わずか15分の野田首相「朝霞宿舎視察」リポート――「凍結」ではなく「中止」をという地元の声届かず

朝霞公務員宿舎問題

首相は朝霞宿舎の建設について5年凍結との指示を出したが、この「凍結」という言葉は、事業仕分けでも使われたトリック。地元で公務員宿舎建設に反対している人達にとっては、もっとも信じられない言葉だと言っていいだろう。事業仕分けでの「凍結」は、わずか一年で「凍結解除」され、反対意見を無視する形で再開した。また同じ誤ちを繰り返すのだろうか。

野田首相の車

野田首相による朝霞宿舎視察で感じた疑問

首相の視察で疑問に感じたところを簡単にまとめます。

【市民の声を無視】宿舎予定地内に入れたのは首相と担当の役人、そして官邸お抱えのマスコミのみ。長年この問題に取り組んできた市民の方々とフリー記者などメディア関係者は完全シャットアウトしての視察だった。朝霞市民が集まったゲートとは別の裏口から現場入りをし、市民の声を無視。官僚の説明をきくだけでは「視察」と言えないのではないか。

【「凍結」ではなく「中止」】地元や国民が何を求めているのか耳を傾けなかった結果、求められているのは「凍結」ではなく「中止」だということに気づかず、理解もしていない。そもそも解除の承認をおこなったのは当時財務大臣だった野田首相自身で、今回は振り出しに戻ったにすぎず、まったく前進していない。

【あまりにも下手な芝居】視察決定時点でとりやめの方向で固まっているだろうというのは、いい大人だったら誰にでもわかること。それなのに、まだ木々が残っている状態であるならまだしも、ほとんど木が伐り倒された何もない現地で土の上を歩いて「自分の中の腹は固めた」との首相発言は演出だとしても台本が悪すぎる。

【15分の滞在時間に関係ない話をする無神経さ】首相の現地滞在時間はわずか15分。わずかな滞在時間の間に「ぶら下がりをやめて会見をある程度の頻度でやる件」などまったく朝霞と関係ない話までしている。そんな時間があるなら地元朝霞市民の声をきくべき。朝霞まで来てそんなことを質問しているマスコミも非常識だしそんな質問に生真面目に答えている首相も無神経だ。

「凍結」ではなく「中止」を

市民の声を聞かない「視察」の滑稽さ

野田首相は一体なにをしに朝霞へやってきたのだろうか。

「(野党側の)指摘は真摯に受け止め、実際に現場に行って最終判断したい」野田首相は先週そう述べた。そして10月3日の午前、国家公務員宿舎建設の進む埼玉県朝霞市を「視察」に訪れた。しかし現地の滞在時間はわずか15分ほど。地元市民の声もきかずに首相は帰ってしまった。市民の声を無視するのであれば、それは「視察」とは呼べない。

スーツ姿の警察官と関東税務局

3日の朝、地元の「朝霞基地跡地利用市民連絡会」を中心として建設予定地の入り口にプラカードをもった人たち100名程が集まった。さらに沿道には市民100名程が見守っている。市民と主要テレビ局の取材班、スーツ姿の警護関係者と関東財務局の人たち、そしていつもここを散歩コースにしているというシベリアンハスキーと飼い主などが混然となりここで野田首相の到着を待った。

シベリアンハスキーも参加

連絡会代表の大野さんは、なんとか首相に市民の声をきいてもらおうと、入り口を固めている関東財務局の人たちに交渉していたが「市民は中へ入れません」「首相はみなさんとお話はしません」「騒がないようご配慮ください」などと表情を硬くして答えるのみだった。

関東財務局

首相到着まで2時間程待っただろうか。結局、野田首相は当初予定されていた市役所前の入り口ではなく、裏口から現地に入ったため、多くの市民は首相の乗った車すら見ることはできなかった。

朝霞公務員宿舎建設予定地

連絡会の大野さんは「なぜ地元朝霞市民の声をきこうとしないのか」「首相はなんのために朝霞に来たのか」と肩をおとしていた。「朝霞までわざわざでかけてきて、官僚の説明だけきいて帰るんだったら、官邸でやればいい話。ここまでやってきて市民の話をきかないのはおかしい」とも。

後の報道によれば首相は建設予定地で朝霞とはまったく関係のないマスコミからの「今後の首相会見の在り方」といった質問にも生真面目に答えていたそうだ。一体、たった15分の視察で、何をやっていたのか。そんなこと、官邸でやればよいのに。

扉は固く閉ざされていた

「凍結」ではなく「中止」を

結局、野田首相は「5年間の凍結」との方針を決め、安住財務大臣に指示したと報じられている。「凍結」という言葉は、事業仕分けでも使われた言葉で、要するに「先送りするけど結局はやるよ」という意味だ。「凍結」と「中止」はまったく意味が違う。野田首相は「凍結」という曖昧な言葉を使わず、はっきりと「中止」と述べて欲しい。9月1日に始まった工事で、建設予定地の森の木はあらかた伐り倒されてしまった。これはこのまま5年間放置するんだろうか。

抗議する市民

視察=「首相と記者クラブの大名行列」

今回、建設予定地の中には、首相と担当の役人と、お抱えの記者クラブだけが入れる形となっていた。地元で長年この問題に取り組んでいる市民の方々すら一歩も中には入れず、各局テレビクルーやフリーの取材者などもシャットアウトされた形での視察。当然ながら首相の顔すら見ることができず、メッセージを伝えることすらできない。要するに官邸お抱えのマスコミに官邸サイドがイメージするような映像を撮らせて、それをマスメディアを通じて発信する、ということをしたいのだろうが、正直、現地にきて木が伐り倒されてしまった後の整地された土の上を歩き官邸でもできるような話をすることに何の意味があるのだろう。視察を終えエンジンをふかしながら現地を後にした大名行列のような黒塗りの車列を見送りながら、「視察」ってなんのためにあるものなんだろうと改めて考えてしまった。

「これが首相の視察なのか」市民連絡会の大野さんコメント動画

「朝霞基地跡地利用市民連絡会」代表、大野さんの首相視察に対するコメント動画です。
http://www.youtube.com/watch?v=8AmxMDdzQpM [リンク]

●コメント書き起こし
――首相の顔はご覧になれましたか?

大野:いや、見れませんでした。大変残念です。こちらのゲートから入るというお話だったものですから、ここでお待ちをしたのですが、たいへん残念なことに、裏口の方から入られたんです。国民を避けた、市民を避けた。こういう姿勢は、大変疑問に感じますね。残念です。

――今の率直なお気持ちを教えてください

大野:これが野田さんの「視察」なのか。視察というのは、国民の声、地元の声をきいて、どうするか判断なさることなんじゃないかと思うんですね。今日(野田首相に)説明をしたのは、財務省の官僚なんだと思います。官僚の説明だったら、別にここへ来なくても、財務省にきけば良い話ですから。ここに来た目的ってのは、これじゃなんだかわかりませんよね。

――今回、野田首相は市民の方とお話は一切されなかったんですよね

大野:なかったですね、たいへん残念です。今日は2時間以上みなさんお待ちになって、野田さんに一言伝えたい、ということで来てるんですけども、それなのに市民との接触を避けて、市民の声をきこうとしない。非常に疑問に思います。

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

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