震災後のビジネスをどう復興していく 東北から熊本へのメッセージ
地産地消を売りにしたおしゃれなレストラン、地元の人に愛される昔ながらのコーヒー店、店主の顔が見える服屋……。熊本のまちの個性を彩る小規模の飲食店やショップが今、廃業の危機にひんしている。そんな個人商店を支援しようと企画された「熊本大分オープンミーティング」を取材した。
東日本大震災から復興してきた東北の話を聞きたいという声があがった
熊本大分オープンミーティングは「つながりの見えるていねいな支援」をコンセプトに、大分と熊本の商店主たちをサポートする目的で立ち上げられた「OKプロジェクト」のイベントで、6月10日に福岡のHOOD天神をメイン会場とし、熊本・大分・東京の3会場を中継でつなぎ行われた。
主催者である坂口さんは熊本地震が起こったとき、鹿児島にいた。鹿児島の揺れはそれほど大きくなかったが、熊本の友人に連絡をとると状況が深刻であることが分かり、すぐに支援物資を届けた。被災直後に必要なのは水や食料といった物資だが、ニーズは刻一刻と変化していく。その後、どんな支援ができるのか商店主の友人に聞いたところ、「今回の震災でいかに東日本大震災が大変な震災だったか分かった。自分たちは今後どうなっていくのか、5年前の経験を聞いてみたい」という声があがったという。【画像1】主催者の坂口修一郎さん。2010年から鹿児島で野外イベントGOOD NEIGHBORS JAMBOREEを主催している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「今回の震災は津波も火災もなく、一見平穏にみえるが実はさまざまなレベルの影響を受けていることが分かった。どこに対して何をサポートすればいいか分かりづらい。そこで、実際に東日本大震災で被災された方の声を聞き、知見を共有することで次のフェーズを考えたいと思いました」(坂口さん)
そこで、以前から関わりのあったイノベーション東北(地域活性化のプロジェクトへ挑戦する人と、参加したい人とをつなぐマッチングプラットフォーム)に声をかけ、今回のイベントが実現したという。
にぎわいを失った繁華街、遠のく客足……経済面での大きな打撃
熊本・大分の商店主は今どのような問題に直面しているのだろうか?
熊本会場からは熊本で地方公務員として働く杉村さんが現状について報告した。震災から2カ月が経過し、ライフラインは復旧し、徐々に以前の生活へ戻りつつあるという。熊本はもともと豪雨や台風などで災害の多い地域だという。しかし、今までの災害と比べ、「今回の震災は特に経済面について違うと感じている」と語った。【画像2】熊本地震、阪神淡路大震災、東日本大震災の被害状況の比較(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)
「熊本地震の死者は49名。阪神淡路大震災と比べると死者数は2桁、住宅被害戸数は1桁少ない。けれど、被害額は阪神淡路大震災の約2分の1程度とかなり大きい。県のGDPで熊本県と兵庫県を比べると、今回の被害額はGDPの約8割にもなる。数字的には熊本県の経済が壊滅的に打撃をうけたという状態です」(杉村さん)
商店街も店舗が営業を再開し始めたが、お客さんがまったくいない状況だという。熊本市内でライターをしている木下さんは、震災後ボランティア活動を通じて各地で話を聞いてきた。
「アーケードやビル自体の被害が原因で閉店しなければならない店もあり、営業を再開している店でも避難所生活を続けている人もいらっしゃる。精神的・経済的にゆとりがなくなり、夜の客足が減ってしまい、飲食店からの注文がなくなり農家が野菜の収穫期を逃してしまったという話も聞いています」(木下さん)
大分でも、観光客の激減という問題に直面しているようだ。別府のホテルニューツルタの鶴田さんによると予約のキャンセルが約1200件、2500万円以上の損失がでており、小規模の旅館はかなり経営が厳しい状態が続いているという。金額面だけでなく、「お客さんが少なくなり、地元の人も繁華街へ行かなくなっていて、夜のにぎわいがかなり失われてしまっている。夏以降、どうしたらみなさんが遊びに来てくれるだろうか」と不安を口にした。
哀れみや可哀想では続かない、とにかくいいものを
東日本大震災から5年。東北の方たちはどのように災害を乗り越えてきたのだろうか。地震だけでなく、放射能の影響もあった福島県からは洋服のセレクトショップ「PICK-UP(ピックアップ)」に勤める藁谷(わらがや)さん、メガネと雑貨販売店「OPTICAL YABUUCHI」の代表、薮内さんが当時の様子を振り返った。
「震災直後はどう生きるか、1カ月経つとここで生活できるのかがすごく不安になった時期だった」と薮内さん。薮内さんが営むメガネ店は店の一部が崩落、一時は営業ができない状態となった。
ただ、そんな不安のなか、ここで商売をやめたらみんなが福島に帰ってきたとき、「なんにもなくなっちゃったね」となるのは悲しすぎると思ったという。そこで、帰ってきた人たちが福島っていいなと思ってもらえるようにと話し合いを重ね、薮内さんと藁谷さんが代表となりLIFEKU(ライフク)実行委員会を立ち上げた。
