『殿、利息でござる!』中村義洋監督&原作者・磯田道史インタビュー「人物描写にいちいち泣かされた」
殿様にお金を貸して、利息で庶民を助ける……このウソの様なホントの話を、阿部サダヲさん主演で映画化した『殿、利息でござる!』が現在大ヒット上映中です。
原作は、2010年に映画化されたベストセラー『武士の家計簿』などの著作で知られ“平成の司馬遼太郎”との呼び声も高い磯田道史氏の近著「無私の日本人」(文春文庫刊)の一編「穀田屋十三郎」。そして、『白ゆき姫殺人事件』『予告犯』『残穢』等、今最も注目を集める中村義洋監督が監督と脚本を務めています。
ガジェット通信では、中村義洋監督と磯田道史先生にインタビューを敢行。作品について色々と伺ってきました。
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―映画大変楽しく拝見しました。まず原作の磯田先生にお伺いしたいのですが、「穀田屋十三郎」(『無私の日本人』所収)はどの様な想いで執筆されたのでしょうか。
磯田:私は全国の様々な古文書を読んでいますが、年貢をたくさんとられる話はあっても、殿様から利息を取る領民を見たのは初めてでした。しかも個人では無く、宿場の有志として殿様にお金を貸しているのは珍しい。そして、この人々のすごい所は「お金を出した人はヒーローになる」と分かっているのに、それすら隠そうとした所ですね。あくまで後世の為にと頑張っていた人々が東北にはいたのだ(映画のモデルは仙台藩)、という事が分かれば、震災が起きた後の東北の皆さんにも元気になってもらえるのでは無いかと。
―この映画化のお話についてはどう思われましたか?
磯田:映像化は絶対されると思っていました。なぜかというと、この史実は何度も奇跡を起こしているんです。まず、大きな事をした9人がいる、その9人は自分達の名を残す事を望んではいなかったが、筆で古文書に書き残したお坊さんがいる、そしてそれを活字化した人がいる。そして、この話を私にメールしてきたおじいさんがいる、そして最初は新島八重の話を書いてくださいと言っていた出版社もこの話の出版に積極的になってくれた……。と、この様に、これまで色々な奇跡が起きてきたので、映像化もされるだろうと。でも、中村義洋監督が撮ってくださるという事が一番の奇跡でしょうね。
中村監督は『ゴールデンスランバー』や『奇跡のリンゴ』等、東北を舞台した作品をこれまでに撮っていましたし、一ファンでした。中村監督はご自身で脚本も書かれますし、本作でも書いてくださったので、原作者としても何の心配も無く、興奮しながらお任せしたという次第です。
―中村監督はこの原作を脚本に起こし、映画化するにあたりどの様な事に気をつけたのでしょうか。
中村:「殿にお金を貸して利息を得ようとした」という部分は、映画を観る前に予備知識として入っちゃいますよね。映画のチラシや予告、本の帯であったり。なので、僕も「それはすごい、それで背景はどうだったんだ?」という気持ちで本を読み進めました。それぞれの人物描写にいちいち泣かされまして。僕は今回の様に映画化の打診を前提に本をいただく事があるのですが、面白い本に出会うと途中から祈る様な気持ちになるんですね。「このまま面白いまま終わってくれ、頼む」って。そうならない本も結構あるんですよ(笑)。
磯田:しかもこれは実話ですから、結末がつまらなかったとしても小説と違って変える事が出来ませんからね。
中村:それで読んでいったら、後半で松田龍平君が演じた敵役も出て来て、これは面白い! いけるな、と思いました。そこでさらに、殿がやってくるという。これは興奮しましたね。
―そのキャラクターもそれぞれ個性的で、役者さんの演技も相まって素晴らしいと感じたのですが、お2人が個人的に好きなキャラクターや自分と似ているなと思う人はいますか?
