心臓移植のため1歳少女がカナダへ 費用1億円を支えたネットの支援の輪

応援メッセージが書きこまれた横断幕

 生まれてすぐ心臓に疾患を抱えていることがわかり、以来ずっと治療を続けてきたあおいちゃん(本名:阪田碧)が2011年11月16日、カナダに発つ。9月に1歳になったばかりの彼女だが、医師に「心臓を移植しないかぎり余命は半年」と告げられたため、海外に渡航し移植を受ける選択をしたのだ。そのために必要な費用約1億円は、寄付を募ってわずか10日間で集められた。新たなチャリティのかたちとして、今後は「インターネット」を通じた支援が重要になっていくのかもしれない。

 あおいちゃんは2010年9月22日、東京都中野区に住む阪田謙一さんと茜さんの間に生まれた。すぐに先天性の心臓疾患が見つかり、東京女子医大に入院。一時は体調も安定し退院することができたが、6月には拡張型心筋症の一種である左室緻密化障害が発覚、9月に一気に容態が悪化し、「心臓移植をしないかぎり余命半年」という宣告がくだされた。

 日本では2010年に臓器法が改正され15歳以下でも国内での臓器移植が可能となったが、改正から間もないこともあり国内には小児の心臓ドナーはおらず、また10歳以下の心臓移植の前例はない。2011年9月20日――、あおいちゃん1歳の誕生日の2日前、阪田夫妻は実状として困難な国内移植を諦め「海外渡航移植」を選んだ。

 友人や同僚らに事情を打ち明け、まもなく15人程度で「あおいちゃんを救う会」が発足。10月にカナダ・トロントにある小児病院からあおいちゃん受け入れの承諾がおり費用などを見積もった結果、目標は「1億円の募金」ということになった。そしてそれは、10日間という短い期間で達成されたのである。

■「マスコミ頼りには限界を感じた」

拡声器を持った加藤さん

 「集めるのに1ヶ月半はかかると言われた」と話すのは、「あおいちゃんを救う会」副代表、加藤拓磨さん。加藤さんはあおいちゃんの父・謙一さんと同じ中学校・高校に通い、親友と呼べる仲にある。「救う会」では街頭募金はもちろんのこと、「救う会」メンバーの統括や事務局にくるメール対応なども行ってきた。あおいちゃんを救うための呼びかけは、当初マスメディアの報道によって広めていくつもりだったが、報道機関と連絡を取りあっているうちに考えが変わった。

「マスコミだけを頼りにするのには限界を感じたんです。ならばインターネットしかない、ウェブサイトを立ち上げるのは普通のことだから、それを広げるならSNSだと思いました」

 とは言うものの、加藤さんはFacebookやTwitterには詳しくなかった。ブログをやっていたため”ネット上での情報発信”の威力は知っていたが、それでも今回はSNSの拡散能力に驚いたという。11月2日16時にあおいちゃんの両親が厚生労働省記者クラブで記者会見を開いた際には新聞やテレビなどでも取り上げられたが、その後の「救う会」を支えたのはFacebookやTwitterなどである。

「まずテレビや新聞で報道され、その次にネット上のメディアで取り上げてもらい、そのあとはFacebookやTwitterで広がっていきました。やっぱりテレビとかには情報拡散にとんでもない瞬発力があるんですが、SNSはじわじわ、そして重みがある感じですね」

■街頭挨拶で集まった、あおいちゃんへの応援メッセージ

「ありがとうございます」と頭をさげるあおいちゃんの両親と「救う会」の皆さん

 記者会見後に募金を開始し、ネット上で銀行口座などへの振込みを募ったほか、募金箱も設置、中野駅周辺では街頭募金もおこなった。11日までの街頭募金5回で、およそ500万円が集まったという。カナダへ渡航することが決まり、また11日までで目標金額の1億円を突破したため、12日に予定されていた募金活動は急きょ「お礼の街頭挨拶」に変更された。あおいちゃんの両親、加藤さん、「救う会」メンバーらが中野駅に集まりお礼を述べ、また渡航するあおいちゃんへの応援メッセージを横断幕に書きこんでもらった。

 親子連れからサラリーマンまで、老若男女問わずさまざまな人が立ち止まり、あおいちゃんへのメッセージを書きこむ。何回か募金を見かけた人もいたのか、「集まったの? よかったね」と話しかけてくる女性いた。また募金していると思ったらしい女性が、「お友だちが困ってるんだって」と言って子どもと一緒にお金を持ってくる一幕も。「救う会」メンバーが目標金額は達成したことを告げ、代わりにメッセージを書いてくれませんかと尋ねると、彼女は快く応じていた。

あおいちゃんの両親

 「感謝の気持ちを伝えてからカナダに渡りたい」とインタビューに応じてくれたあおいちゃんの両親は、「このたびは、我々家族の個人的なお願いでお騒がせして申し訳ございません」と断ったあと、

「これだけ温かいお力添えをいただき、本当にありがとうございました。これからカナダに渡って、手術の準備に入れる状態になりました。多くの人の温かい力がなければ、この日までやってくることはできませんでした。応援していただいた皆さまに良いご報告ができるよう、我々夫婦は付き添って見守ってやることしかできないんですが、娘にがんばってもらいたいと思います」

と感謝の言葉を述べた。

■「新しい時代に生きていると実感した」

 目標金額を達成し、ひとまず大きな仕事を終えた「救う会」の加藤さんは、「SNSはすごい。新しい時代に生きていると実感した」と語る。拡散しすぎるとどうなるか、誤解が生まれることもあるんじゃないかという懸念もあったが、Facebookやメールで寄せられるコメントのほとんどは温かいものだ。募る金額の大きさからか厳しい質問も寄せられたが、加藤さんはそれらを参考に公式ウェブサイトを更新、求められた情報を明示していった。費用の使い道を質問してきたメールにていねいに答えた結果、「納得したので募金します」と振り込みを約束していった人もいれば、メールに添付した資料をネット上で掲示板に転載する人もいたという。

「ご指摘があるということは、こちらの説明がいたらなかったということ。皆さまと真摯に付き合っていけば、(ネットからは)すごい力が生まれる」

 温かいコメントが多く送られてきてもとても返信できる量ではなく、「情報発信をし続ければ許されるのか?」と苦悩することもあった。「ひとりひとりにお会いしたいぐらい(加藤さん)」の感謝の気持ちがあるものの、物理的には不可能なため、できるだけの詳細をネットで公開することにしている。あおいちゃんと家族が渡航後は、カナダでの経過をサイトなどで報告する予定だ。
 カナダへの渡航が可能になったからといって、あおいちゃんの手術が決まっているわけではない。あおいちゃんが幸福に過ごせるようになる日が一日でも早くくることを願いたい。

◇関連サイト
・「あおいちゃんを救う会」公式サイト
http://www.aoi-save.com/

(古川仁美)

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