はあちゅうさんインタビュー!<前編>~マガジンハウス担当者の今推し本『疲れた日は頑張って生きた日 うつ姫のつぶやき日記』
こんにちは、マガジンハウスです。みなさんは、ツイッターで見かけた膝を打つフレーズに、「いいね」してますか? 働いている独身女性だとやっぱり、恋愛・仕事・結婚にまつわる言葉に目がいきますよね(あとはオタク活動とか)。「ああ、こんなことで消耗したり華やいだりしてるのは自分だけじゃないんだな」と思える、そんなフレーズの名手・はあちゅうさんが、このたび新刊を出されたと聞き、ご本人に直撃してきましたよ!
――――初めまして、はあちゅうさん! まずは、この本が出版されるまでの経緯を教えていただけますか?
はあちゅう(以下H) 「ツイッターを始めてしばらくしてから、自分の意見として発信すると角が立つような本音を、誰が言ったかわからないような形でつぶやいていたんですね。で、少し経ってからそうしたつぶやきに、“#めも” という目印をつけて投稿するようにしたんです。もちろん自分自身の本音を書いているものもあるけど、なかには実際に誰かが言った言葉をメモしたものもある。それを混ぜることによって、発信者は特定のはあちゅうという人物でありながら、ほかの誰かかも、という余白も残しつつ本音のつぶやきをしていたら、けっこう“#めも”シリーズが好評で。実際に『本にしてください』というリクエストもいただき、私も、せっかくならまとめたいと思って、マガジンハウスさんに自分から売り込んで、書籍化が決まりました」
――――売り込んでいただきありがとうございます(笑)。
H 「書籍にするにあたって、つぶやきだけではなく、以前から私がデジタルで書いているエッセイや、書き下ろしのものを合わせて、ストーリー仕立てのつぶやき集にしました。」
――――つぶやきはこの本だと365個。でもそれ以外にもツイッターにはありましたよね。
H 「ええ、たくさん」
――――これは厳選したってことですか?
H 「この本は、東京に住む29歳独身フリーランスという設定の女の子の日記を、盗み見している感覚で読んでもらいたいので、そういう女の子が発しそうな言葉を中心に選びました」
――――読んでると、はあちゅうさんの日記を読んでいるような感じになるんですけど、そこらへんもぼかしてるっていうか、必ずしも全部ご自身の言葉じゃないってことですよね。
H 「ほとんど私なんですけど、ファンタジーの部分も持たせたいので、どっちなんだろうっていう判断も読者に預けようと思っています。最初はキャラクターを設定するつもりはなかったんですが、つぶやき本ってもう世の中に結構出ているので、この本ならではのことをしようと思って。で、ストーリー仕立てに、女の子をひとり立てて、私がほかのエッセイで使っていた“うつ姫”という名称を使いました」
――――うつ姫、命名はお母さまなんですよね。
H 「そうです。私が落ち込んでるときに、うつ姫って母が呼ぶんです」
――――なんか、鬱鬱してるわね、と言われるより、ネーミングつけられるほうが愛がありますよね。
H 「そうですね。それで、私であって私でないみたいな感覚が、うつ姫には出ているかなと思っていて」
――――でも、このうつ姫さんは、東京住まいのアラサー女子の平均よりは、ちょっと楽し気に暮らしてるように思われるんですけど。
H 「楽しそうに見えるからって心から楽しいとは限らないと思うんです」
――――思われてる自分と本当の自分は違う、と。
H 「そうですね。表向きには“働いていて輝く女性”、いわゆる“キラキラ女子”みたいな感じで扱われるような子だとしても、実態はちょっとダークサイドもあるんですよね。そのダークサイドの部分をちょっと多めに出したキャラになってます」
――――普通の子よりもちょっとクレバーで色々考えちゃうから、疲れちゃうときもあるのかな。
H 「どうなんでしょうね。クレバーだと思い込むことで楽になりたいのかもしれません。毒っ気吐いて自分の心にクッションを作ってるというか。自己防衛なんですよね、そういう攻撃的な言葉を吐くって。でも割と女子会とかで言われているような毒のあることが本音だと思って書きました」
――――ですよね。同世代の女友達だちと女子会的なことをやると、結構みんなきついこと言いますよね。
H 「きついことばっかりですよね。でもそういうところで出るのは、具体名だったり具体的なケースだったりするので、それをもうちょっと一般化して、概念に変えて、余白を持って読者さんが想像できるように……」
――――そう、これすごいなって思ったのが、あんまり具体的じゃないんですよね。誰でもあてはまるように書かれてる。誰もが心当たりがあるように書かれていて。
H 「エッセイとかブログを書く時も、個人名だったり、ぴったりこの人!ってわかる書き方はあまりしません。必要であれば設定も少し変えています。そうすると、ツイッターとかで返ってくるのは、その人の解釈を経たものになるので、その距離に開きはあるなと思いつつも、その想像力を刺激してあげるのが書く側の役割のひとつだと思ってます」
――――読者の方から、「うちの上司のこと書いてるんですか?」とか言われないですか?
