“アメリカ軍が空中に銀のテープを大量に投下した” 詩人・吉増剛造が語る、幼き日の想い出
現代日本を代表する先鋭的詩人・吉増剛造さん。77歳を迎えた現在も、詩の朗読パフォーマンス、自身の詩と組み合わせた写真表現や映像作品を制作するなど、国内外を問わず多彩な創作活動を繰り広げています。
その自伝的要素を多分に含んだ本書『我が詩的自伝 素手で焔をつかみとれ!』では、幼年期の記憶にはじまり、交友関係や読書歴、影響を受けたものなど、自らの歩んで来たこれまでの道のりを振り返りながら、いかに言語と格闘し、詩作を繰り広げてきたかについて語られていきます。
自らの詩作に影響したであろう出来事に関する、興味深いさまざまなエピソード。たとえば”空からぶらさがる母親”という作品を生み出すにいたった、その源には、戦時中、吉増さんが6歳ごろのとき、疎開先の和歌山で遭遇した出来事があったのではないかといいます。
「六歳のとき、疎開して行ってた和歌山の永穂で、恐らく何か電波を妨害するためなのでしょう、アメリカ軍が空中に銀のテープを大量に投下したんですよ。空から銀の紙が降ってくるの。和歌山平野、全体にね。銀のテープが空から降ってくるなんていうのは、五歳、六歳の子どもにとっては驚異的なことだったのね。(中略)だからその空っていうのが、空からぶら下がるって言って、そこは母親をつなげてるけど、あれは銀紙だ」(本書より)
一枚の写真のようにぱっととらえた、空中の銀紙という鮮烈な光景。そのイメージが身体のなかで変幻し、新たに詩として別の姿で立ち現れてきたのだという、詩の源にある衝動、生のエネルギーとも言うべきものが伝わってきます。
喜寿にして、「ついこの間、こんな年になってある人が好きになってそれでわかったんだけど、『ああ、俺にとって女っていうのはこういうふうだったか』と思って」(本書より)という吉増さん。
そのいつまでも鈍ることなく研ぎ澄まされた感性と、世界に対して開かれた情熱、探究心には驚かされるところも多いはず。来たる2016年6月から、東京国立近代美術館にて開催される回顧展の前に、その詩をめぐる半生を本書にて辿ってみてはいかがでしょうか。
■関連記事
『暮しの手帖』前編集長・松浦弥太郎さんが大切にしている200の言葉とは?
SNSは幸せくらべの場 漫画家・柴門ふみが考える「嫉妬の正体」
担当編集が明かす、イラストレーター・フジモトマサルさんが書店員から愛された理由とは
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。