Ásgeir『Where Is My Mind?』Interview
ボン・イヴェールやジェイムス・ブレイクも引き合いに出される、あたたかみがあり艶のある歌声。そして、アコースティック・ギターやピアノの生音とモダンなエレクトロニクスやビートが織りなす、幻想的で奥行きの深いサウンド/プロダクション。そのアイスランド出身のシンガー・ソングライターの音楽は、ワールド・デビュー盤となった2年前のアルバム『イン・ザ・サイレンス』のリリース以来、ここ日本をはじめ世界中に支持の輪を広げ続けている。先日、昨年のジャパン・ツアーに続き4度目の来日となるホステス・クラブ・オールナイターに出演を果たしたアウスゲイル。日本独自企画の7インチ・シングル『ホエア・イズ・マイ・マインド?』を手土産に携えたかれに、『イン・ザ・サイレンス』以降の近況について、さらに、制作が大詰めを迎えているというニュー・アルバムについて話を聞いてみた。
―今回の「ホステス・クラブ・オールナイター」には、あなたと縁の深いジョン・グラント(※『イン・ザ・サイレンス』のリリースにあたり、その元になった作品でアイスランド語で書かれたデビュー・アルバム『Dyrdidaudathogn』の歌詞の英訳を手がけた)も出演されましたが、言葉を交わす機会などはありましたか?
Ásgeir「いや(笑)」
―そうなの(笑)?
Ásgeir「ジョンの出番が遅かったから。自分が楽屋に戻ったときにはジョンがすでにステージに立っていて、自分達が帰るときにちょうどジョンがステージを終えてっていう感じで、入れ違いだったんだ」
―じゃあ、他のアーティストは誰か見ましたか?
Ásgeir「オフスプリングを見たよ(※日中のサマーソニックに出演)。2、3曲だけね」
―意外な名前が(笑)。
Ásgeir「そうだね(笑)。あと、なんだっけ、あのマーズ・ヴォルタの……アット・ザ・ドライブ・インも観たよ」
―いま名前を挙げてくれたバンドみたいなパンクやハードコアが、じつはあなたの音楽的なルーツや原体験だったりするのでしょうか?
Ásgeir「まあ、そうなのかな。子供の頃、バンドをやってるときにはオフスプリングの曲をやったりしてたし……ただ、あんまり印象には残ってないんだけどね。楽しんでやってはいたけど」
―今度リリースされる日本限定盤の7インチではピクシーズのカヴァーが収録されていますけど、あのへんの80年代や90年代のアメリカのインディ・ロックも子供の頃にはよく聴いていた感じだったのでしょうか?
Ásgeir「いや、ピクシーズというよりも、あの曲(“ホエア・イズ・マイ・マインド?”)をよく聴いてたんだよね。あの曲をカヴァーすることになったのも突然決まったことで。ある日、たまたまあの曲を聴いてるときにアイデアが浮かんでね。サウンドのイメージだとか、どうやったら原曲とは違うオリジナルなものにできるのかとか、いろいろアイディアが湧いてきて。それでピアノのパートから作り始めて、数時間で完成したんだ。実際、原曲とはまた全然違った感じで、アプローチもかなり変えてるし」
―あの曲はピクシーズのファンの間でも特別な曲ですし、映画『ファイトクラブ』のエンディングで流れたりとかもあって、あなた自身すごく思い入れがある曲なのかなと思ったんですけど、そういうわけではないんですね。
Ásgeir「そう、映画の印象も強いよね。このカヴァーを聴いて反感を覚える人もいるかもしれない……何しろ、原曲とはかなり違ってるからね。実際、親友の一人に強烈なダメ出しをされたし(笑)。親友は原曲が相当好きみたいで……ただ、僕は自分のヴァージョンも気に入ってるよ」
―素晴らしいカヴァーだと思いますよ。で、ああいう大胆で斬新なアレンジを聴くと、やはり次のアルバムへの期待が高まるところなわけですけど。現段階ではどんな仕上がりになりそうですか?
