『千日の瑠璃』13日目——私は落ち葉だ。(丸山健二小説連載)
私は落ち葉だ。
さほど赤くもなく、さほど黄色くもない、不滅とか永遠の色に染まった、一枚の落ち葉だ。私は卑しい声で笑うつむじ風に吹き飛ばされ、うつせみ山からうたかた湖へと急降下し、あやまち川に沿って舞い、かえらず橋の下をくぐり抜け、冷酷な上昇気流にもう一度押し上げられて片丘のてっぺんに辿り着き、そして、ぼろ家の二階の窓へと飛びこむ。
図らずも闖入者となった私は、籠の鳥を驚かせてしまう。そいつはたぶん、私のことをモズか、あるいは、あの世からの使いだと思ったのだろう。オオルリのただ事ではない羽音に気づいた少年が、ゼンマイ仕掛けの玩具のように、がばっと跳ね起きる。彼は、震えが当たり前になっているらしい枯れ枝に似た指で、私をつまむ。それからいきなり私に鋏を入れ、じょきじょきと切りながら、哀切極まりない歌を口ずさむ。幼鳥の緻密な神経はぴんと張り詰めている。
少年はきっと、私を烏の姿にしたかったに違いない。しかし、全身に及ぶ絶え間ない痙攣のせいで、似ても似つかぬ形になってしまう。表側はカオス、裏側はコスモス、さもなければその反対、だが全体としては、やはりただの朽ちかけた葉っぱにすぎない。それでも、まだ生きなくてはならぬ少年は満足の体で私をしげしげと見つめ、「飛べ!」と言って手を放す。飛べなかった私は、分厚い鳥類図鑑の真ん中にばたんと挿まれて、ミイラの道を辿る。
(10・13・木)
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