大ヒット中『ヒメアノ〜ル』吉田恵輔監督インタビュー「ジャニーズだからではなく森田剛だから出演してほしかった」

ヒメアノ〜ル

先月末の公開以降、「恐いけど面白い」「森田剛の怪演がヤバすぎる」と観た人が次々と絶賛し、ヒットを続けている『ヒメアノ〜ル』。皆さんはもうご覧になりましたか?

本作のメガホンをとったのは『純喫茶磯辺』『さんかく』『銀の匙 Silver Spoon』等で、多くの映画ファンに支持されている吉田恵輔監督(実際の漢字は「吉」の口の上が「土」)。「本来はこっち系の映画を撮っていた」とご自身が語るとおり、ひりつく程のヴァイオレンス描写が見事なサスペンス作となっています。今回は吉田監督に映画の事、「ジャニーズと仕事するのってどうなの?!」という禁断の質問まで、色々とお話を伺ってきました。

吉田監督

―『ヒメアノ〜ル』大変、大変のめり込んで拝見しまして、大好きな作品です。監督はこれまで様々な作品を撮られていますが、ヴァイオレンスに振り切った作品は初めてですよね。

吉田監督:これまでの恋愛映画でもちょいホラーっぽいテイストが入っている作品を作ってきたんだけど、それがメインになるのは初めてですね。これまでは「女子高生が得意」って事を売っていこうと思ってた所もあって。女子高生が出て来る映画って一生無くならないじゃないですか。でも、そろそろ、こっち系も良いかなって。

―原作はお読みになっていたのですか?

吉田監督:原作は連載当時に飛び飛びで読んでいて、数年後に改めて読み直した時にすごい斬新な事をたくさんやっているなって。古谷さんって俺の高校生の頃から憧れだったんですよ。だから「遂に古谷さんの作品を実写化した監督になれた」という嬉しさはありました。

原作は心の声がエンドレスに流れていくので、それをそのまま実写化する事は難しいし、薄っぺらい作品にはしたくなかったんです。こういった事件って実際にも起こっているじゃないですか。それで被害者が観た時に、犯人を擁護している様に思われるのもダメだし、中二病みたいな描写もしたくなかった。原作が描きたかったであろう事を捨て、アプローチを変えて作ったので、古谷さんもそうだし、古谷さんの大ファンの方々に違和感を与えてしまったらどうしようとは悩みました。

―『ヒメアノ〜ル』には印象的なヴァイオレンスシーンがたくさんあります。これは監督のアイデアが結構あるそうですね。楽しみながら撮れたという事でしょうか。

吉田監督:楽しいし、撮りやすかったですね。アイデアも、こういうテイストの作品の方が悩まないです。車で顔面を踏むとか、ピンクローターで首締めるとか、アイデアがどんどん出て来て、優先順位から実現していったので楽しかったです。でも、一つだけ心残りは、森田と警官とのシーン。包丁がもっとゆっくりブスブスと刺さっていく所を撮りたかったのだけど、それだとR-18になっちゃうんですよ。

―実際の映画でも結構過激なシーンでしたが、あれよりもゆっくり刺さるだとR-18とは、さじ加減が難しいのですね。

吉田監督:刺す前か刺さった後はR-15で良いんだけど、刺していく瞬間はR-18になっちゃうんですよ。俺は『ヒメアノ〜ル』をもともとR-18で撮りたかった事もあって、警官のシーンはその為に書いたのでちょっと残念でしたね。R-18にすると観られる人も限られてくるし、そこは相談しながらR-15でやろうという事にしました。

―森田さんのファンも多く観るでしょうし、レイティングは悩みそうですよね。

吉田監督:森田君をキャスティングしたのは、ジャニーズだからではなく、森田剛だから出演してほしかったんです。サスペンス映画好きの男性からすると「ジャニーズが出てるからぬるいのかな」って思いがちで、R-15がつく事によって箔がついたかなとは思っています(笑)。

―本当にそう思います! 男性や「ジャニーズだから」って敬遠している方こそ、見る目が変わるのでは無いでしょうか。

吉田監督:観てくれたら本当に印象変わると思いますね。コアなファンの方も舞台での森田君を知っているけど、一般の人はこんな演技する印象無いですよね。だから、こないだイタリア行った時に(※)、イタリアの人はV6を知らないから「こいつはヤバい奴だ、本当にポップスターなのか?!」って驚いていましたよ(笑)。(※本作は「第18回ウディネ・ファーイースト映画祭」に正式出品された)

―イタリアで上映して、観客の意外な反応はありましたか?

吉田監督:イタリアだからって事もあるけど、すごく笑ってましね。それって有り難い様であって、「携帯鳴ってますよ」って注意したくなるほどの笑い声だから、後半になると気になって(笑)。

―後半でも笑っていましたか!