Ásgeir「来週には最終仕上げに取りかかる予定なんだ。まあ、前作の雰囲気を引き継ぎつつも、前よりもちょっとアップテンポかな。でも、今回はミックスにかなり時間をかけてサウンド作りに集中してるんで、サウンド的にはかなり変化しているかもね。一方で、オーガニックで、出たとこ出しみたいな感じでやってる曲もあるし。全体的に、前回よりもエレクトロニックでアップテンポと言えるのかもしれない」
―たとえば、例の“ホエア・イズ・マイ・マインド?”のカヴァーに漂うR&Bのフィーリングだったりプロダクションというのは、次回作の音作りやそのイメージにおいてキーになっていたりするのでしょうか?
Ásgeir「あのピクシーズのカヴァーが必ずしも(いま制作中の)アルバムの何かを象徴している曲ってわけでもないんだよね。あれはあれで単体の作品というか……(制作中のニュー・アルバムの方が)もっとオーガニックで、また全然違うんじゃないかな」
―次回作の制作にあたってインスピレーションを受けたものとか、話せる範囲で構わないのでもう少し教えてもらうことはできますか?
Ásgeir「まあ、ここ数年間、自分の中で気になってたこととか、ツアーの最中に観たバンドとか……あと、ここしばらくテーム・インパラにハマってて、かなり入れ込んでいたから、もしかして影響を受けているのかもしれないよ。あのサウンドで実験する感じとか……。あとは移動中にラジオで1回だけ耳にした曲がずっと気になっていて、そこからちょっとしたアイデアを思いついて、それが最終的に曲の形になったりもあるし。だから、インスピレーションって言ってもいろんなパターンがあって、必ずしも一つに限定されるわけではないんだ」
―同じくその7インチには、カップリングで“Trust”という曲が収録されていますが、あの曲はあなたの中でどういう位置づけの曲になるのでしょうか?
Ásgeir「あの曲は(いま制作中の)アルバムには入ってないんだ……とはいえ、まだ正式には決めてないんだけどね(笑)。あの曲もそうだけど、もともと今度のアルバム用に書いたけどボツになった曲がいくつかあって……アルバムに入れないけど、とりあえず曲は完成させてあって。その後、今回の7インチに2曲入れようって話が出たときに、あの曲を使ってみようと思いついて。アルバム用に作ってたときにはあの曲に対してそこまで確信が持てなかったんだけど、今回の7インチ用に作り直したことがきっかけで、好きになって。一時期、本当にあの曲が気に入らない時期があってね(笑)。今はすごく気に入ってるけどね」
―なるほど。では、歌詞についてはどうですか? 前回の『イン・ザ・サイレンス』では作詞にお父様や友人の手助けを借りていましたが、次回作ではどんな形で書かれているのでしょうか?
Ásgeir「前回のアルバムで翻訳を担当してくれたジョン・グラントは今回関わっていなくて……主にバンドでギターを担当してる兄が翻訳を担当してくれていて。あとは前回同様、父親が中心に作詞をしていて、自分も前回より歌詞作りに関わるようになってはいるけど……まあ、そんな感じかな。それに、前回何曲か作詞を担当してくれたユリウス(・ロバートソン。同郷の詩人&シンガー・ソングライター)も関わってるよ」
―『イン・ザ・サイレンス』の時と比べて歌詞に関わるようになったというのは、歌詞を書く技術が追いついたということなのか、それとも、自分の気持ちを書きたいと思うことが増えたのか、どちらなのでしょうか?