LIFEKU実行委員会は福島市の商店街で働くメンバーでつくった一般社団法人だ。活動の目的は協力・共存して、商業振興と社会貢献を行い、福島のセンスとスタイルを伝えること。団体名のLIFEKUには福島に来る、福が来るという意味と、福島で暮らす(LIFE)という意味が込められているという。
活動のひとつとして「F-pins(エフピンズ)」というオリジナルグッズを開発し、販売している。この「F-pins(エフピンズ)」は販売代金から必要経費を除いた金額を、福島のために寄付していこうという趣旨のグッズでこれまで4万個以上販売されており、寄付額は100万円以上となっている。【画像3】F-pins(エフピンズ)。ピンバッチはそれぞれ4つのメッセージが込められており、「子供たちの未来」「福島からのメッセージ」「これからのエネルギーを考える」「自然の大切さ」を表している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
ピンバッジの作成時はとにかくいいものをという思いがあったという。
「哀れみとか可哀想という気持ちは大切ですが、ずっと続けることはできない。例えば、『がんばろう 福島!』みたいなバッジはたくさんつくられたのですが、やっぱり波及しなかった。このバッジが、『あ、かわいい』、『いいね』と思ってもらえれば、買っていただける。そういったことが4万個という販売につながっていったんじゃないかなと思います」(薮内さん)
自分たちが暮らすまち、だから自分たちでまちの未来を考える
次に津波で大きな被害があった宮城県女川町から、NPO法人 アスヘノキボウ代表理事の小松さんが女川町で公民連携が生まれていった様子を語った。女川町は震災前には人口1万人、女川漁港は全国に約3000ある漁港のなかで水揚げ量13位を誇る漁港だった。東日本大震災の津波によりまちの7割以上が流出。死者・行方不明者は827名。人口に占める死者・行方不明者の割合は8.3%と宮城県で1番高い。
「津波でまちの7割が流出し、多くの方が家族や友人、そして仕事を失った。これからまちはどうしていけばいいのかと思っていても、震災直後、行政はがれきの処理や、物資の配給で忙しく、まちの未来について議論はできていなかった。そのとき、俺たちがこのまちで暮らして、仕事をしていくんだ、だから行政の頼りきりではなく、俺たちが考えて、動かなければと民間の産業界の人々を中心に動き始め、4月19日には女川町内の全産業界、市民団体も包括した女川町復興連絡協議会という協議会をつくったんです」(小松さん)【画像4】NPO法人アスヘノキボウ代表理事 小松さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
水産業だけでなく、商業・工業、観光業などさまざまな産業団体や企業が加わり、協議会は70名以上のメンバーで設立された。当時、協議会の会長は2つのメッセージを伝えたという。
「1つは個人的なことをいうのはやめようということ。まちを再興しないと、商いは成り立たない。だからまずこのまちをどうするかという視点で話をしようということ。もう1つは30代・40代にまちづくりをさせようということ。なぜかと言うと、復興には10年かかる、さらにまちができてその評価が問われるのにはもう10年かかる、要は20年かかると。今、還暦過ぎた人間が80になって責任取れないだろう。だから、会長が若い世代に任せろということを協議会で話したんです」
その後、協議会は80ページにおよぶ復興計画を作成し、行政と議会に提出した。「これからは行政、民間を越えて、それぞれの強みを活かして本気でまちの未来をどうしていくのかを考えていかなければいけない」と小松さんは語る。他のまちでは「行政はなにもやってくれない」という声があがるなか、女川町では民間がありたい姿を提示し、どのように実現できるかを行政と5年以上議論をしながらまちづくりを進めてきた。現在は、みんなで描いたまちが実際にかたちになりつつあるという。
今後もマーケットキャラバンや音楽フェスで支援を
その後のディスカッションでは熊本・大分会場から世代間を超えたコミュニティのつくり方や、商業を復興するのにどれくらいの期間がかかったかなどについて具体的な質問が飛んだ。イベント後に熊本で雑貨店を営む錦戸さんに話をきくと「LIFEKUの、いいものをつくるという考え方は参考になった」と、東北の経験からなにかヒントをつかんだようだった。
OKプロジェクトでは今後も熊本・大分の商店主を引き続きサポートしていくべく、東京・福岡・鹿児島へのマーケットキャラバンや熊本・大分での音楽フェスを企画しているという。そういったイベントに参加したり、熊本・大分の商品を買ったり、クラウドファウンディングなどで支援することでわたしたちも被災地の商店主を支えることができる。メディアでの報道は減っていっても、被災地での生活はずっと続いていく。小さくても何かできることを考えたい。●取材協力
・LIFEKU実行委員会
・特定非営利活動法人アスヘノキボウ
・イノベーション東北 熊本・大分特設ページ
●参考
・OK マーケットキャラバン 熊本・大分の方が県外でマーケット開催するための支援を募集!
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