「マネジメント=なんとかすること」。マルチタスクの鬼・高田敏志氏に聞く超仕事術
シングルタスクで悪いか!(あいさつ)
37歳になり、集中力の低下が顕著なサワヤマです。座り仕事は60分ぐらいでケツが痛くなり、気がついたらスマホのパスコードをタップ、hulu鑑賞に勤しんでおります(最近は「絶対に笑ってはいけない」シリーズをフルコンしております)。完全なるシングルタスクです。「一つの仕事すらこなせてないじゃないか」というご指摘は聞こえない仕様になっております。
一方、世の中にはマルチタスク(複数の仕事を同時並行でこなす)凄まじく優秀な方々がたくさんいます。「その仕事が両立するんですか???」と、はてなマークを3連打したくなるような方々が。今回紹介させていただくブラインドサッカー日本代表監督/株式会社アレナトーレ代表取締役の高田敏志さんは、まさにそういう方です。
高田さんの仕事は、現在抱えているだけでも(1)「ブラインドサッカー日本代表監督・部長」(2)『株式会社アレナトーレ代表取締役(アスリート・コーチのマネジメント)』 (3)『ITコンサルタント・プロジェクトマネジメント』 (4)『株式会社メンタリスタ(プロジェクトマネージャー)』 (5)『TKD GKアカデミー運営(コーチ兼任)』の少なくとも5つです。
アレナトーレ社は、スタッフを入れても20名前後という規模の会社です。そんな会社がどうやって世界的クラブ・FCバルセロナの公式施設でクリニックを開き、旅行大手H.I.S社と組み、契約するジャーナリスト(小澤一郎氏)を頻繁にテレビやラジオに露出させ、育成年代の指導者を中心に絶大な支持を集めるに至ったのか?その根幹には、高田さんのマルチタスクを完璧にこなすマネジメントスキルがあるに違いないと考え、インタビューを申し込ませていただきました。ぜひご覧ください。
5つのわらじの内訳は?
――改めて現在のお仕事をご紹介いただけますでしょうか。
高田:私はもともとはITのプロジェクトマネジメントやコンサルティング(システム開発・運用・保守)をやっていまして、現在はITの仕事をしながらその手法をサッカーの仕事に応用するという形をとっています。
まずはマネジメントですが、ジャーナリスト、プロ選手、GK(ゴールキーパー)コーチ、海外にいるサッカーコーチたちのマネジメント、クリニック開催などを担当しています。株式会社メンタリスタのマネジメントとしては、メンタルトレーニングコーチ・大儀見浩介さんの活動サポート。コンサル先企業や学校、クラブとの調整、書籍刊行における出版社との交渉などですね。さらに元々会社を作った動機として、GKスクールの運営があります。現在は関東のほか静岡県・石川県など全国展開させていただき、さらに私自身もGKコーチとして週1回は可能な限り現場に立っています。
ブラインドサッカー日本代表では、監督兼任で部長を務めています。最近は部長の仕事がメインで、事業計画・強化計画の策定、東京五輪に向けた会議などの出席、営業活動が仕事です。こちらは現在無償で行なっています。が、将来的にパラリンピック競技も選手の競技力向上を考えるとボランティアではなくプロの指導者によって運営される必要があると考えます。そのための原資を稼ぐために、私自身もセールスシートを持って営業しています。自分の指導者マネジメントのコンセプトとして、指導という対価に対して報酬を指導者に払う(スポーツ界にお金が回る)ことが重要だと考えているのでそれを実践しようと動いています。
――とんでもない業務量ですね。週40時間働くとして、内訳はどのようなものですか?
高田:1週間を40時間で計算すると現在ではITコンサルがメインで、半分の20時間ぐらいでしょうか。サッカー関係のマネジメントが残り18時間、GKスクールが1時間、バレンシア(スペイン)オフィスとのSkypeミーティングが1時間というところでしょうか。時期によってバランスは変わりますが、現在はこのような形です。
ITとサッカーの仕事には相乗効果があるから、1つに専念しない
――おそらく、ITコンサルの収益の方が圧倒的に大きいですよね?なぜITコンサルに集中されないのですか?
