【お仕事インタビュー】子どもに人気の職業『ディスパッチャー』とは!? 〜 フライトの安全と定時性・経済性を考える“地上のキャプテン”
航空関連のお仕事というと、パイロットや客室乗務員など華やかな職業の印象が先行しがちですが、飛行機の安全で快適な運航はさまざまな職種の人の力が結集して成り立っています。
そのなかでも最近注目を集めている職業のひとつが『ディスパッチャー(運航管理者)』。地上から安全なフライトを支援する仕事でありながら、”責任の重さはパイロットと同等”という、極めて重要なお仕事です。現役のディスパッチャーが日々どのような業務にあたっているのかを、スカイマークの田長丸(たちょうまる)さんに聞きました。
安全で経済的なフライトを計画・遂行する
—はじめに運航管理者とはどんな仕事なのかを教えてください
田長丸:運航管理者の仕事は2つあり、1つはフライトプランの作成です。フライトプランは、フライトの概要をまとめた計画書のこと。航空機の型式、搭乗人数、出発時刻、航路などの基本情報に加え、天気を確認しながら、安全かつ低燃費で飛行できる巡航高度と燃料積載量を計算して記載します。できあがったフライトプランを元に、機長が航空機を目的地に向けて飛行します。
もう1つの仕事はフライトウォッチで、巡航中の航空機に乗っている機長を地上から支援する業務です。フライトプランの通りに飛行しているか、天気の急変はないか、航空機に不具合は発生していないかといった情報を、無線や文字通信システムを使って、リアルタイムに交信します。もしも前方に積乱雲の急発達を観測したら、迂回コースを提案することもあります。
低燃費の鍵は天候、高度、燃料積載量
—安全で低燃費に飛べる高度とはどういう意味なのでしょうか?
田長丸:運航管理者はいかに安全で、定時性を守り、経済的なフライトにするかを考えながら、フライトプランを作ります。安全面では、天気図を見ながら、積乱雲や乱気流の発生が予測できるところを、回避するコースを考えます。決められた航空路を大きく外れない迂回路、大気が安定している高度を探すわけです。
経済性についてですが、航空機の燃費は、高度によって大きく変わりますので、フライト全体を通して、安全を担保した上で、最も低燃費な運航ができる高度を検討します。燃費が高度によって変わる理由はいくつかあります。
ひとつは空気抵抗です。空気は高度が上がるほど薄くなり、薄くなるほど空気抵抗が減ります。抵抗が減ると推進力も少なくてすむため、燃費が向上します。あとは風の強さ。航空機は風の影響を強く受ける乗り物で、強い追い風に乗ると、加速する上に燃費も向上します。基本的に高度が上がるほど風速も上がりますから、追い風ならば高度を上げ、向かい風であれば高度を下げます。
その上で一番難しいのが天候です。大きな雲や乱気流を避けようとして、頻繁に上昇や下降を繰り返すと、エンジンをふかす分だけ燃料を余計に消費します。できるだけ天候が安定した高度を探す必要があります。極端にいえば、気流が荒れている高い高度よりも、気流が安定した低い高度を飛んだ方が、低燃費の時があるのです。
—先ほど、運航管理者が燃料積載量を入力するとお話しされましたが、飛行機は燃料を満タンにしてから飛び立つわけではないのですね?
田長丸:自動車と違って、航空機が燃料を満タンに積むことはまずありません。なぜなら燃料にも重さがあって、積めば積むほど機体の総重量が増し、燃費が悪くなるからです。できるだけ一回のフライトで必要になる、過不足のない量を計算して積載します。
責任の重さはパイロットと同等
—燃料の量を決めるなんて、ものすごい重責に聞こえます
田長丸:はい、機長と同じくらい責任は重いと考えています。運航管理者としてデビューした初日はとにかく緊張しました。乗員と乗客の方々の命を預かる仕事ですから、日々、気を抜くことはありません。ですから仕事が終わった時の達成感はひとしおで、とてもやりがいを感じます。
それに緊張しながら仕事をしているなかでも、楽しいと思える瞬間があります。例えば天候と高度の見解が機長と一致する時です。
私たちのデスクには、大小3つのディスプレイがあって、中央の大きな画面で飛行計画システムなどを扱い、右側に天気図を表示させます。その下には緊急速報専用の小型端末があります。
ある時、デスクで天気図とにらめっこをしながら、気流が安定して最も機体が揺れないと思われる高度を機長に提案すると、機長が私の意見に賛同してくれました。こういう経験を重ねると、もっと運航管理者としての腕を磨いていきたいと思うようになります。
—さまざまな専門知識が必要になる仕事のようですが、運航管理者になるにはどうすればよいのでしょうか?
田長丸:航空会社や、運航管理業務を専門に行う会社に入るのが第一歩です。新卒採用がほとんどですが転職者もいます。入社して運航管理補助業務を1年経験すれば(※)、国家資格である「運航管理者技能検定」の受験資格が得られ、学科試験と実地試験をパスできれば合格、晴れて運航管理者として働くことができます。学科試験では、気象学や航空法などの幅広い知識が必要です。
すべての進路が滞りなく上手くいったとして、最短2年で活躍できます。しかしながら実際には所属する会社により事情が異なると思いますので、もっと長い期間かかるはずです。焦らずにじっくり取り組むことをおすすめします。
※操縦、空中航法、気象業務、機上での無線設備操作、航空交通管制業務のいずれか1つの経験を2年以上、または2つ以上の経験を各1年以上経験した人でも可能。なお運航管理者技能検定の他に、無線関連の資格取得も必要になる。
—最後にカッコイイ業界用語を何かひとつ教えていただけませんか?
田長丸:何がいいでしょうね(笑)。航空や無線の世界では、「A」「B」「C」を「エー」「ビー」「シー」と読みません。理由は通信状態が悪い場合、聞き分けられない可能性があるからです。代わりに「アルファ」「ブラボー」「チャーリー」と、はっきり区別できる読み方をします。飛行機の座席が1Cならば、1チャーリーです。
—ありがとうございました。こんど通ぶってマネしてみます!
取材協力:スカイマーク株式会社
文:本山光
編集:大山勇一(アーク・コミュニケーションズ)
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