吉田監督:ピンクローターで首締めるシーンとか、日本人は「クスッ」なんだけど、イタリア人は笑いが収まらないから、その後のセリフがもみ消されちゃって。ゲラの奴が何人もいて、気になって(笑)。駒木根君と山田さんのシーンでも爆笑が起って、困りましたね。

―少しお話は戻りますが、森田さんの起用はすぐに決まったのですか?

吉田監督:原作が23、24歳の設定なので、そのくらいの年齢の人をタレント名鑑とにらめっこしながら探していたんだけど、どの人もしっくりこなくて。「森田君が若かったら最高なのにな」なんて、皆で話していた時に、あれ、年齢って実は関係無いんじゃない? って思って。そう思ったら、ガックン(濱田岳)もムロさんも年齢不詳だし、いけるかもなって。高校生の頃の回想シーンは罰ゲームのようにそのまま2人でやらせちゃえ!と思っていて、森田君はキツいかなって思ったんだけど、ガックンの方がおかしかったね、『釣りバカ日誌』みたいだった(笑)。

―学生時代もお2人がそのまま演じるってすごい事ですよね。

吉田監督:普通は変えるんですけど、森田(正一)の暴力の原点には自分が受けた暴力や傷みがあるから、森田君自身にも傷みを知っていて欲しいなと思って、そのまま演じてもらいました。エアガンで打たれるシーンも、結構痛いです。いじめっ子役の役者には「打っとけ、打っとけ、ジャニーズを打てる事なんてもう一生無いぞ」って言って、思い切りやってもらいました(笑)。その傷みが森田(正一)の中で増幅して、ああいう事件になっていくので、そこは(森田剛に)演じてもらえて良かったですね。

―監督は『銀の匙 Silver Spoon』で中島健人さん、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で安田章大さんとお仕事をされていますが、ジャニーズの方って他の事務所の方や俳優さんと違いを感じる部分はありますか?

吉田監督:全然違いますね。ジャニーズは東京ドームとかでライブをやっているけど、何曲もの振り付けを覚えて、ササッとリハーサルをして、踊って歌って、ゴンドラに乗って、ということが出来るからか、覚えがとにかく早い。吉本興行の宮迫さん(2008年『純喫茶磯辺』にて主演)もそうでしたね。テレビ番組の司会だって台本はあるけど、色々な事に臨機応変に対応しなければいけない。言われた事を一瞬で理解してすぐ行動に移すという事が出来るので、すごいんです。まずNGを出さない。後は、度胸がすごい。ジャニーズの人が他の役者と違うのはそこですね。

―なるほど、その応用力が素晴らしいと。

吉田監督:ジャニーズ事務所は決まってしまうと一番やりやすい事務所です。俳優っていくつかの作品を掛け持ちして、撮影が同時進行していく事も多いんですが、ジャニーズ事務所は他の仕事をシャットアウトしてくれて、作品に集中させてくれるので、すごく有り難いですね。俺も仕事するまでは意外だったんですが。

―また、本作はリアル過ぎる暴力描写で、私自身帰り道が恐くなったりしたのですが、参考した映画・映像等はありますか?

吉田監督:海外の防犯カメラの映像は観ましたね。店に強盗が入って、銃やナイフをつきつけ、脅して金を奪っていく映像とか、実際の事件だからすごく生々しく、悪趣味だとは思いつつもそこを目指しました。

―確かに、防犯カメラのリアリティと森田のじっとりとした恐さ、通じる物を感じます。近くに、隣にとんでもない犯罪者がいるのでは無いかという恐怖というか。

吉田監督:自分がセックスしている隣の部屋には殺人鬼がいるかもしれないんだよ、人と人を隔てている壁ってすごく薄いんだよっていう恐さを描きたかった。

―また、コメディタッチな日常パートである前半と、事件が起る狂気の後半を隔てる「タイトルコール」の位置も話題です。とにかく鳥肌が!

吉田監督:あそこは計算どおりに作れたなと思っていて、音楽をやってくれた野村卓史さんに感謝しています。「あそこで鳥肌をたたせたいんだよ」って思っている、ジャストのシーンに不穏な音楽を作ってくれて、そう、そういう事! って通じ合えましたね。音楽、アングル、森田君の殺気、全てが揃わないと鳥肌ってたたないんですよね。

―私は二度観たのですが、分かっていても鳥肌が止まりませんでした。最後に、ガジェット通信はどちらかというと岡田の様なボンクラな読者が多いサイトなのですが、メッセージをいただけますか?

吉田監督:ボンクラ、ボンクラな男子に言える事は……。俺、学生時代からヴァイオレンス映画を撮ったりしてて、そっち系だったから、どちらかというとピュアな童貞な感じの方が真逆なんですよね。でもあれかな。童貞をこじらせて、幸運に可愛い彼女が出来たとしても、過去の経験人数は聞くな! 良い事なんて一つも無い! とこれだけは言っておきます。

―ある意味、暴力シーンよりも恐ろしいシーンではありましたよね(笑)。今日はありがとうございました!

ヒメアノ〜ル

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

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