Ásgeir「たしかにそういう面もあるのかもしれないけど、そこまで深くは関わっていないというか……自分の役割的には歌詞の内容についてアイデアを出す程度のもので。自分がどんなに頑張ったところで、ユリウスや父親の書く歌詞の方が良いと思うし、信頼している。歌詞を作るには、ただ音に言葉をあてがうだけじゃなくて、詩人としてのセンスやスキルも必要になってくるし、自分はずっと音楽一辺倒で、若い頃にひたすら詩を書いたりとか、そういう経験がないから。もちろん、自分で書こうと思ったら書けるんだろうけど、彼らの書く詩にはとうてい及ばないと信じてるから。ただ、そうは言っても、やっぱり前回よりは作詞に関わるようになってはいるよ。前回はただ曲を渡して、歌詞については、自分が曲に対して抱いているちょっとしたニュアンスみたいなものは伝えたかもしれないけど、基本的には丸投げだったから。実際、今回はユリウスとも父親とも歌詞について何時間か話し合う場を設けたりしてるんだよ」
―ちなみに、歌詞のモチーフってどういうところから来るんですか?
Ásgeir「だいたいは曲を書いたときに受ける感覚だったり、フィーリングだよね。曲を書いてるときって何かしら感情なり情景みたいなものを思いつくものだし、普段曲を書くときも一緒に鼻歌みたいなものを歌ってることが多いんだ。とりとめのない言葉だったりフレーズとかを英語で歌ってるんだけど、全然筋が通ってないランダムな言葉の羅列で、適当に歌ってるだけなんだ。ただ、そこで思いついた言葉をメモすることはあるし、それが父とかユリウスが曲を書く際のきっかけになってる場合もあるかもしれないね」
―『イン・ザ・サイレンス』のリリースから2年、さらにデビュー・アルバムの『Dyrdidaudathogn』からは4年が経ちますが、その間の環境の変化や、そのことについて自分なりに感じたり考えたりしたことが今度のアルバムに反映されている部分もあると思いますか?
Ásgeir「そうだな……どうだろう。もしかして、そういう部分もあるのかもね。ただ、自分ではそんなに意識していないかな」
―『イン・ザ・サイレンス』を出して自身を取り巻く環境が大きく変わるなかで、一番嬉しかったこと、逆にゲンナリしたことを挙げるとするなら、何になりますか?
Ásgeir「ははは、えーっと、そうだな、一番良かったことは世界を見てまわることができたこと……それだけでもすごく恵まれていることで、とても文句を言う立場にはいないと思ってはいるんだけど……自分の友達と一緒に音楽をやって世界をまわれるなんてね。逆に、残念なところは、自分と音楽を繋いでいるそもそもの本質の部分から離れている時間が多くなってしまったこと……自由な時間がほとんどなくて、自分ひとりで曲を書いて純粋に楽しんでいる時間よりも、毎晩同じ曲を演奏することを何度も繰り返し続けることのほうがメインになってて。家に帰ってようやく一人の時間ができたときには、そこまで音楽に対してハングリーな気持ちでなくなっているというか、音楽よりもむしろ別のことをしたいっていう気持ちになってる……それは良くないなとは思うけど、そこを受け入れていかないとね。要するにバランスってことなんだろうね」
―今はどうですか? バランス取れてます?
Ásgeir「まあ、いいんじゃないかな。前よりはマシになってるよ」
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photo Akihito Igarashi(TRON)
interview Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara
Ásgeir
『Where Is My Mind?』
10月5日発売予定
(Hostess)
Ásgeir
アイスランド出身のシンガー・ソングライター。12年に母国でリリースしたデビュー・アルバムがアイスランド史上最速で売れたデビュー・アルバムとなった他、アイスランドのグラミー賞、アイスランド音楽賞主要2部門(「最優秀アルバム賞」、「新人賞」)を含む全4部門受賞。14年1月、デビュー盤の英語ヴァージョン『イン・ザ・サイレンス』を発表。2月にはHostess Club Weekender出演、さらに7月にはフジロック出演のため再来日し、観客を優美な歌声で魅了した。11月には『イン・ザ・サイレンス』のデラックス盤をリリース、翌15年1月には、初のジャパン・ツアーを決行。新作の発表が期待される中、16年8月にはHOSTESS CLUB ALL-NIGHTERで4度目の来日。10月には日本独自企画7インチ・シングル「Where Is My Mind?」をリリース。
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