磯田:好きなキャラクターは穀田屋十三郎さんで、なので話のタイトルにもしているのですが、本当は穀田屋十三郎さんが主人公のお話では無いんですよね。山崎努さんが演じた先代・浅野屋甚内が一番の思想家であって、その想いを受け継いだ浅野屋甚内と2人が主人公なのかなと思います。後は、菅原屋篤平治は自分に似ているなあと思いますね、家庭の状況もソックリ(笑)。
中村:本を読んでいて、主人公が穀田屋十三郎じゃなくなっていく所が本当にドキドキしたんですよ。脚本どうやって書こうかな、と。浅野屋甚内の言葉は一つ一つ本当に素晴らしくて「好き」と軽々しく言える感じでは無いのですが、すごいですよね。一方で、対照的な西村雅彦さん演じる遠藤寿内という人物は書いていて楽しかったですね。
―この主人公が変わる、という所が映画でもとても自然に描かれていましたが、キャストさんへ説明やお願いは難しくはありませんでしたか?
中村:サダヲさんとはいつも内容的なことはほとんど喋らないんですよ、クランクイン前に。妻夫木君には「変わらないからね」とだけ言いました。特に妻夫木君の役柄は特に本人はずっと変わらないのだけど、観客が途中で「こういう人だったんだ」と印象が変わるだけ。他のキャストについても迷いませんでした。ただ皆さんが主役級の俳優なので、スケジュールが難しかったかな。寺脇康文さんとかも出ていただけて良かった。
―私は個人的に寺脇康文さん演じる遠藤幾右衛門が一番好きなキャラクターです。
磯田:遠藤幾右衛門は本当にすごい人ですよね。藩の肝煎としての顔と、家庭を持つお父さんという顔2つがあって、迷うところが素晴らしいですよね。でもこの街の子供を食わしていくにはどうしようと、最終的にはそちらの気持ちが勝って、まだ成立するかも分からない計画に乗ってくれるという。彼が一歩動かなかったら出来なかった計画ですから。
―また、千葉雄大さん演じる千坂仲内の緊張感も素晴らしく、千葉さんがこんな俳優さんなのだと驚かされました。いつもは王子様やモテモテのイケメン、といった役柄が多い印象だったので。
磯田:怒られるかもしれないですけど、最初に千葉雄大さんと聞いた時に「こんな人、この時代にはいるわけ無いって思ったんですよ(笑)。顔は小さいは綺麗だわ。スタイルは良いわ、若い女の子の集客の為にしたキャスティングかと、思っていたわけです。ところが、本当に神に入った演技なんですよ。こめかみがピクピク動く緊張の表情であったり、凛とした姿が素晴らしくて、千葉さんの演技で泣いちゃうんですよ。ですから、誤解していた事を後で謝りました。
中村:僕もあんだけ上手いとは思わずにキャスティングしたんですよ。磯田さんがおっしゃる様に若い女性にも観て欲しかったから、そこも狙いだったんです。この役は手前味噌だけど、誰が演じても面白い脚本になったと思う。だから言い方悪いけど、千葉君の役は単純な二枚目で良かった。でも、あそこまで上手いとは思いませんでしたね、舌巻きました。
磯田:でも中村監督が起用しちゃうと、堺雅人さんもそうですけど人気が出ちゃって、これから千葉さんも引っ張りだこでしょうね。
中村:それは本当にそう思います。今後千葉君に色々なオファーが来るんだろうな、と監督としても確信していますね。千葉君はもちろん、どの役者も本当に素晴らしい演技をしている、そして時代劇はありますが、若い女の子もどの年代の人も楽しめる・共感出来る内容になっている自信はありますので、ぜひご覧いただきたいですね。
―今日は楽しいお話をどうもありがとうございました!
『殿、利息でござる!』
出演:阿部サダヲ 瑛太 妻夫木聡 他
監督:中村義洋
脚本:中村義洋、鈴木謙一
原作:磯田道史『無私の日本人』所収
「穀田屋十三郎」(文春文庫刊)
製作:「殿、利息でござる!」製作委員会
配給:松竹
(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
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