高田:よく言われます(笑)。スポーツ界にお金をきちんと流したいからですね。法人が責任を持ってお金を扱い、仕事をすすめる文化が会社設立時の2011年ではまだまだでした。サッカーコーチ、それもプロではなく育成年代のGKコーチのギャラ交渉をするような会社は、日本でも弊社ぐらいでしょう。有力な指導者であってもお金が稼げず、他の仕事に流れてしまう状況がありました。それを是正し、法人同士で対等に話ができるようにすることも設立の目的です。
ただITで収益を稼いでいるのは確かですが、サッカー事業は赤字ではありません。例えばあるGKコーチは私よりも良い家に住んでいて、この間は雑誌に特集されたほどです(笑)。そんなGKコーチは日本にはほとんどいないはずです。
弊社は2017年えひめ国体ターゲットエイジ(開催時の高校1年生)指導プロジェクトに取り組んでいますが、そこに海外のコーチを招へいしたり、ビジョンを策定したり。また、地方でクラブや施設を立ち上げるにあたり建設に関する業者やスクール形式の選定、貸し方など。分かる範囲は教え、不明な部分はスペシャリストを招へいしました。
スクール事業でも売上は非常に順調です。施設と売上に応じて使用料を上下してもらう契約を結んでいただいたことで、地域では破格となる安い値段での会費を提示できたりしています。そういう部分は、ITコンサルで培ったマネジメントをサッカーに活かせています。また、スポーツで学んだことをITに還元できてもいます。実は、ITに専念してもそんなに売上は変わらないと思います。この2分野には、相乗効果があると思います。
スタッフには全体像を伝え、モジュール化して分業すると効率的
――繁忙期が重なる場合は、どうやって乗り切っていますか?
高田:まずはすべて優先順位をつけます。お金もそうですがお客さんのニーズ、緊急性、要望など様々なことを勘案します。すべての仕事が重要なのは言うまでもないですが、人に振れるものは振りますね。それから、日中は人に会うことも多いので、朝と夜の時間を有効活用します。さらに、今はスタッフに対し仕事のフローを作り、ある程度時間が経ったところでデディケーション(任せること)します。メンバー内である程度回せるようになったら、さらに下に回しその人は別の仕事を担当してもらう。ボトルネックを作ると時間の損をすることもありますから、そうならないよう配慮しています。
――モジュール化ですね。メソッドを確立し、継承できる状態にし、単独でも動けるようにすると。
高田:まさにそうです。ステップが100あるとして、10~25ステップまで「ここはA君、ここはB君の担当」と割り振る時にも、AとBを繋ぐ全ステップについて最終的に把握できるよう教えます。プログラマーは、一部分だけを担当しているうちに「これは何のアウトプットのため?」と迷ってしまうことがあるんです。全体を把握させる段階を作ることで、大きな失敗を避けることができます。
小さな話ですが、請求書の作成一つとってもただ「作っておけ」と言うだけでは封筒に入れっぱなしで封印もしない、ということがあります。そうではなく「お客さんに配布される際、こういう形でお客さんに渡るぞ」と伝えておけば、綺麗に宛名を書く必要があるし、他の誰かに触られないよう封印をする必要があることもわかります。そこは普段からうるさく言っています。
――確かに「説明が長くてもいい、全体像を知りたい」と思った経験は何度もあります。
高田:若い人は頭がいいですから。彼らが中途半端な仕事をするなら、教える側に問題があるんですよ。サッカーと同じです(笑)。
マルチタスクを「なんとかする」のがマネジメントの役目
――それでもなおスケジュールが炎上したケースはありますか?
