19/3472021.shtml
*4:『中国広播網』
http://www.cnr.cn/china/xwwgf/201111/t20111118_508801536.shtml
画像引用元:『CRI Online』
http://gb.cri.cn/27824/2011/11/19/110s3442355_2.htm
http://gb.cri.cn/27824/2011/11/19/110s3442355_2.htm
※この記事はガジェ通ウェブライターの「凜」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
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専門は国際政治(主に日中関係)で、博士課程中退(正式に手続をとったわけではないのですが、たぶんそうなっているでしょう)。 ただ、基本的に雑食系ですので、特に専門にこだわらずにやっていきたいと思っております。
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