H 「あるある、みたいな感想はけっこうきます。軽い共感みたいのはちょっと狙ってるかもしれません。ツイッターでリツイートするときの感覚って、全面的に覚悟を持って支持するってよりは、ほんとに“いいね”って軽い感じでリツイートしていくんですよね。そういう深く考えないまでもなんとなくわかる、みたいな言葉を選んだつもりです」
――――ご自身で特にお気に入りのつぶやきは?
H 「恋愛系のつぶやきがけっこう自分では気に入っていて、今の自分からは出てこない言葉だと思っています。例えばこの<暇な時間がちょっとでもあると結婚したくなる……>というのは、たぶん私が電通時代、結婚が自分の人生を変えてくれると信じていたときの夜中のつぶやきみたいなものなんです。今はちょっと心境が変わりました」
――――ですよね、ほかのつぶやきで、<何かを変えようとしてした結婚は破綻する。>なんてのもありますもんね(笑)。
H 「成長してる(笑)。20代後半のアラサー女子って、朝、結婚したいって言ってて、夜、絶対結婚したくないって言うような、恋愛観・結婚観だけでもほんと定まってなくて、感情で考えるみたいなところがあると思うんですけど、そういうのも全部出てますね」
――――あ、あとこれも伺いたかった。<有名人が結婚したらなんでショックなのか聞かれたのですが、向こうはめっちゃ私の人生に関わってるのに、私は向こうの人生に全く関わってなかったことを突きつけられるからだと思いました……。>って、これ誰のことなのかなと。
H 「それは、サッカーの内田篤人選手の報道があったときに書いたものですね」
――――ウッチーか~。
H 「内田選手が結婚した時に、なんで私の人生には関係ないってわかってるのに、こんなにショックなんだろうって友人と話していて」
――――そんなにショックでした?(笑)
H 「ファンというわけではないんですけど、全ての芸能人の結婚・離婚にいちいちショック受けるんですよ。『ああ、そんなことが私の知らないところで行われていたのか!』みたいな、なんか置いてけぼりな気分というか」
――――これはすごく共感されたでしょう。
H 「はい、すごく『わかる』って言われました」
はあちゅうさんのつぶやきには、男性有名人の結婚に凹んだ日本中の女子から、たくさんの「いいね」が。
――――あと、これも好きでした。<元カレとよりをもどしたくなったら「映画の続編が一作目を超えたことがあっただろうか」って考える。>確かにそうだなと思って。これはよりを戻しそうになったときに自分に言い聞かせたんですか?
H 「よりを戻しそうになったことはないんですけど、頭の中でごっこ遊びというか妄想することが多いんですよ。ちょっとした辛いことがあったときに、もしもの人生とか、頭の中で自分自身を茶化すみたいな感じで考えるのが好きで。このつぶやきもそうで、もしあの彼と先があったとしたら……ってストーリーを考えると、結局破局するまでが見えるんですよね、ばーっと」
――――破局するんですか(笑)。
H 「あとこれも私は好きなんですけど、<どんな会話の最後にも「性的な意味で」ってつけると深刻感薄れる>。新宿で道に迷いすぎて待ち合わせ場所のレストランに行けなくて、この深刻な状況をどうふんわり伝えられるか考えている時に友人が『性的な』って言葉を使って全然別のツイートをしていたんです。それで、私の頭の中で勝手に、今の状況とくっつけて、『道に迷ってて遅れます、性的な意味で』って。言葉の組み合わせがきにいって」
――――でもこれ、相手が男の人だったらすごくドキドキしちゃいますよね。何かの比喩なのかなって(笑)。道に迷うっていうのは下着を着てないとかそういうメタファーなのか? みたいに。
H 「すべてに『性的な意味で』を付けると目の前に見える風景が、違う見え方をするのでは、と思いました。好きなんです、全然関係ない言葉同士を組み合わせたり、ぴったりする言葉を探すことが。本を読むことも、言葉の宝探しだと思います。自分の状況を的確に表した文を見つけると、すごくその本が特別なものに思えたり、作者に対して特別な思いを持ったりすると思うので、その宝探しを楽しめる本であったらいいなと思います」
「読書は言葉の宝探し」というはあちゅうさん。自身の著書も愛しそうに。(写真・中島慶子)
お話し中も「いいね」を押したくなるような、はあちゅうさんのインタビュー。はあちゅうさんの鋭いアンテナの秘密を探った後半に続きます!
今週の推し本
『疲れた日は頑張って生きた日 うつ姫のつぶやき日記』
はあちゅう 著
ページ数:192頁
ISBN:9784838728541
定価:1,296円 (税込)
発売:2016.05.19
ジャンル:エッセイ
[http://magazineworld.jp/books/paper/2854/]
ウェブサイト: http://magazineworld.jp/
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