高田:ITのほうは特に多いですね(苦笑)。謝りに行くのが仕事になっている部分もあります。100%の仕事はないので、リスクをどこで取るかは普段からこだわっています。
炎上するケースでは、たいていプランニングに問題があります。例えばシステム開発では何月にリリース、20人体制でこのプログラムを作ってテストをする、と決めるわけですが、僕らには「それは絶対無理だ」とわかっていたりします。だけど、お客さんは予算ありき・スケジュールありきで注文してくることもある。その場合、「こういう可能性があります、なぜなら」と指摘し、炎上する可能性を予め指摘します。
それでも火を吹く場合はコンティンジェンシープラン(非常事態が発生した場合の対応策をまとめた計画)を作っておき、最初に「これはヤバいですよ」と一声かけておいたりします。そうすると次からこちらの要望が通りやすくなったり、他の案件でも「それはおそらくこうなります、こうしといたほうがいいです」と伝えることで信頼を得られるようになったりしますね。
マネジメントの役割は、私は「どうにかすること」だと思っています。英語でもmanage to~で「なんとか~する」じゃないですか。管理・コントロールすることがマネジメントではないと思います。
やりたくないことは、やらなくていい
――1つではなく複数の仕事をこなす醍醐味を教えてください。
高田:ある分野で得たナレッジを使って、別の分野にチャレンジできることかもしれません。ニーズやセンス、細かさはそれぞれの業界全て違います。トレンドが変わればニーズも変わり、自分の持っている手法がもう使えないということがあります。
私は、日本サッカーは世界にどんどん離されていってると思っています。年に数回、海外のグラスルーツからトップレベルまでの指導者やサッカー関係者と会い、指導の現場を見聞きすると日本が成長するスピードよりさらに早いスピードで成長しているように感じます。それでも世界に追いつくための指導者の熱意や学ぶ環境は整いつつありますし、参考のため他セミナーに勉強に行くこともあります。
例えば椅子の並び、向き、客の頭と頭の間から演者が見えるか、演者はどの立ち位置から喋ったほうがいいか、暑くなるので何人ぐらい集まったら冷房を使用するか、会場規模はどの程度が適切か……そういう細かい部分を見て、自分の知識がブラッシュアップされることは多いですね。
ただ、大切なのは、短期目標ではなく理念だと思います。長期目標を立てて逆算する手法だと、達成のためにはやりたくないことをやる必要も出てきます。弊社のように小さな会社に、その必要はないと思います。イヤなら辞めてもらってOK、やりたいことに共感して集まってもらっている会社ですから。誰かが独立したいと思えば、独立してもらったうえでその人が成功するように一緒に仕事をしていく。コーディネート、マネジメント業務にシフトしているのはそういう部分もありますね。
「ググってから来い!」
――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
高田:私自身GKだったので、人のミスをカバーすることが仕事でした。純粋にがむしゃらに、バカにされても人のためにやる気持ちを持つべきです。結果的に、そのほうが自分に返ってってくるものは大きいですね。
例えば昔は徹夜でプログラムを書いたりと、今なら労基局から指摘を受けてアウトになるようなことがありました。だけど、覚悟を持ってやれば家でもそういうことはできます。自分が勉強すれば、いいものをお客さんに提供したり、任せてくれた人に報いたり、あるいは部下のためになったりします。
あとは自ら調べる・勉強するクセをつけてほしいと思います。「ググってから来い」という子は私のところにもたくさん来ます。「世界に通用する指導者になりたい。来年スペインに留学したいので今はスペイン語を勉強している」と具体的なイメージをもって来る人もいれば、ノートも持たずメモも取らずボンヤリと話を聞きに来る人もいます。アドバイスしたくなるのは、やはり前者のようにしっかり下調べをしてくる人ですよね。
TwitterやFacebookで、自分の得意分野以外の人の情報を追うこともお薦めしたいです。サッカーだけでなくITや音楽やアイドルや(笑)、いろんなことを発信している人を追うことで「ああ、この人はこう思っているのか」と勉強したり。そうやって自分のインプットを豊かにしていくのが大事だと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。5つの仕事をITで学んだマネジメント手法で串刺しにし、他分野から学んだことをITにも還元する。全く違うように見えるタスクも、同じマネジメントの範疇としてクリアしてしまう。この柔軟な姿勢が、アレナトーレ社を影響力のある会社に育て上げた要因ではないかと、お話を伺っていて思いました。
10年~20年後、多くの方は職務としてマネジメントを経験することになると思います。その際、特に小さな複数のグループをマネジメントしていくうえで、高田さんの考え方は非常に参考になるのではないでしょうか。
取材・文:サワヤマダイスケ(澤山大輔)
1978年12月生まれ、編集者。フロムワン(サッカーキング運営会社)、スポーツナビ、livedoorなどを経て独立。サムライト株式会社所属。空手有段者、中学はバスケ。15歳の時、三浦知良のセリエA挑戦をきっかけにサッカーに鞍替え、未経験者にもかかわらず書籍十数冊に関わったり、編集・プロデュースした記事がヤフートップを何回か飾ったりした。「必死より必殺」をテーマにコンテンツ展開を行なう。最新の訳書「Mourinho ジョゼ・モウリーニョ自伝 」(東邦出版)が発売中。Twitter:@diceK_sawayama
撮影:鈴木健介
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