『千日の瑠璃』22日目——私は木洩れ日だ。(丸山健二小説連載)

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私は木洩れ日だ。

滅多に人が寄りつかないためにいつまでも生き生きとしていられる雑木林を、静かに照らす木洩れ日だ。私はどぎつい色で紅葉した木々の葉を押しのけ、ふかふかに積もった落ち葉や、僅かな熱も見逃さないしたたかなテントウ虫を暖め、カラ類の鳴き声を更に陽気なものにする。そして、互いに相手の年相応の肉体と愚劣な魂を激しくかき抱く男女の、むき出しの尻を紙のように白く輝かせる。

男はズボンを膝まで下げ、女はスカートやらストッキングやらを片方の脚に絡げて、いつ現われるやもしれぬ他人に備えている。しかし、ふたりの警戒心はすでに言語道断の陶酔に変っている。そのせいでがさごそという派手な足音の接近に気がつかず、破局を背負っての危険な契りは、とうとう第三者に目撃されることとなる。

女は子宮の叫びをやめて声を呑み、男は一物を引き抜くのも忘れて後ろを振り返る。私が照らす少年の顔には表情がない。「この子なら大丈夫よ」 と女は言い、男は「そうさなあ、犬に見られたようなもんだよな」 と言って、ふたたびぶよぶよした腰に腕を回す。「もっとよく見てね」とか、「おまえなんか一生やれねえことだぞ」という声を背に、世一はまたふらふらと歩き出し、性器がこすれる音を口真似しながら、鳥に似た人間の死体を捜しに、林の奥へと分け入って行く。私はそのあと右往左往してから、浮き雲にかき消される。
(10・22・土)

丸山健二×ガジェット通信

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